第2話【い】『怒り不足』

最近もっぱら私を悩ませていることは怒りが足りていないということだ。今までの私の人生は怒りを原動力にして進んできた。馬鹿にしてくる同級生を全員殺すつもりで中学受験に取り組んだし、馬鹿正直に生きていることが是とされる世の中に反発して人とは違うことを模索してきたつもりだった。

 その結果、壊れた。

 周りに仮想敵を造り続け、それに対して闘争心を抱き続けられるほど、私は人間としては強くなかったのだ。

 常に自分を責め続け、焦燥感と脱力感に押しつぶされて床に臥すことしかできない生活がしばらく続いた。その中でもなんとか、一歩ずつでもいいから何とかまともな人間になろうとした。

 正直ばかばかしいと思った。自分が見下してきた馬鹿正直な人間にすらなれやしないのだ。生きるのは私には向いていない。

 そうやって一つ、また一つと諦めるものが増えていった。

 負けてもいいや、そう思った。

 私の中の怒りの炎は消えた。

 それは一見すると、とても喜ばしいことであるように感じられる。しかし、それではいけないのだ。

 怒りを失った私は、生き方を忘れてしまった。燃料が切れて止まってしまった心の中にはやりたいことも、望む未来も浮かび上がっては来ない。

 だからこそ今、こうして文章を書いている。他者に対して怒りを向けられるだけの自信を取り戻すために私は今日も駄文を吐き続けるのだ。

 私がこれから向かう先に待ち受けているのは新たな怒りの鉱脈なのか、怒りに代わる新エネルギーなのか。それはだれにもわかりはしない

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50音書き散らし @tatsunoyosei

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