「こっち」に来てよ。
冬路くじら
白馬に乗らないおうじさま
「好きって、言ってよ」
呟くようにふわっと吐き出された言葉。しかし彼女の瞳はいつにも増して黒かった。
僕はそんな君が好きだ。そう、そんな君は、好き。
笑顔を貼り付け明るくそれらしい相槌をうつ、外での君は、正直そうでも無い。しかしそんな演技こそが彼女を疲弊させているのだと思うと、嫌うほどでは無いなと思う。
彼女は僕の好みを知っていて、黒く染った目をすれば僕に好きだと言って貰えると分かっているこだろう。
どこを向いているか分からない視線と濁った色は、その闇が演技では無いことを物語っていた。しかし隠すことはしない、そういうことだ。
君は液晶の向こうを夢見ていて、それを僕に求めている。
いっそ醜いほどに大きく、全てを受け入れられるほど重たい感情。それを自分に向けて欲しいと思っていた。
「君を愛してるよ」
真実でもなければ嘘でもないその言葉をさも当然かのように言ってやれば、彼女は嬉しそうに、しかしどこか満たされない表情をする。
――――私に、ほんとに君がいればなぁ。
虚しい独り言は寝室に溶けて消え、甘い言葉は幻で、消える前からそもそも存在していなかった。
「こっち」に来てよ。 冬路くじら @kasumikujira
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