27話 布は縫うためにある(諸説あり)

「で、その追ってきたやつはどこへ?」

「知りません」

 ハルトが答える

 ことの発端は、凄まじいカーチェイスを繰り広げたのち、凍える大地に凍える風が吹き荒ぶ中、危険運転をしつつなんとかコンクリートのような灰色の壁で囲まれたこの空間、整備室兼格納庫に戻ってきたことだった

「まあいいや。それについては僕達の管轄じゃないし」

 彼らが発見し、カーチェイスをしたといはいえ、彼らは学生。

 彼らが責められる筋合いなどどこにもないのだ

「で、君たち以外の三人はどこへ?」

「素材もらいに行った。もうそろそろ帰ってくると…。ほら」

 外から少し風が入ってくる。それと同時に足音とエンジン音が聞こえてきた

 どうやら、素材を持って4人が帰ってきたらしい

「持ってきたよー。これ」

 大きなコンテナを積んだトラックが入ってくる。そしてコンテナには収まり切れないほどの、もこもことした素材が入っていた

 主に薄い茶色のもこもこふわふわの素材。何かの毛皮のようで、植物由来の綿でもありそうな不思議な素材

「本当に加工には不向きだけど……大丈夫?」

「心配ありません。僕がお願いしておいた機械を使いこの素材を縫います」

「なるほどね…」

 どうやら、カーチェイスを繰り広げていた間に、アイカ達は機械の製作を頼まれていたらしく、確かに奥に大きな機械があったなと、ハルトは思い出す

「あ、あれ、縫うために使うんだ」

「ええ。縫いさえできれば頑丈に使えるかと」

「設計図は準備できてる。あとは縫うだけだ」

 ハルトの10分間の試行錯誤の上できた、大事な設計図をひらひらさせながら、作った張本人が宣言する

「くま…?」

「なにこれ可愛い…」

 セトがキョトンとした顔で呟き、アイカが言葉を洩らす

 設計図に書かれていたのは、ぬいぐるみのようなくま。もこもこの布でできた触り心地の良いぬいぐるみを想起させる

「あまり複雑にしてもな。だから最低限、ぶっ壊れないような追加装甲と、単純な能力の底上げ、そして格闘能力の強化だけにしておいた」

「にしてもなぜくまなんだい?」

 リエルの問いかけに、ある方向に指を指すハルト

「ほら、あそこにくまのぬいぐるみがあるだろう?」

 そこには、灰色の壁にブロンドの毛皮を目立たせる一輪のくまがあった

 ほつれやくたびれた様子もなく、丁寧に手入れされているのだとわかる

「なるほど」

「早速作ろう。時間は押しているんだ」

 そう言って、早速制作に取り掛かった

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「ふぅ…。割と疲れるんだなこれ」

 カタカタと音が鳴り、巨大ミシンが現在も元気に稼働中だった

 そして今は、ハルトがミシンの操作係をしていたところを、カイレに代わってもらったのだ

 要するに休憩中

「まあ、魔法は使いませんが精密な操作を必要としますからね」

 茶色い布に限りなく透明に近い白い糸が通され、波波に縫われていく

 まるで本当にぬいぐるみを作っているかのよう

「そういえば、製造部の面々は?」

 セト、カルト、リエルの姿が見当たらない

 確か作業を始める前、奥へ消えて言ったような気がする

 ハルトはそう思うも、記憶が途切れ途切れになるのがわかり、思考を止めた

 人間、この歳になると忘れるのも早くなるものだと感慨深く思案する

(そういえば、この体、18くらいの俺だな……)

