第3話

雪下家は、母、父、俺、妹の4人でごく普通の2階建て一軒家で暮らしてる。両親共働きで、母は英語塾の講師で、父は銀行勤めのサラリーマン。妹は俺の2つ下の14歳で、中学2年生になったばかり。アメリカから帰国して、また家族全員一緒に住めるようになったことを一番喜んでくれたのが三花(みか)だ。今まで迷惑かけた分、母と離れ離れにさせ寂しい思いをさせた分、どこを切り取っても俺の事を嫌う理由になるが、弱いとこを一切見せない妹の懐の深さには数え切れない恩を感じている。

「やるじゃんお兄!帰ってきた頃とは別人だね!」

「あの頃は…まぁ今となっちゃ良い思い出よ」

「毎日へなへなで帰ってきては、三花とばっか話してたもんねー」

帰国してすぐの中学校生活はやはり、色々な面でついていけず、中2まで友達がいなかった。部活に入ってなかったため暇だったのと、何かに属したかったのか、中2から勇気を出して生徒会に入り、そこが俺にとっての転機となった。

そんなことを思い出しながら、当麻のこと、図書委員になったことを話し終えると

「他には!?他に何か良いことなかった!?」

「他?他は普通だったな」

「え!だってーあ!……んーーー」

凄く何かを話したそうにしている三花。その横でご飯を食べてる母が少し険しい顔で

「三花」

「わ、わかってるよー。あ!そうだお兄!後で英語教えて!分かんないとこあるの!」

「いいけど珍しい、てか英語だったら母さんに頼めばいんじゃね、一応こんなんでも本職だし」

「あらこんなんでもってどういう意味かしら?今日は2人揃ってLessonしてあげるわ」

「えーママ厳しいからイーヤー」

ニヤニヤしながら妹の髪をわしゃわしゃする金髪ギャルのような容姿の母さん、本気で嫌がる妹。なにも言わず黙々と食べてる父さん。我が家は今日も平和。

Lessonが思いの外長く続き、寝不足ながらも今日からいよいよ本格的に授業が始まる。これから通う道悦高校はこの辺の公立高校の中で一番偏差値が高く、国公立大学への進学率が高いことで有名。県外の中学校からも何人か推薦で道悦高校に進学してるらしい。人生のほとんどが入院期間だったため、スポーツ全般下手だが勉学に関しては自信があった。しかし、中学とは違い周り全員が同じレベルで勉学できると思われるため、授業についていけるか不安だな、面倒くさいが毎日の復習は必要不可欠。

「おはよー楓」

「おはよう当麻」

「授業今日からだよなーやべ結構緊張するわ」

椅子ごと後ろを向きながら、当麻は人の字を手に描き食べるジェスチャーをした

「なにしてんの」

「え?楓知らねーの?緊張する時は人の字食べたら緊張収まるだぜ」

全然なに言ってるか分からんが、何でも学びなのでマネしてみる

「これで合ってるか?」 

「そーそー、体解れてきただろ?」

もともと緊張してなかったからなのか、特に変化がない。緊張したときもう一度試してみるか

「またやってみる」

「おう!楓は得意教科あるか?」

「英語、当麻は?」

「俺は数学と物理!英語できるのすご!羨ましい!」

「え、そ、そうかぁ?」

同級生に誉められ慣れてないから返事がキモくなった。英語は環境的に勝手に身に付いてたんだよなー実際好きではない。

「逆に数学できるの羨ましいわ」

「お互い教え合おーな!お、きたきた」

若村先生が来てホームルームが始まり、時間割通りの授業が行われていった。最初だからか、自己紹介をした後も中学の復習や雑談であっという間に終わり、放課後になった。

今日は面倒なことに、1年生の委員会集会がある。1~4組の各委員は全員出席の顔合わせの集会で、俺と当麻は集会が行われる多目的室に着いた。すると、昨日校門前で見た男女グループ全員が1組の席に座っていて、その中に人形女子さんもちょこんと座っていた。

「なあなあ、1組なんかレベル高くね?」

当麻がコソコソと耳打ちしてきて、1組を再度見ると確かにと思う。室内ざわざわしているが、大半はその話題だった。全員の容姿が良く、中でも委員長席と体育委員席の2人の話題で溢れていた。その委員長席に座っているのが、昨日の人形女子さんである。

「あの委員長の子可愛すぎねーか?周りの委員も知的美人って感じだし、道悦なんてガリ勉ばっかだと思ってたけど、さては最高か?」

当麻が周りと同じような感想を耳打ちしてくる。

俺が一瞬だけ人形女子さんを見た時、たまたま目が合ったのか、俺を見て何かボソッと言ったように見えた。周りにジロジロ見られて苛ついてるのかプルプル震えてる。これ以上刺激しないように、できるだけ見ないようにしよう。

それから数分後に先生が来て、顔合わせ自己紹介が始まった。全員が注目している人形女子さんが先陣を切る。

「1組で学級委員長を努めます。中井理子です(なかいりこ)です。1年間よろしくお願いします!」

一瞬でファンクラブができたと言わんばかりの拍手が響き、中井さんは深くお辞儀していた。テンポ良く流れていき、俺の番が来た。出番が来る前に人の字を10回は飲み込んだ。

「3組で図書委員します、雪下楓です。よろしくお願いします。」

気のせいかも知れないが、周りの自己紹介よりも中井さんの拍手の音が大きく聞こえた。

集会が終わり、多目的室を出てすぐ当麻が

「な~楓って中井理子と知り合いだったりするか?」

「ん?なんで?」

「いやなんとなく」

「昨日一瞬話したけど、知り合いって呼べる程の仲ではないぞ」

「おーそっか、気のせいだったか。ごめん忘れてくれ」

突然変なことを聞いてきた当麻。理由は分からんがなんとなく聞かんとく。

「じゃ楓明日な!俺今からサッカー部見学してくるわ!」

「おーまた明日」

当麻を見送って駐輪場に行き、帰ろうとした時

「ゆ、雪下君!待って!」

校舎の影から人形女子こと中井さんが出てきて、呼び止められた。

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