第2話

「雪下楓(ゆきしたかえで)です。一年間よろしくお願いします」

発表されたクラスに移動し、担任の挨拶から自己紹介に移った。席は出席番号順で窓際の前から2列目で、意外と教卓からは死角で授業中教師の目に入らなそうで嬉しい。自己紹介が終わり、学校のルールを担任の若村先生が説明している途中に、前の席の男子が後ろに身体を向けて話しかけてきた

「一年間よろしく!楓呼びでいい?馴れ馴れしいかな?」

「いいよ。こちらこそよろしく、山口君」

「へいへーい、こういうときは楓君も名前呼びだろ?」

「そういうもんなのか」

俺は真剣な顔で山口君を見て友達作りの基礎その1を学んだ。

「待って、もー面白いんだけど」

「悪い、あんま慣れてないんだわ、こういうの」

「そっかそっか、嫌なら無理しなくて全然構わないからな!てか俺が変なだけだわ」

「嫌じゃない、ありがとう当麻(とうま)、これからよろしく」

「おう!よろしくな!」

前の席の山口当麻君。明るくてよく見ると顔立ちも整っている。こういう人がクラスをまとめるリーダーになるのだろう。そういえば入院してるとき読んでた漫画で、主人公の友達はだいたい楽しそうな学園生活を送っていたな。今のうちから仲良くなったら、高校生活を幸先の良いスタートができるかもしれない。

「マジでよろしく!」

「お、おう…やっぱ楓はちょっと変わってそうだな」

順調すぎるくらいに友達を1人作ることができ、内心テンションが上がっていた。若村先生の説明が終わり、保護者宛のプリントを配られ、このクラスの委員等の係を決めることになった。挙手制で次々と係が決まっていき、面倒くさいのは嫌いだけど、クラスの何かに関わりたい欲が出て、本も好きだし俺は図書委員になり、当麻は体育委員になった。委員とか中学の時してなかったから少しだけワクワクしてると当麻に話すと優しい笑顔を向けられた。今日は午前中で終わり、学校を出て当麻は電車通学のため別れた後、校内は自転車に乗れないため、俺は自転車を校内で押しながら歩いていた。歩いている目の前には、男女8人ほどのグループ?ぽい集まりがワイワイ話しながら歩いていた。入学したてで、もーこんなに友達がいるのかと感心しながら追い抜かすと、何故か懐かしい匂いが一瞬したとように感じ、俺は止まる。

止まった理由は分からない。思考も止まってる。今この瞬間、歩くことができなくなったみたいに。すると、グループから1人が立ち止まって、俺の目の前にやって来た。

「あの………大丈夫?」

肩程に伸びてる綺麗な黒い髪。優しい表情で俺を心配してくれた人形みたいな容姿の女の子。止まっていた時間が動き出した。

「大丈夫です。気にせず進んでください」

「…うん。じゃあ…また」

人形女子がグループに合流したのを見届け校門を出て、自転車に乗りゆっくり安全に下校する。自転車でまたグループを追い抜かしたが、終始絶えないくらいワイワイと楽しそうに会話していた。俺もあんな風な楽しい学校生活を目指そうと思う。それにしてもさっきの子優しかったな。あんな可愛らしい人と付き合える人はきっと幸せだろうな。学校から自転車30分くらいで家に着き、ゴロゴロしてると夜ご飯の時間になった。夜ご飯のときに今日の成果を家族に報告するのが俺の楽しみの1つである。

「お兄!今日どーだった!?」

「聞いて驚きたまえ、さっそく友達できました!」

父、母、妹は揃って、おぉー!と拍手をしてくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る