サンミー事変
snowdrop
いち、に~、さんみ~
子供の頃、おやつは菓子パンだった。
アンパン、ジャムパン、カレーパンなど。お腹が空くと、親が買ってきたパンを食べていた。
空腹を満たすためであって、おいしいとか味が好きといった考えはなかった。
そのうち、スーパーに併設されているパン屋のほうがおいしいからと、親が買ってくるようになる。
次第に、味やもの珍しさに目が行くようになり、スーパーやコンビニに売られている市販のパンは食べなくなった。
学生の頃も、口にすることはほとんどなかった。
大阪に住んでいたとき、すぐ目の前に、神戸屋のパン工場があった。関西では馴染みの、パンを製造販売している会社である。
工場前の入口付近には小さな建物があり、そこでは、余った自社製品のパンが格安で販売されていた。
駅へ向かう道の途中にあり、近隣に高校もあったので、立ち寄っては購入する姿をよく見かけた。
ただし、毎日オープンしているわけではなかったし、商品がなくなると閉まるので、午前中にシャッターが下ろされることもあった。
休みの日の朝に出かけ、一つ購入してみた。このときはじめて、神戸屋のパンを食べたのだけれども、これまで食べてきたスーパーやコンビニで売られているパンよりもおいしく感じた。
それからは、シャッターが開いているのをみつけては、買いに行くようになる。とはいえ、食べたいと思える種類が少ない。もっと他にも作っているはずだと思う気持ちが、近くのコンビニへと足を向けさせた。
そこで出会ったのが、サンミーである。
とにかく大きい。横長のデニッシュパン。
名前の由来は、三つの味が楽しめるから。三位一体とも微妙にかぶっているところが、関西らしい安直なネーミングセンス。深いんだか浅いんだかよくわからない。こういうところも、興味を惹かれてしまう。
一食で食べ切るには無理があるほどの大きさとカロリーである。
三回に分けて食べながら、三色の味があるのは、飽きさせないように食べ続けてもらうための配慮かもしれない、と気づく。味が一色だったら、途中で食べるのをやめただろう。
月日が流れた。
まだLINEがなかった頃。チャットでネットの友達とやり取りを楽しんでいたとき、神戸屋のパンが話題となる。サンミーについて話していると、いくつか種類があることを教えてもらった。
どんなものがあるのか気になり、ネットで調べてみる。すると、見たことも聞いたこともないサンミーが、次から次へと見つかった。
実に面白い。
せっかく見つけたのだからと、サンミーをまとめることにした。他の誰かがやっていたならば、望んでやりはしなかっただろう。
個人で手軽に、まとめたものを掲載できるサイトを見つけ、そこにサンミーの画像と名前、商品の内容とカロリーを記載し、まとめていった。
しばらくすると、ツイッター(現在のX)を利用している人たちが、お気に入りに入れていく。神戸屋が好きだったり、サンミーを食べたことがあったり、子供の頃に食べたことがあって懐かしいと思った人の目に止まったらしい。
そうやって増えていくのを気にすることもなく、時間があれば、新発売のサンミーや、類似商品のヨンミーもまとめていった。
そのうち、ネット記事にサンミーが取り上げられ、秋本治によって執筆された万年巡査長の両津勘吉たちが活躍するストーリー『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の漫画にサンミーが登場し、夕方のニュース番組の特集で神戸屋とともにサンミーが紹介された。
これも、バズったというのかしらん。
世の中とは、実に面白い。
ちなみに、利用していたまとめサイトには、カクヨムみたいにPVに応じて現金化できるシステムとなっていた。だけど、一度も収益を得ていない。そんなことのために、まとめていたわけではない。ただ純粋に、サンミーのアーカイブが欲しかったのである。
その後、サイトの運営側の問題により、利用していたまとめサイトはなくなった。
サンミー誕生から五十周年記念企画として、「ファイブミー」を発売した神戸屋の本社は大阪にある。
神戸でパンの修行をした初代が、大阪の人にも食べてもらおうと大阪に神戸屋として創業した会社である。日本初のイースト菌を使ったパンを製造し、いち早く高速ミキサーを導入して機械化をすすめ、大手企業で発の包装パンを販売した。
六代目社長は、コロナが始まった頃、これからのパン事業を見据えて、主力で黒字を出していた袋パンを軸とした包装パン事業を検討し、二〇二二年八月二十六日に神戸屋包装パンの製造販売事業及びデリカ食品の製造販売事業をパンメーカー最大大手『山崎製パン』に譲渡を決定。二〇二三年二月一日を分割効力発生日として分社化し、「株式会社YKベーキングカンパニー」が設立された。
サンミーは現在、YKベーキングカンパニーの商品として販売。
関西のソフルフードは健在である。
サンミー事変 snowdrop @kasumin
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