第6話
5時になり、約束通り2人で帰ることになった。中井さんは電車通学のため駅まで話しながら歩くことになり、楽しそうにフンフン言いながら歩いている中井さんの隣で俺はあらゆる視線(特に男子)をくぐり抜けて校門を出た。
「実を言うと俺女子と帰るの初めてでさ、今すげぇ緊張してる」
「……そうなんだ…私もね、男の子とこんな風に2人で帰るの小学校のとき以来だよ…」
「はいはい、ありがとありがと」
「あー!嘘だと思ってる!ほんとだもーん」
何故か誇らしげに腕組みする中井さん。さっきのが本当だったとしたら、今まで彼氏いたりしなかったのか…こんなに可愛いんだから引く手数多だろ。恋愛に興味がないのかも知れんな…
「ん~信じがたい。慣れてる感じするからなぁ」
「私の方が緊張してるから!絶対!」
「なにその対抗意識、悪いけど俺の圧勝だね」
「じゃあ……試めしてみよっか…」
中井さんはそう言って立ち止まり、何かと思い俺も立ち止まると、自転車のハンドルを持ってる左手を包み込むように両手を添えてきた。小さい掌に細い指、すこし冷たくて若干湿っていた。
そしてパッと手を離して下を向く中井さん。
「…信じてくれた?」
「お、おう…」
「うん…いきなりごめんねっ。ど、どーだった?…」
「ちょっと心臓に悪すぎる、陰キャをからかうのは程々にしてくれ…」
「それってどきどきしたってこと……?」
「そりゃするだろ…男だし」
あれで平常心保てる男いないだろ…。てかマジなんなのこの子!勘違いするだろっ!ばかっ!
とりあえず今日が終わるまでこの左手は使わないでおこう。
「そ、そっか……。えっとね…あ!あれ見たよ!順位表!」
「うん、俺も今日見たよ、中井さん載ってたね」
「そうなんだけどっそうじゃなくって!雪下君すっごく賢いんだね!」
「たまたま山が当たっただけだよ、俺からしたら毎日友達と遊ぶ予定ありそうな中井さんが成績良いことに驚いたよ」
「誉めてるようで誉めてないような…私のことパリピだと思ってたのかな?ん?」
「うん。…ごめんて」
ぽこぽこ叩いてくる中井さん。こう見えても委員長なんだよ!とドヤァと言わんばかりにドヤってる…確かに学園物の漫画に出てくる委員長は賢くてクールで美系だった気がする。さすが中井さん、クール以外は完璧に再現している…!
「それでね…次のテストまでに勉強見てもらいたいなーって思ってるんだけどっ!ど、どうかな!?!?」
「んー、俺より8人も賢い人いるんだけど、俺でいいの?多分中井さんが言ったら100%教えてくれると思うんだけど…」
「私委員長とかやってるけど、知らない人に自分から話しかけるの苦手なの!」
「そうなの?校門前で初めて会ったとき普通に声かけてくれたと思うんだけど」
「…それはそれ、これはこれです!とにかく友達である雪下君にしか頼めないです!」
なんかやけくそになってないか?大して順位変わらないのに教えれるとこあるかなぁ?まぁ、当麻とも勉強会約束したし、最初から断る理由はない。
「俺が一方的に教えれるほど学力に差はないと思うからさ、お互い分からないとこを教え合うって感じでどうかな?」
「うん!そうする!わがままばっかでごめんね」
「…言ったと思うけど俺、ほんとに人付き合いというか、友達付き合い?が慣れてないんだ。正直どうしたら仲良くなれるのか分かんないし…ほんと情けない奴なんだよ俺って。だから、こうして誘ってくれるの凄くありがたいし、嬉しく思う…」
謎に語ってしまった…てか結構、いや大分恥ずかしいこと言ったなあっ!あぁ…穴が在ったら入りたい。しかし、中井さんはクスクスと笑い始め、笑いが堪えられなくなったのか、大笑いしだした。
「ごめんねっ!だって今の雪下君っ、昔のわたしみたいだからっ、可笑しくなっちゃってっ」
なんだそれ。昔っていつの話してるんだよ…。中井さんがあまりにも大笑いするから、つられて俺も笑ってしまった。
「情けなくないよわたしのヒーロー」
一瞬何かボソッと呟いたが聞き取ることはできなかった。すると、中井さんは立ち止まって、
「友達とはなんたるかを、これから徹底的にレクチャーするからっ!覚悟しといてね!!雪下君!!」
素直で、優しくて、可愛くて…俺には勿体無い友達。だけど優越感は消えた。"もっと仲良くなりたい"。それしか考えられなくなるほどに、彼女の笑顔は素敵だった。
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