第七章 レイテス攻防戦
36. 侵攻軍、襲来
私たちは仕方なくレイテスの街に舞い戻った。
そこで衛兵たちに倒した兵士たちの死体と装備、倒した時の状況などを説明すると渋い顔をされる。
まあ、そうなるよね。
「弱ったな。この家紋はコーラル伯爵家ウェリン様の紋章だ。まさか、ウェリン様が直接攻勢に出ていようとは」
「あの、そんなにまずいことなんですか?」
「市井の者に語るべきことではないが、大問題だとは伝えておこう。悪いがすぐにこの街から出立するのは諦めてくれ。ウェリン様の手の者が周辺にいるとなると、安全が保証できないからな」
結局、この街から離れることはできないのか。
完全にお貴族様の政争に巻き込まれてしまった。
どうにかしてやり過ごすにも手段がない。
嵐が過ぎ去るのを待つしかないか。
とりあえず私たちは解放されたので、街にある駐車場で休むことにした。
宿を取ることも考えたけど、いざという時コンロンに乗っていないと危ないし、コンロンの車内の方が快適かもしれない。
コンロンの中での暮らしにも慣れてきたからね。
私たちだけが食べる分には食材販売機も使えるから、食糧にも困らない。
気長に待つことだってできるんだ。
焦らずに待つことにしよう。
そう考えて車中泊を続けること5日、事態は大きく動いた。
ウェリン様の軍勢がレイテスに攻め込んできたらしい。
いまのところ動きはないようだが、完全に不意打ちであり、宣戦布告もない。
かなりの大群でやってきているらしいので、ネズミ一匹逃がすつもりはないのだろう。
本当に厄介なことに巻き込まれてしまったな。
「ミリア、これからどうするの?」
心配げな表情でリコイルちゃんが聞いてくる。
これからか、どうしたものかな。
「どうするか、か。どうしようもないのが正直な感想だよね。コンロンはあくまでキッチンカー、屋台をするための魔導車で戦闘は専門じゃないから」
「いざとなったらシールドを張って逃げ出す?」
「それしかないかな。シールドを破られない限り、敵軍を押しのけて進めるわけだし、門が開いてればどうとでもなるよ」
そう、門が開いていればどうとでもなるのだ。
ただ、その時は、おそらくレイテスが攻め落とされたときであり、最悪の状況だろう。
場合によっては門をすべて破壊されて逃げ出せないこともありうる。
そんなとき、どうすればいいかも考えておかなければならないよね。
「主様。いざとなればサクラの魔法で一気に逃げるのがよろしいかと」
「サクラちゃんの魔法ってそんなに強いの?」
「この街の街壁程度であれば破壊できます。この街が落とされた場合、壁を突き破ってでも逃げ出すことは可能です」
グリッド君はいままでもサクラちゃんの魔法が強いと教えてくれていたけど、そこまでだったんだ。
あれ、それなら外にいる敵兵も倒せたりする?
「すべて倒せるでしょうが、それは最終手段ですね。貴族の前でサクラの魔法を見せるのはお勧めしません。サクラを狙い、どこまでも追いかけてくるでしょう」
うーん、やっぱりそうか。
ちなみに、このことにはリコイルちゃんも賛成で、たとえ本当に敵軍をまとめて倒せるとしても使わない方がいいと念を押された。
貴族たちにしてみれば、それほどの魔術師は手元に置いておきたいし、手元に置けないなら暗殺するだろうと。
今後も安全に暮らしたいなら、誰が使ったかわからないような状況になってから使うべきらしい。
レイテスが陥落してから魔法を使うことにすると、レイテスの民は助けられないかもしれないけどサクラちゃんの身は守れる。
私はどうしてもサクラちゃんを優先したい。
非情かもしれないが、私はサクラちゃんを守る。
翌日、本格的に戦闘が始まったらしい。
一番外側にある街壁では、激しい戦いが繰り広げられているそうだ。
レイテスに何重もの街壁があるのは敵も承知のこと。
もちろんそれを打ち破るための大砲や破城槌なども用意されているらしい。
あくまで伝聞というか噂話でしかないので詳細は不明だ。
ただ、激戦が繰り広げられていることだけは確かみたい。
3日後、最初の街壁が破られたと報せが入った。
レイテス市民はすでに4番目の街壁内に避難が終わっているため、大きな問題はないがそれでも壁がひとつ落ちたということは大きな不安材料になる。
街の人たちにとってレイテスの周りを囲んでいる壁はレイテスの誇りであり、心の支えなのだろう。
それからしばらくの間は膠着状態が続いたようだ。
2番目の街壁は一番外の街壁のすぐそばのため、大砲が上手く機能せず、破城槌を持ち込もうとしてもレイテスの兵士に阻まれてしまうようだ。
それでも押され気味だと噂が立っているし、かなり苦戦しているみたい。
最初の壁が落ちてから10日後、ついに2つ目の壁も落ちたと報告があった。
それにともない、私たち一般市民も5番目の街壁内、つまり城のある領域内へと避難するよう命じられる。
ついにあとがなくなってきたか……。
「もう我慢できねぇ! 俺は打って出るぜ!」
市民の中から勇ましい声が聞こえてきた。
グリッド君に様子を見にいってもらうと、冒険者たちがこの状況を打破すべく動こうとしているようだ。
ただ、リコイルちゃんによれば、普通の戦に冒険者が参加することはまずあり得ないらしい。
冒険者が戦って勝っても報奨金が出るとは限らないし、負傷したときの見舞金の保証もない。
さらに、冒険者であっても戦わなければ扱いは一般市民に準じるみたいだ。
冒険者が戦に参加するのは、あくまで自己責任の上での話だ。
だが、今回は少々毛色が違う。
敵勢力の目的は市民の虐殺まで含めた殲滅戦だろうし、まだ勝ち目がある間に蜂起しているべきだという考えによるものだ。
確かにその考えはあっていると思う。
でも、だからといって正規の軍人相手に冒険者がどこまで戦えるかは謎だ。
かといって、私たちが戦いに参加するのは問題だし、どうしたものか。
「主様、ここはひとつ彼らの手助けをしてあげましょう」
どうするべきか考え込んでいると、グリッド君から提案を受ける。
一体なんだろう?
「手助け?」
「はい。コンロンにしかできない、コンロン流の手助けですよ」
コンロンにしかできない……ああ、そういうことか!
幸い資金はふんだんにあるし、景気よくぱーっといっちゃいますか!
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