【1‐13】まず、一人目……

 とある飲み屋にて、ビリーは女たちに囲まれていた。


「ええ! ビリーさんって、あのエレンさんのパーティメンバーだったんですか!」

「そうだぜえ、あのエレンだって俺の弓がなきゃ、あっという間にやられてたさ」


 すごいすごいと称えられ、キャーキャーと構われることにビリーは鼻高々だ。褒めそやされることは実に気分が良い。

 両手に女を抱きながら、酒を飲むひと時のために冒険者をやっていると言っても過言ではなかった。


「だが、そんなエレンもな、逝く時はあっさりだったな」


 エレンの死を悲しむ素振りを見せると、一転して女たちはビリーを慰める。


「エレンの分まで、俺は冒険者をやって、魔物を倒しつくしてやるよ!」


 そして、悲しみ決意を新たにするビリーに、その心意気が素晴らしいと称える。


 エレンはポート=リンチの住民にとって、有名な冒険者だった。人柄よく、もちろん実績や実力も申し分ないエレンは、平民に人気がある。

 そんなエレンのパーティメンバーというだけでビリーは一目置かれ、称賛された。


「ビリーさんは素晴らしい志をお持ちなんですね!」

「そんな持ち上げんなって、エレンに比べりゃ大したことないからな」


 ビリーはわざと謙遜する。そうすると、ますます周囲はビリーを持ち上げる。しなだれかかった女の胸がビリーに押し付けられ、鼻の下を長くした。触れるフワフワの感覚は、男の本能を刺激する。



 一通り飲み食いどんちゃん騒ぎして、ビリーは店を出る。

 その傍らには女を引っ付けていた。飲み屋でビリーを囲って黄色い悲鳴をあげていた女たちの一人である。


 近くにあった宿屋の一つに一緒に入る。ビリーの欲望は既に固くなり始めていた。

 部屋に入ると、さっそくビリーは女にのしかかろうとする。


「もう、慌てすぎっ」

「我慢できっかよ」


 女は笑って、ビリーをさらっと避ける。そして優艶にベッドに女は腰掛ける。その姿にビリーは唾を飲み込んだ。


「勇敢な冒険者様は、それもご立派なのね」

「ああ、たくさんの女を鳴かせてきたイチモツだからな」

「あらあら、私と一緒にいるのに、他の女の話?」

「心配せずとも、今はお前だけさ」


 ビリーはへらへらと笑いながら、女に近づく。


「そういやあ、お前の名前を聞いてなかったな」

「ヒドイ人。今更訊くのね」

「許せって。ほら教えてくれよ」


 女の色気に、ビリーの我慢は利かなくなってくる。


「そうやって酷いことをして、女を泣かせてきたのね。――――――そう、例えば、メイ様とか」

「……はッ!?」


 女の口から予想外の名前が飛び出してきて、ビリーの思考が止まる。


「どっどうしてお前が、アイツの名前をッ!?」

「――――それは、これが私の仕掛けだからだよ」


 ビリーが振り返ると、そこにはかつて貶めたはずの少女の姿があった。全くその存在に気づけなかったことに驚愕する。


「久しぶり、ビリー」


 嗤うメイにビリーの背がぞっとする。


 ビリーが動く前に、強い力で床に取り押さえられる。床に傅かせているのは、先ほどまでベッドで艶然としていたはずの女だった。さっきまでの色気は嘘のように消えている。ビリーに向けるその視線は、ただただ冷たいものだ。


「この時を待ってたよ」


 そう告げるメイの瞳は、鋭く光っていたのだった。

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