エピローグ 勝利の宴と新たな旅へ
38. 勝利の宴と新たな街への出発
レイテスの勝利を祝う宴は三日三晩続いた。
私の屋台もフル稼働して可能な限り料理を供給し続けたけど、やっぱり人数と量はどうにもならない。
見張りに付いていた兵士たちも交代で私の露店にやってきてTボーンステーキを食べていくから売れ行きは抜群だ。
決して安い食材じゃないけど、もらった金貨の数を考えれば安いなんてものじゃない。
ついでに、新しい設備も増設しちゃったしね!
「おまちどおさまです! 唐揚げ、お持ちしました!」
「お、待ってました! これが酒とよく合うんだよ!」
「ようやくこのテーブルの番か。やっぱりテーブルが多いと作るのも大変だな」
「揚げ物料理はそれ専用の油を大量に使いますからね。仕方がないですよ」
そう、揚げ物用の設備『フライヤー』である。
これによって揚げ物ができるようになったのだ!
2台設置したので唐揚げを急ピッチで作り続けているが、それでも供給が追いつかない。
フライヤーでの料理と並行してカレーやハヤシライスも提供しているため、コンロンは本当に大忙しだ。
あと、子供たちにはクレープも配っている。
戦争状況で苦しい思いをしていた心を少しでも和らげてくれるといいな。
「大盛り上がりですね、ミリアさん」
「あ、エリンシア様。見ての通り、大忙しです」
「そのようですね。コンロンがまだレイテスに残ってくれていたこと、感謝いたします」
「いえ、私たちもできることをしたまでですから」
「そうですか。……それにしても美味しそうなお肉です。名はなんと?」
「Tボーンステーキですね。骨を切り開いたとき、左右の肉を残しておいてそれを同時に味わうお肉、らしいです。右と左で肉質が変わって美味しいんですよ」
「そうですのね! では、そのTボーンステーキをひとつくださいな」
「はい! いまから焼きますのでしばらくお待ちを!」
エリンシア様はひとつ頷くと、護衛の方々とともにほかのテーブルにも声をかけにいった。
陣中見舞い……とは違うんだろうけど、この場所もある程度安全が確保されたから、市民の様子を見るためにやってきたのかな?
まあ、私はいま受けた注文も含めて料理を作るのに手一杯なんだけど!
肉料理しか提供できないのがあれだ!
サラダとかも提供したい!
でも、そんな暇はない!
料理人としての心が揺らぐ!
いつの間にか、私も料理人としての生き方が当たり前になっちゃったなぁ。
元は一攫千金を夢見た冒険者見習いだったんだけど。
あの遺跡でコンロンを見つけていなかったら、私はいまごろどうなっていたんだろう?
どこかで野垂れ死んでたのかな?
「マスター! 手が止まってますよ!」
「え、ああ、ごめん、サクラちゃん!」
「しっかりしてください、マスター。まだまだ料理が足りていないんですから!」
「う、うん、そうだよね。がんばらなくちゃね!」
「はい! がんばりましょう!」
あーやめだやめだ。
コンロンを見つけられなかったときのことを考えても仕方がない。
いまは目の前にある大量の料理をさばくことに集中しないと。
あ、こっちの唐揚げは2度目の揚げが終わった!
これで提供できる!
「グリッド君、唐揚げ、できたよ!」
「はい、いま行きます!」
こんな感じでレイテスの街は昼も夜も大賑わい。
城からも備蓄が提供されているけど、やっぱり量が足りなくて私のお店が大量に提供しているから私の負担が多くなっちゃうんだよね。
Tボーンステーキとか出所を明かせない肉は、ほかのお店に任せられないし。
本当に秘密の多い店だ。
三日三晩続いた宴会も4日目になればみんな落ち着き、それぞれの家の片付けに戻っていった。
兵士も同行して敵兵が隠れていないか確認して回ったみたいだけど、隠れていた敵兵はいないみたい。
本体が降伏したときにすべての敵兵も降伏してくれていたみたいだ。
そして戦闘終了から10日後、いよいよ外部への門が開かれた。
これで私たちも次の街へ出発できる!
