あとがき

 このような思い出を今更何故?書き記そうと云う気になったか、その理由を述べよう。

 平成十一年の大晦日、紅白歌合戦で由紀さおり・安田祥子姉妹が『故郷』を合唱した。

 その年の暮、名古屋、栄町地下街のロータリーでモーターショウが開催された。その時のゲストに由紀さおりが出演していた。間近でみる歌手由紀さおりは、ふだんテレビで見かけた姿よりなにかひょうきんで面白くオーラがただよう女性にみえた。その余韻もさめやらぬうち、この歌を聴き、ふと私の故郷、『上州』での出来事を思い出して、いたく感動した。それと相俟って、驚いたことは、伴奏のピアノを弾いていた男は、高校の同級生、塚田ではないか? 彼は、芸大を出て確か東京で音楽塾をやっていると訊いてはいたが。

 更に驚いたことは、その後、会社で呑み仲間の建築の佃が大学卒業後、由紀さおりの付き人を長年やっていたとの報告を受けたからである。彼女の出身地が群馬県とはそのとき初めて訊いた話である。十八歳で故郷を離れた私は、この歳まで仕事柄、全国津々浦々に公共施設を数多く構築することに貢献してきたものの、こと故郷には何一つ尽くしたことはなかった。今も沖縄で浄化センターの工事に従事している。

 今更、彼女のような有名人にはとてもなれぬものの、あれから二十年経った今日、現在、群馬県で暮らしている方々の大部分が、忘れてしまったり知らずにいる戦後の故郷の経緯を川という題材で、私なりに精一杯紹介したく、ここに綴った次第です。


                   

 令和 元年 五月二十五日

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故郷の川狩り 観音寺隼人 @kannonjihayato

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