第5話
本格的に授業が始まって2週間が過ぎた。中学の時から高校で習う教材で予習してたため、今のところ無理なく着いていけてる。先週行った5教科実力テストも124人中9位で、テスト範囲が中学で学んだことのみだったからか、予想より良い成績だった。テスト順位の上位20位までの名前が職員室前に貼り出されるらしく、当麻に誘われて職員室に向かっていた。
「あぁ騙されたぜ楓ー、英語だけかと思ってたら全教科俺より点数高けえじゃねえかよ」
テスト結果が返却されてからずっと同じこと言ってる当麻は下から数えた方が早い順位だった。
「はいはい、まー最初ダメだったらもうこれからは伸び代しかないんじゃないか?」
「分かってねーなー!これから部活で忙しくなんだから下の下まっしぐらなんだよっ!」
当麻はサッカー部に入ったそう。
「サッカー部そんなにキツイのか?」
「そりゃ道悦は県大会常連だからな!俺の代では全国制覇してやるってもんよ!」
凄い目標だなぁ、今度の試合応援行ってみるか。
「両立できるよう頑張れよ」
「中間テスト近づいたら勉強教えてくれ楓~」
「んーいいけど期待するなよ」
俺だって今回の順位が最高到達点になる可能性もあるからな。もちろん今まで通りの勉強はするけど、何事も絶対はない。
「ありがとう!恩に着るよ~」
そんなやり取りをしてたら、ざわざわと人が多くなっていき、職員室前は行列ができていた。はじめから興味のなかった俺は当麻に写真を撮ってきてもらうことにし、人の少ない廊下の角でボーッとしていた。5分くらいで当麻が戻ってきて、教室に戻る。
「やっぱ名前載るのカッコいいなっ!写真送ったぞ~」
へいへーいと当麻は肘でつついてくる。
送られてきた写真をパッと見ると、知っている名前が載っていた。
19位 中井 理子
さすが委員長、才色兼備ってこのことだな。そういえば友達になってからまだ話してないな、廊下ですれ違った時、一瞬目が合うけど会話にはならない。てか彼女いっつも誰かしらに囲まれてるからなぁ…俺にとって青春の教科書のような人だ。
教室に戻ると、話したことなかったクラスメイトから、「雪下君賢っ!」「またうちにも教えて~」と声を掛けられた。病室で各教科のなんちゃって授業をしてくれてた母さんにまた感謝を伝えておくか。今の勉強習慣は間違いなく母さんのおかげだなぁ…
今日から委員会活動が始まり、図書室に集まった。各組1人ずつ図書委員がいて、週間ローテーションで図書室の受付、清掃、貸し出しリスト管理を行っていく。上級生の説明を聞いてる感じ、1人でも楽にこなせる委員会のようだ。ほとんど人は来ないらしく、本読み放題で本好きには楽園らしい。ただ拘束時間が他委員会より長いため、忙しい人たちには向いていなそうに思う。図書室に入ったのは二度目だが、公立高校にしては本の種類が多いように感じる。読書が唯一の趣味な俺にとっては先輩の言うように楽園そのものかも知れん…。
説明を聞き終わり、作業とPC内の貸し出しリストの操作方法を教わり、さっそく今日から1人図書室に残って活動することになった。事前に聞いていなかったからか、他組の3人は部活や用事で俺が残ることになった。17時まで本棚漁っておこう。
帰るのを見送った後すぐ奥の本棚へ行き面白そうなのを探す。数分で今日読む本を決め受付席に座り読み始める。10分くらい集中していると、ドア鈴が鳴り1人図書室に入ってきた。まぁなにかあれば声かけてくるだろうし気にしないでおく。しかしその人は一直線で受付のとこまで来て目の前で棒立ちしている。
「………」
なんの時間だこれ。顔をあげてみると、くすくすと微笑んでいる美少女がいた。
「中井さん?」
「あっごめんね、、集中してたよね」
「んーん、大丈夫だよ」
「メガネつけてる…」
「あーこれ?読書と授業の時使ってるやつ」
「似合ってる」
「…あんがとさん」
普通に照れるんやが。顔赤くなってないか心配。
「なに読んでるの?」
「ミステリー短編集」
「私もミステリー好き!」
「一緒だね」
「うん…!」
会話が終わった…こういう時なに話せばいいんだろ…趣味とかか?…あぁ男として情けないなぁ俺…でもずっとニコニコしてくれてるし、ほんと優しい人だ。いや待て待て、そもそもなんでここに居るんだろう?案外暇人なのか?
「えっと…本借りに来たんだよね?それか返却?」
「本?……!!、さ、探してくるねっ!」
パッと笑顔で本を探しに行く中井さん。前から思ってたが、2人で話してる時と校内で見かける時の雰囲気が違う気がする…友達の前ではリラックスしてくれてるのかな…だとしたら嬉しい。
5分程経って、1冊のミステリー小説を持って戻ってきた中井さん。本裏のバーコードを読み取ってエクセルに名前と日付を入力し初業務をこなした。
「これでおっけー。基本1ヶ月まで借りれるよ、延長なら図書室まで来てね」
「うん!それで………こ、この後予定ある?」
「予定?5時までここに居て終わったらそのまま帰る感じかな~」
「そっか…じゃあ今日、一緒に帰らない…?」
「んー俺は喜んでって感じだけど、中井さんは大丈夫?5時まで結構時間あるけど」
「うんっ!ここで読んでていいかな?」
「もちろんいいよ、自由席だからどこでも座ってね」
一瞬俺の横を見たと思いきや、くるっと回転して受付前の長椅子に座り本を読み始める中井さん。
てかさらっと決まったけど、この後俺中井さんと2人で帰るのか…!やっと実感が沸いて心臓がばくばく言っている…。俺は本を読んでいるフリをして会話が止まった時用の話題をひたすら考えていた。
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