第7章 で?どうする?と悩む前に素早く決断はすべし

 えー、ひとまず、これまでの、おさらい

目が覚めたら、無事に(?)植物に生まれ変わっていた。自分の場合、転生歴がぴよぴよのひよっこレベルっていうんで、三途の川の記憶を持ったまま生まれ変われるとか、さくっと植物やって(へらへらしながら、ちょっとすんませんって感じで)食物連鎖の輪に入って人間を目指せるオプション付きのプランを作ってもらった。だから、今度こそ望んだ人生を送る筈だった。

 まあ、植物って実際になるのは色々と大変そうだけど、オプション付きの優しく設計された初心者向けプランだし、ちょちょいのちょいって。そんなのちょちょいのちょいって出来ると思っていたんだけど、やっぱりそうですよね。想像したよりも現実は甘くないです。はい。

 というか、甘いとか、甘くないとか、そういう次元を今の現状は軽く飛び越えているだろう。そして、それが現実が現実たる所以なのかもしれない。事実は小説よりも奇なりって言いますしね。はい。

 でも、本当に全く想像していなかった。植物って擬人化すると、皆、頭を土の中に埋めてるんだってこと。皆、堂々とオープンマインドで、湖ではなく、土の中で、スケキヨっているんだってこと……ってか、ちょっと待ってくれ!いくらなんでも、そこまで想像出来るかい!

 と土の中で自らのプランの復習も兼ねて、悪態をついていた武史であったが、とはいえ、これが憂慮すべき現実なのは変わらない。武史はここから自分の片割れソウル人間を目指して何とか秩序正しい食物連鎖の中に(あたかも初めからいましたって擬態するくらいの自然な感じで)すっと溶け込んでいかないといけないのだ。

 もともとのプランの中では、食べてもらうというか、マウス トゥ~ マウスの接触で、相手の体の中に移行する、要は相手の体を乗っ取っていきながら、最終的に人間を目指すことになっていた。(あ、そういえば、確認するのを忘れていたけど、食物連鎖の過程で、自分にのっとられた体の持ち主の魂はどうなるんだろう?と思ったが武史は考えるのを辞めた)

 なので、こういう状況を想像する前は、安易に花弁の蜜を吸いに来た蜂とか、蝶とか、何なら、花に顔をうずめる愛らしい子どもとか、女の人とか、そういうものにさくっと乗り移る気満々だった。だが、口は土の中だ。初めの計画が難しいと分かった今、土の中の自分は、一体、何に食べられればよいのだろう?

 そもそも、もし仮に木だった場合、木の根っこを食べようと思う奴なんているのだろうか?

……ああ、そういえば、いることはいたわ。

 都会育ちの武史は、昆虫がそもそもそんなに好きではないので、あまり詳しくはないのだが、武史の父方の親族は九州で畑をやっていたので、諸学生の頃、お盆休みやお正月に田舎に帰省をした際、コガネムシとか、ネキリムシとかの被害がどうのこうの言っていた記憶がある。

 だが、問題は、今、自分がどんな植物になっているのかが分からないでいることだ。そもそも、虫に根っこを食べてもらえる種類の植物であるのかということすら分からない。転生して早々、深刻なアイデンティティ崩壊の危機にさらされているのだ。仮に、誰にも食べてもらえないとすると、根を成長させて、土の中で生活している生物の口に触れ、それを乗っ取っていくしかない。現実的に考えるとセミやカナブンの幼虫とか、蟻とかそんなところだろう。

 ん?待て待て待て。セミはないだろう。7年間、土の中で過ごして、地上に出て7日間で死んでしまうというあのセミ?7年間は少し誇張し過ぎだろうが、そもそも年単位で土の中で過ごすのは無理、無理。そんな悠長なこと出来ない。これが生前の自分だったら、7年間、何もしないで絶対的安全な土の中に引きこもれるなんて最高って考えたかもしれないが、今は状況が違うのだ。早めに人間になって、愛憎渦巻くめくるめく感情世界に飛び込んで、今度こそ、理想的な人生を生きるためにも、とにかく動かないといけないのだ。

 セミは却下だ。武史は心の中で首を振る。

 あーあ、ここがせめてメルヘンの世界なら、親指大の姫さんとか、野ネズミのおばあさんとか、金持ちの土竜とかがいて、木の根のスープとか、木の根入りのパンとか、木の根を煎じたお茶とか~(略)を飲み食いしてもらえたのかもしれないし、ここ掘れわんわんが掘り出した大判小判とかになれたら(あれ~?無機物にもなれるのかなあ~?)、歓びのあまりそれを本物かどうか口に入れて確かめて歯が欠けたおじいさんか、おばあさんかのどちらかになれたかもしれないものを。如何せん、現実は厳しいのだ。

 生き物を乗っ取れたらまだよいが、中途半端に大地へとかえりつつある虫の死骸とか、動物の死骸とか、ちょっと怖いけど人間の死体とかと マウス トゥ~ マウスになってしまったら、それこそどうなるのだろう?

 腐敗……いや、熟成と言おう、熟成しながら、そこらへんを徘徊して、自分を食べてくれる人を探したとして、そもそも腐った、おっと熟成した人の死肉を誰が食べたいと思うものか!万が一、死体に魂がシフトしてしまい、目覚めてその辺をうろうろ歩いているときに、街の人間に見つかりでもしたら、ゾンビゾンビと大騒ぎされて、恐怖にかられた市井の人々から集団リンチを受け、散々な目にあい、最終的には目的を果たさぬままに、また土に返されるだろうし、動物でもおそらく同じことになりかねない。最悪だ。

 しかし、それ以上に最悪な出来事は、自分がヒノキや杉の木で、生物を乗っ取る前にチェンソーで切り倒されて切株にされてしまう事だ。ああ、どうすればいいのだ!

 考えれば考える程、次から次に心配事が出てきた。何より、タイムリミットがある。もし、自分が一年草だった場合、あまり気長に構え過ぎるとあっという間に枯れてしまう、逆に、もし自分が数百年生きる木だった場合でも、あまり悠長に構え過ぎると自分が成り代わりを予定している人間の方が先に死んでしまう。とにもかくにも早めに何か他の生物に寄生しないとまずいのだ。

 ああ、やっぱり食物連鎖を経て人間を目指すっていう設定、問題だらけじゃないか。考えれば、考える程、精神的に(物理的にも)お先真っ暗だった。

 ひとまず、考えていても仕方がないじゃなか!と武史は自分を励ます。そして、自分の顔の感覚に集中した。不思議だ。まるで口と手が一体になったかのようだ。もぞもぞと口を動かすと(実際には動いていないんだけど)、そこらへんの状況が何となくわかる気がする。ここの土は雨水で湿っていておいしそうだとか、あっちの方はごつごつ小さな石が沢山あって窮屈そうだとか。それに、不思議なもので、成長しようと思うと、遠くに行けるくらい自分の中には爆発的なエネルギーで満ちている。行こうと思えば、それが出来る準備は整っているという予感はあった。さあ、どこに向かって根を伸ばすか?

 その一見何でもないような決断ですら、自分の命や今後の運命がかかっているのだと思う。武史は覚悟を決めた。

 え?どっちに進むかって?

 答えは決まっている!もちろん、水のある方だろうよ。枯れてしまったら元も子もないからね。そう心に決めると、何となく水の雰囲気を感じそうな方向に向かってエネルギーを放出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

はあ~☆無常 にこす玄 @nikosuke

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