【1‐14】報いの時が来た

 窓から差し込む鋭い朝日に、ビリーの意識は浮上した。

 ふわふわした意識のまま、周囲を確認する。太陽の光で照らされた部屋には、ビリーだけ。

 昨夜お持ち帰りしたはずの女は、影も形もなかった。胸いっぱいに深呼吸しても、残り香すらないのが、少し残念。


 二日酔いの頭で、昨日のことを思い返していく。ふと持ち帰った女が囁いた、話が頭をよぎった。良い小遣い稼ぎになるか、と起きだす気力が湧きあがってくる。

 勢いをつけてビリーは起き上がると、出かける準備を始めた。


「よー、エヴァ」

「あらビリー、今日も二日酔い?」

「酒があれば飲むだろ」

「嫌だわぁ。お酒なんて、私の美貌を損なう気?」


 そこまで美人じゃないだろ、とビリーは思う。思うだけで口にはしないが、エヴァは自分自身の口で言う程の美貌は持っていない、と常々ビリーは考えていたが口にはしない。彼女の気持ちを考えて口にしないのではない。口にすれば、この女は面倒くさくなると、ビリーは長年の女遊びで培った勘でわかっていた。仕事仲間としてはぎり許容範囲なので、特に気に障ることを意識的にしようとしないだけだ。


「サムは?」

「なんか隣町に行くって」

「そうか」


 好都合だ、とビリーはニヤリと笑う。


「実は、わりのいい仕事があるんだよ」

「私たち、魔法使いと弓使い。盾なしよ」


 エヴァの物言いに、ビリーは説得すべく話す。


「ほんとに簡単な仕事なんだよ。街道をちょっと行ったところに、オークが居ついたらしいんだよ。しかも高台の下に。高台の上で、お前が魔法でちょいとオークを足止めしたら、俺が弓でやればいい。ほんの数体だけだから、秒で終わるぜ」

「ふーん」

「はは、金は山分けだ」


 ビリーの話に、良さそうな感触を示すエヴァ。

 これならいけそうだと金の話をすると、エヴァの目がきらりと光った。普段のクエストでは、リーダーであるサムの取り分が多い。今日はサムがいないから、その分が自分たちの物になる。


「いいわね。乗ったわ」

「よし! じゃあ、行こうぜ。他の奴らに取られたくないからよ」


 ビリーは愛用の弓を手に立ち上がる。


「ギルドに行って受注しなくていいの?」

「それなら昨日のうちにやっといたぜ」

「あら、珍しく気が利くわね」


 珍しく細かいところに気が回っているビリーに、エヴァは訝しげにするが、面倒がないならいいかと気に留めないことにする。

 エヴァもまた自身の杖を手にすると、立ち上がった。






   ◇◇◇






「それにしても、そんなおいしい話、どこで仕入れてきたのよ? ギルドに掲示されたら、すぐに下っ端連中に盗られるのに」

「ああ、寝た女に聞いたのさ」


 事もなげに言うビリーに、蔑むような目を向けるエヴァ。


「あんたの女癖の悪さも、たまには役に立つのね」


 イラっとくるが、これから仕事だと考えて抑える。じゃあお前の浪費癖は役に立つのかよ、とビリーは小声でぼやいた。幸いにも彼女に気づかれることはなく、森に入って行く。


「それで、どこらへんなの?」

「たしかこっちだったはずだ。ああ、ほら、あそこだよ」


 そこはちょっとした崖の上だった。ビリーが下を覗き込むと、オークが三体ほどいる。これなら、仕事は楽勝に終わるだろうと思う。エヴァは楽な仕事にほくそ笑んだ。


 ビリーが矢を取り出し弓につかえるのを確認してから、エヴァは魔法をかけようと自身の魔力に集中する。

 その瞬間、エヴァは無防備になった。


「手を上げろ」

「――えっ!?」


 意識に割り込んできた声に、文句を言おうと振り向くと、自分自身に矢を向けられていることにエヴァは気づいた。


「ビリー! どういうつもりなの、仲間に矢を向けるなんてっ!?」


 エヴァの叫びに、ビリーは何も言わない。いや、何か言葉を発することを、命じられていなかった。


「久しぶりね、エヴァ」

「……ッ、メイ!?」


 メイが二人の前に姿を現す。


「ふふっ、報いを受ける時間だよ」


 次の瞬間、首の後ろに強烈な痛みが走り、エヴァは倒れた。

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愛しい人たちに捧ぐ復讐物語 一歌 @3548

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