35. 謎の兵士の襲撃
もらう物と渡す物を交換し終えた私たちはレイテスの城をあとにした。
エリンシア様にあいさつもしないでいなくなるのは不義理かと思ったけど、仕方がないだろう。
あちらだってこれだけのことをした相手とどう顔をあわせればいいかわからないかもしれない。
後味は悪いけど、最善の決断だと思う。
城壁を抜けレイテス市街まで降りてきたんだけど、本当になんというか活力がない。
どの街でも出ていそうな露店が見当たらないんだ。
そこまで食糧事情が切迫しているのかと思いきや、料理店は普通に開いている。
なんというか、チグハグなんだよね。
どういうことだろう?
「ミリア、この街のことを考え前にこの街を出ないと」
「あ、うん、わかった」
私たちはこの街を出る準備として周辺の情報を買うため冒険者ギルドへとやってくる。
だけど、冒険者ギルドは昼間だというのに、たくさんの冒険者がいて酒盛りをしていた。
これってよくあることなのかな?
「……なんで、こんな時間から酒盛り?」
「あ、やっぱり普通じゃないんだね、リコイルちゃん」
「普通じゃない。この時間帯なら、朝貼り出された依頼を受けにいっているはず」
リコイルちゃんは冷めた目で冒険者ギルドの酒場を見渡し、そのまま依頼票が貼り付けられる掲示板を見た。
私も釣られて見たんだけど、そこには依頼票が一枚も貼られていない。
これってよくあることなんだろうか?
「ねえ、リコイルちゃん」
「普通は依頼がすべてなくなるなんてあり得ない」
「あ、やっぱり」
「これだと常設依頼も出していないことになる。一体なにが?」
ある種不気味に感じ、ギルド職員に話を聞くと理由を説明された。
ここしばらく、街を出た冒険者たちが行方不明になっているのだと。
護衛依頼で出かけた冒険者だけではなく、森などに狩りへ出かけた冒険者も戻っていないそうだ。
そのため商人たちも気味悪がって護衛依頼を発行しないし、冒険者ギルドとしても異変の原因がわかるまではうかつに手を出せないでいるようだ。
まあ、原因がわからないんじゃどうしようもないよね。
でも、私たちはこの街を出ていきたいんだから、なにか情報がないか話を聞かないと。
「そうですね。街北西部に抜ける街道は比較的モンスターの目撃情報がありませんでした。いまでも少ないのかは不明ですが、そこにかけるしかないでしょう」
街の北西部に抜ける道っていうと、国境方面に抜ける道か……。
お貴族様関連で揉めたばかりだし、国を移るのもいいかもしれない。
よし、この道を行くとしよう。
コンロンに戻り、経路を見てみると、わりと見晴らしのいい平原が続くみたいだ。
これなら安全……かもしれない。
だけど、街を出ていこうとすると衛兵たちに止められてしまう。
いまは危ないから街の外には出ない方がいいと。
「ええと、これでも私たち結構強いですよ? 金の冒険者も護衛に付いていますし」
「それでも、危ないものは危ないんだ。みすみす被害者を増やすわけにはいかない」
この衛兵、仕事熱心なだけなんだよね。
それでも私たちは通りたいんだけどな。
「なにを騒いでいる」
やってきたのは少し立派な装備を身に着けた衛兵だ。
この騒ぎを聞きつけてやってきたみたい。
「これは衛兵長殿。この者たちが街の外に行きたいと言っておりまして」
「街の外か……私としても賛同しかねるな。冒険者のひとりすら戻ってこない以上、あまりにも危険すぎる」
「そこをなんとかお願いできませんか? 金の冒険者の護衛もいますので」
「金の冒険者?」
「私。これが冒険者証」
リコイルちゃんが胸を張って首から下げている冒険者証をみせる。
衛兵長はその冒険者証とリコイルちゃんの間で視線を何度も往復させて驚いているようだ。
まあ、リコイルちゃんが金の冒険者だということを信じられないのはわかる。
「……本当に金の冒険者のようだな」
「当然。これで通してくれる気になった?」
「それでも危険なのだが……異変があったらすぐに戻ってくること。それが条件だ」
「わかった。偵察も兼ねてだね」
「すまないな。我々兵士も偵察に出てはいるんだが、誰も帰ってこないのだ」
うわ、それって本当に危ないってことじゃないかな。
そんな街からは早く出ていきたいよ。
ともかく、通る許可は出たので門を開けてもらい街門の外へと出た。
街門の周辺だと特に変わった様子は見かけられないんだけど。
「リコイルちゃん、なにかいる?」
「なんの気配も感じない。とりあえず、先に進むべき」
「わかった。気を付けてね」
「それはこっちのセリフ」
ああ、私が運転するんだから私が気を付けなくちゃいけないのか。
ともかく、向かうは街の北西方面にある道だ。
街の周囲を回る限りでは特に変わったことはない。
北西方面への街道までたどり着いたのでハンドルを切り、そちらの街道へと向かう。
いまのところ順調である。
「うーん、なんの気配も感じないんだけどなぁ」
「うん。一体なにが起こっているの?」
「リコイルちゃんでもわからないか」
いぶかしげに眉を寄せるリコイルちゃんもかわいい。
そんなことはどうでもよくて、コンロンを走らせることに集中していると、レイテスが見えなくなった頃、丘の下あたりになにかが見えた。
リコイルちゃんも真剣な目つきに変わり、グリッド君も臨戦態勢を整える。
一体、あれはなに?
