マッチポンプだろ
「
武器を持ってない俺じゃあ防げない。
そう思った俺は、一か八かではあるけど、何か攻撃をされる前に殺す選択肢を取った。
どれだけ強い攻撃であっても、殺しさえすればなんの意味もないからな。
……まぁ、即死させられるような技じゃないから、相打ちになりそうな予感をひしひしと感じるけど、仕方ないな。
もしも生き残れたなら、次からは武器をちゃんと持ち歩くようにしよう。
「がはっ」
俺は防御を捨てたんだから、当然ながら攻撃を食らう。
次の瞬間には、俺の腹に風穴が空いていた。
それと同時に、相手の女の子も俺の技で倒れるのが見えた。
まだ死んでない。それは分かるが、もう相手も動けない。
だったら、俺は自分の使っている技……
少なくとも、俺は寿命以外で死ぬ気はない。さっきは相打ちで仕方ないとか思ってたけど、死ぬ気なんてないんだよ。
幸い、腹に穴が空いただけで、心臓や肺は無事だ。……胃は逝かれてるだろうけど、回復できるレベルだ。
落ち着け、落ち着いて、回復するんだ。
痛みで嫌な汗が止まらないけど、大丈夫だ。
と言うか、誰か人は来ないのか? こんなに大きな音を鳴らしてるのに、なんで誰も来ないんだよ。
まさかとは思うけど、魔族の世界ではこんなのよくあることで無視されてるのか?
……ありがたいのか、ありがたくないのか、分からないな。
もしも誰か人が来たら助けてくれる可能性も無いとは言えないけど、俺は人間だし、まだ仲間だと認めて貰えてない可能性の方が高いし、最悪そのまま殺される可能性だってある。だからこそ、分からないな。
変なことを考えて意識を保とうとしていたんだが、そろそろやばいな。
だんだんと意識が朦朧としてきた。
どう考えても血を流しすぎたな。
……はぁ。武器さえ持ってれば、絶対こんなことになってないんだけどな。
そう思いながら、俺はギリギリまで自分の回復に務めて、意識を手放した。
☆ ☆ ☆
「…………」
目が覚めた。ベッドの上だ。
諦めてるつもりはなかったけど、正直、目が覚めることなんてないと思ってたわ。
そう思いながら、俺はゆっくりと穴が空いていたはずの自分の腹に手を置いた。
すると、服が破れている感触はするけど、さっきまで開いていた穴が嘘だったかのように塞がっていた。
……治している途中で意識を失ったから、俺が治したわけ無いよな? そもそもの話、今ベッドの上にいるんだから、誰かが俺を見つけてくれて助けてくれたのか。
「あ、起きた?」
そう思っていると、横から声が聞こえたから、俺は咄嗟に声が聞こえた方に振り向いた。
すると、さっきいきなり俺を襲ってきた女の子がいた。
声を知らなかったから、全くの無警戒だった俺は、直ぐにベッドから飛び退いた。
「……そのお腹、治したの私なのに、失礼」
「は? お前が治してくれたのか?」
失礼って、マッチポンプにも程があるだろ。
だって、俺の腹に穴を空けたのお前だぞ? それで感謝する方がおかしいだろ。
と言うか、コイツが治したって、俺が気を失う前、コイツも気を失ってたよな? 死んでないのは分かってたけど、俺より早く目を覚ましたっていうのか? 冗談だろ? 少なくとも、半日は目を覚まさないと思って俺は意識を手放したんだが?
もしもコイツがこんなに早く目を覚ますって分かってたら、あの時俺は無理やりにでも意識を持ってたぞ。ほんとに何もんなんだよ。もうお前が四天王になれよ。
「そう。私が治した」
「……穴を空けたのもお前だろ」
「でも、普通は治さない」
「……もう喧嘩を売る気は無いってことでいいのか?」
「取り敢えずは」
「……あっそ。だったら、もう俺は部屋に戻るから」
「うん。分かった」
その辺を歩き回るつもりだったんだけど、流石にもうそんな気分にはなれないしな。
さっきまで腹に穴が空いてたんだ。当然だろ。
あの無駄に大きいベッドでゆっくりしよう。
そう思って、俺はどう考えても四天王より強い女の子を置いてその部屋を出た。
……うん。ここどこだ?
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