37. コンロン流の戦い

「さあ、戦いの前に腹ごしらえはいかが! 冷えたお酒もあるよ!」


 私は人だかりに向かって声を張り上げる。

 そうすると当然、私たちは注目されるわけだ。

 よし、ここからが本番!


「お嬢ちゃん、腹ごしらえって言っても食材はあるのか?」


「とっておきのお肉がまだ残ってますよ! あと、美味しいお酒も!」


 私は鉄板で焼いている豚ロース肉を指し示す。

 今回は少々厚めに切ったトンテキだ。

 鉄板を使っているのは複数枚を同時に焼くため。

 見た目も豪快でインパクトがある。

 もうちょっとで火が通るから、これに塩胡椒を振りかけて特製ソースをかければできあがり!


「……本当に美味そうな肉だな」


「美味しいですよ。オーク肉と似ていますけど、オーク肉よりも柔らかくて脂身も甘いです」


「わかった、一枚くれ。いくらだ?」


「この状況ですからお代はいりません。皆さんもじゃんじゃん食べてください!」


 私の声にどよめきが起きる。

 ここしばらくは配給だけで過ごしてきた市民にとって私の作る食事はごちそうに思えるだろう。

 それが狙いだ。


「このあとTボーンステーキも焼きますから、そちらも食べていってくださいね!」


「いろいろと出してくれるみたいだがいいのかよ。その肉、安くはないだろう?」


「いいんですよ、これが私なりの戦い方ですから!」


 男性冒険者はわけがわからないという顔をするけど、これが正真正銘私の戦い方だ。

 豚ロース肉は筋力を、Tボーンステーキは筋力と素早さが上がる。

 さらに、ここにお酒を追加して……。


「はい! 冷えたビールです! ちょっと酒精が強いので気を付けて飲んでくださいね!」


「お、おう。ッかーっ! うめえ! なんだ、このエール!」


「特製のお酒ですよ。いざという時のためにとっておきました」


 とっておいたというか、さっき機能追加で『ビアサーバー』を購入したんだけどね。

 結構高かったけど、これがあれば無制限にビールが取り出せるという優れものだ。

 ちなみにビールの効果は『ほかの食材で上がった能力を3倍にする』というもの。

 つまり、筋力と素早さがとても上がる。


 ビールの時間制限は短めだが、それでもいまからなら日没までは持つだろう。

 日没になればさすがに帰ってくるだろうから、あまり心配はしていない。

 さて、私もじゃんじゃん焼いていこう!



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

□■□■とある冒険者



 あの避難していた屋台のおかげでたらふく食べて美味しい酒も飲めた。

 これでこの世に未練はねぇ。

 ほかの連中だって決死の覚悟で今回の戦にあたる。

 さて、死ぬ前に一花咲かせるか!


「おい! 救援に来たぞ!」


「なっ!? 冒険者か!」


「ああ。黙って殺されるのを待つわけにもいかねぇ!」


「それは助かるが……本当にいいのか?」


「構わん、さっさと門を開けろ!」


「わかった。死ぬんじゃないぞ」


 門衛が第4門の非常口を開けた。

 そこから俺たちは一気にかけ出していく。

 駆け出していくが……俺たちってこんなに足が速かったか?


「おい、なんだか足が速くないか?」


「俺もそんな気がする。気のせいじゃなかったのか?」


「どっちでもいいさ。足が速いならそれだけ敵をおちょくれるってもんだ!」


 俺たちは第3門まで一気に駆け抜け、そこでも交渉して門を開いてもらう。

 さあ、ここからは戦場だ!


 兵士たちの話だと、街にいるレイテスの兵士は、識別のため銀のガントレットを装備しているそうだ。

 俺たちが狙えばいいのは黒いガントレットの連中、わかりやすくて手間が省ける。


「お前ら、必ず敵ひとりに3人でかかれ! 油断するんじゃないぞ!」


「お前こそ! 生きて帰ってまた美味い飯を食うんだ!」


「未練なんてないつもりだったんだがな! あの飯がまた食いたくなっちまった!」


 ここからは各班に分かれての行動だ。

 それぞれバラバラに散って敵を討つ。

 圧倒的に人数は足りていないだろうが、対人戦の専門家である兵士に勝つにはこの方法しかないからな。


「敵を見つけたぞ! レイテスの兵士と交戦している!」


「レイテスの兵士を援護しろ! 俺たちが倒せなくてもレイテスの兵士がなんとかしてくれる」


 俺たちはレイテスの兵士と敵兵が戦闘しているところに出くわした。

 数はレイテス側が3で敵側が5、レイテスの兵士が圧倒的に不利だ。

 ここに俺たちが加わることで、どこまで力になれるか。

 普段、モンスター相手に切った張ったしている腕の見せ所ってな!


「レイテス兵! 援護するぞ!」


「なに!? 冒険者か!」


「冒険者風情が出しゃばるとは……構わん、殺せ!」


 あちらさんも俺たちを認識したようだ。

 ここからが本番ってな。

 それじゃ、軽く一当て……って!?


「なんだ!?」


「クソ!? この冒険者、強い! グワァッ!」


 よくわからんが、俺の剣が敵兵の剣を軽々とはじき飛ばしてしまった。

 そこをすかさずレイテスの兵士が攻め、敵兵をひとり葬った。

 周りの状況を確認すれば、皆同じように敵兵士の剣や盾を弾き飛ばしている。

 俺たち、こんなに強かったか?


「お前で最後だな」


「おのれ……でぇぇい!」


 最後の敵兵士がやけくそ気味に斬りかかってきたが、俺はその剣を軽く弾き飛ばし、相手が怯んだところを首めがけて切りつけ倒すことができた。

 俺たちの身になにが起こってるんだ?


「助かった、冒険者たち。我々はこれから別の場所に救援に向かう。一緒に来てくれないか?」


「構わねぇよ。俺たちだってレイテスを守りに来たんだ」


「それは心強い。ともにレイテスを守る同志として戦おう」


「ああ。今回は報酬がどうのって話は抜きだ。お互い、この戦を勝って生き残ろうぜ」


 この日、日没まで続いた戦いで俺たちは大きな戦果を上げることができた。

 ほとんどの敵は第2門まで退いたって話だし、このまま盛り返せるかもな!


 それにしても、今日やたらと調子が良かったのはなんでだ?

 美味い飯を食えたからか?

 ……いや、まさかな。



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

□■□■ミリア



 私たちの支援は5日にわたって続き、その結果、この戦はレイテス軍の勝利に終わった。

 4日目までに一番外の街壁を取り戻したレイテスの兵士たちは、5日目の朝からレイテス正面に陣取っていた敵本体に突撃、相手の注意がそちらに向いているところを敵兵に扮装した冒険者たちが敵隊長格を次々と討ち取り、最終的には敵大将を生け捕りにして相手を全面降伏まで追い込んだそうだ。

 こっそり支援していた身としては嬉しい。


 その日だが、レイテス兵士はともかく冒険者たちは宴会モードとなったけど、やっぱりよく食べるね。

 豚肉とか牛肉とかを奮発して大量に焼いていたのに、料理ができるそばから消えていったよ。

 ともかく、敵兵に勝って平和が取り戻せそうでよかったな。

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