「リコイルちゃん、近づいてみる?」
「危険かもしれないけど、近づくのが賢明。状況が少しでもわかれば対処のしようがある」
「わかった。ゆっくり近づいていくね」
私は徐行運転で丘の下にあるなにかへと接近していく。
途中、罠のような物はなく、丘の下にある物の正体もわかった。
これ、破壊された馬車だ。
それも1台だけでなく何台も壊されて積み上げられている。
誰がこんなことを?
そのかたまりを不気味に感じて引き返そうとしたその時、コンロンの車体にガガガンと硬いものが連続で当たる音がした。
コンロンは事前に結界を張ってくれたみたいで無事だったけど、いまもなにかが当たる音は鳴り止まない。
そして、それは車体側面、次の丘の上からの攻撃のようだ。
「これは……魔道銃!」
「リコイルちゃん、わかるの?」
「うん。魔道銃の攻撃音に似ている。最新式のものじゃないみたいだけど」
魔道銃か……。
そうなると、人の手によるものだよね。
「引き返した方がいいと思う?」
「できれば証拠がほしい。一当てできる?」
「うーん。コンロン、いけそう?」
『問題ない。いつでもいける』
コンロンもやる気のようだ。
それなら心配ないかな。
ハンドルを切って車体を丘の上に向け、アクセルを踏み込み一気に丘を駆け上がって行く。
丘を上がる途中までは魔道銃のものと思われる攻撃音が続いていたけど、それが通用せず丘の上まで駆け上がってくるところを確認すると、攻撃はやんだ。
そして、丘の上まで登り切ると、前方と左右三方向に分かれた大量の兵士たちが魔道銃をこちらに向けている。
これ、危険なやつ!
「撃て! 相手の装甲がいくら優れていようとも、この距離での集中砲火は耐えられまい!」
そこからは魔法銃が結界に当たるガガン、ガガガンという音が鳴り響き続けた。
そして、それが止まると、土埃の先から兵士たちが見えてくる。
表情はよく見えないけど、かなり動揺しているようだ。
「な、馬鹿な。この数の魔道銃の一斉攻撃を耐えるとは……」
「グリッド、いま」
「はい!」
相手が呆然とした隙を見逃さず、リコイルちゃんとグリッド君がコンロンから飛び出して敵兵士をなぎ払う。
どちらも容赦なく攻撃しているし、相手は死んでいるんじゃないかな?
「くっ、この化け物め! 総員、退却!」
「逃がすと思う?」
「ひっ!?」
敵の隊長らしき男が退却の指示を出したけど間に合わず、リコイルちゃんに真っ二つにされた。
ほかの兵士たちもグリッド君の活躍により、全員倒れているし、これで問題はないだろう。
さて、この状況、どうしたものか。
「ミリア。面倒だけど、これはレイテスに戻って報告すべき」
「だよね。死体はどうするの? 装備だけ剥ぎ取っていく?」
「私のマジックバッグなら死体も入る。それでまとめて運ぶ」
死体もマジックバッグに入るのか……。
モンスターの死骸も入るわけだしおかしくはないけど、生理的に嫌じゃないのかな?
それとも、その辺の感覚も冒険者として活動していると麻痺してくるとか?
うーん、そんなことを悩んでいても仕方がない。
死体の回収が終わったらレイテスまで戻ろう。
どう考えても陰謀の予感がするけど!
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