兵士たちからは兵士たちが街道の安全を確認してから行った方がいいといわれた。
でも、コンロンの装備ならへっちゃらだもんね!
ファムさんも後押ししてくれたし、無事に出発できそう!
その前にレイテスの城に呼ばれてエリンシア様と会うことになったけど。
「ミリアさん、やはり行ってしまうのですね」
「はい。私たちはあくまでも旅する露店商ですから」
「もしよろしければレイテスに店を開いてもらっても……いえ、さすがに無理がありますか」
「申し訳ありません。さすがに、いまはまだどこかの街に腰を落ち着ける予定はございません」
エリンシア様も少し気落ちした顔をしているが、こればかりは譲れない。
私はもっと広い世界を旅してもっといろんな人たちと交流してみたい。
それがどんなに大変だろうと成し遂げてみせる!
「わかりました。……最後にクレープを作ってはもらえませんか?」
「クレープ、ですか?」
「はい。屋台で初めて食べたときの感動がいまだに忘れられなくて」
「わかりました。いま焼いて……」
「いえ、私も行きます。焼きたてを食べたいのです」
いいのかなと思いファムさんに視線をやると、頷いてくれた。
どうやら問題ないらしい。
そのあと、エリンシア様に最後のクレープを味わってもらった。
果物はバナナのほかにもいろいろな果物をあしらったスペシャルトッピングだ。
ほろ苦いチョコソースも適量かけたそのクレープを、エリンシア様は味わいながら食べてくれた。
これで、やり残したことはないだろう。
名残惜しそうなエリンシア様に別れを告げ、私たちはレイテスの街をあとにする。
次はどの街に向かおうかな。
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□■□■エリンシア
ミリアさんたちは行ってしまった。
これが今生の別れとは限らないけど、しばらく会うことはないだろう。
ああ、最後に食べたクレープ、本当に美味しかったな。
「ミリア様、本当に行かせてもよろしかったのですか?」
私にファムが問いかけてくる。
でも、私は答えずにレイテスの空を見上げていた。
「冒険者が急激に強くなって参戦したのも、おそらくはコンロンの料理になにか秘密があるからでしょう。それを……」
「いいのよ、ファム。彼女たちは私たちを助けてくれた恩人。それだけで十分なの」
「……はい。出過ぎた口を利きました」
「さて、私たちのやることは多いわ。まずは、今回捕まえた将軍を引き連れてお父様の元へ行き、お姉様に引導を渡さないと」
「そうですね。さすがに今回の件は度が過ぎています」
「そのあとは、レイテスに戻ってきて復興作業。気が遠くなりそう」
「大丈夫です。皆が支えてくれますよ」
「ええ。ファムもお願いね」
レイテスの空は青く澄み渡っている。
願わくば、こんな日が続きますように。
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□■□■ミリア
レイテスの街を出発した私たちだけど、特に行く街を決めてなかった。
レイテスに留まっていた期間が長すぎたため、コンロンの地図には非常識なまでに広い範囲の地図が表示されている。
これって国が持っている地図よりも細かくて正確なんじゃないかな?
「ミリア、次に行く場所は決めてる?」
「ううん。どこかいい場所はあるの、リコイルちゃん?」
「ここからだと、国境の街が近い。国を渡るべき」
国を渡るか……。
確かに、私たちはこの国でやり過ぎたかもしれない。
レイテスでは出所不明の肉を大量に振る舞ってしまったし。
それに外国っていうのも興味があるしね!
「わかった、その国境の街に行こう!」
「うん。方角は……コンロンの地図だとこっち」
「ふんふん。次の曲がり角を右手か。道を間違えないようにしなくちゃね!」
どうせ私たちの旅はあてなんてない。
どこに行くのだって気分次第だ。
今度はどんな街にたどり着くのかな!
わくわくしちゃう!
キッチンカー『コンロン』と行く私の旅料理露店 ~特別な食材でパワーアップ!?~ あきさけ @akisake
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