 色々ありすぎて忘れていたが、ハルトはこの体が彼が18くらいの時のものだったことを思い出す

 ところどころ、筋肉のつき方や、髪質が違うという点はあったが、それも誤差の範疇

 少なくとも、くたびれた22歳の時の体とは明らかに違う

 眠くなるのはそこまで早くないし、朝まで超快適にぐっすりだった

 しかし、カルビを食べては胃がもたれる

 それは彼自身、昔からそんな感じだったので違和感はない。なんならそうでない方が違和感があるくらいだ

「ああ、製造部の方々ですか?それなら、向こうでパワードアームとか作ってますよ。僕は送られてきたシステムの調整です」

 在宅ワークのようなものらしい

 常にキーボードをいじっていたのはそう言う魂胆らしい

 トトト

 いまだ布はミシンで縫われている

 どうやら、3機分くらいは完成しているようだ

「しかし、よく考えましたね」

「くまっていうのはすぐそこのあれを勝手に引っ張ってきただけどね」


「やあ、そっちはどう?」

「あ、セト。もちろん。僕にかかれば楽勝さ」

「昔からそうだね」

「君たち友達だったの?」

 作業が一段落したのか、こっち側へ戻ってきたセトがアイカに声を掛ける

 口調を疑問に思ったハルトは疑問を口にする

 思ったことをすぐ口にするのは良くないとされているが、疑問ばかりは探究心が止まることを許さないのだ

 仕方ないのでハルトはそれに従ったのだ

「そうだよ。小学校以来のね」

「ほへー」

 どうやら彼女らは小学校からの幼馴染だったらしい

 たしかに、よく見てみればお似合いの二人かもしれない

 そうでもないか。彼はそれをすぐに否定し納得する

「そっちはどんな感じですか?」

「もちろんバッチリさ。すでに量産工程に入っているよ」

「了解です」

 あちら側もかなり作業は進んでいるらしく、予定している量の制作は結構早めに終わりそうだ

 

 茶色のくまが吊るされていく

 話している間に一機分のくまは縫い終えたようだ

「さて、もう一踏ん張りしますか」

 そうして、ハルトも仕事に戻っていった

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 時は巡るに巡り、時刻は22時。良い子はもうすでに寝ている時間だ

 そんな時間でも作業をしている男が一人。その男は、ARのフレームを眺めながら機械を操作している

「随分と働きものだね。ハルトきみは」

「中佐じゃん。やっほ」

「むず痒いな....。その呼び方は。いつもの呼び方にしてほしい」

 世間も静まり返った中、孤独に働き続けているハルトのもとに現れたのは、アイカだった

 服装もラフで、私服のようだったので、業務中でないことは確かだ

「そういうアイカはなぜここに?」

「僕は業務が終わったから見に来たんだよ」

「なるほどな」

 もし仕事が先程終わったというのなら、彼女も働き者の一人だな。ハルトはそう思ったが、察しの良い彼はそれを口に出さなかった

「けど君、かなり集中力あるんだね」

「まあな。大変だけど、こういうのは楽しいよ」

 ハルトが今操っているのは、自動素材形成機。操作は自動とは程遠い手動だが、かなりの精度で金属板を切り取ったり接着してARの一部を作ることができる

 何より、作るための素材の大きさ上限がないため、手動でありながらも製造系の人間からは人気なのだ

 ちなみにこの作業を行うにあたっては、集中力を切らし、あらぬ方向に金属板を切ってしまえば1から再度やり直しになってしまう 

 そのため、とても集中力なしにできる作業ではないのだ

「なるほどね.....。で、終わりそう」

「.....幻聴がついに俺にも......!」

「幻聴じゃないし、顔面を蒼白から人に取り戻して」

「取られてはないぞ」

「ほら、もう帰りなよ。もう遅いし」

「あいにく、まだやることがかなりあるんでね。その要望に応えられそうにない」

「むぅ..」

 少しの静寂。二人の間にはウィーンというカッターが金属板を切り刻もうと全力かどうしている音だけが響く

「準備完了です。そこのコクピットに座って操縦桿を握ってください。あとは機械が魔力を測ってくれます」

 奥から出てきたルイスが指差す方向には、コクピットをもした角を丸くした立方体。その装置で魔力を計測するようだ

「おや、君は。」

「あなたも居たんですね。アイカ大佐」

「中佐だよ」

「これは失敬」

  二人が会話している中、ハルトは立方体へ向かって歩く

 ハルトが近づくと扉のようなものがガバっとオープンカーのように開き、迎え入れる

「これで.....、操縦桿を握ればいいんだな?」

「そうです」

 操縦桿を握る 

 指先に熱いものが宿り、全身を駆け巡る

 それに呼応するように、コクピットのモニターが危険性を感じさせない鮮やかな赤色に変わる

「どうです?反応はしましたか?しているようですね。これなら....」

「ちょっと待って。この画面は...」

「?どうしたんだ?」

「数値が出ない....?おかしい」

 結果として、コクピットは赤く輝いた

 それだけだ

「バグ...でしょうか」

「それはないと思う。この反応が出ている時点でシステムは正常だよ」

「おいちょっと待て。俺にも説明を」

 当事者何にもかかわらず、これまでずっと蚊帳の外だったハルトが堪らえ切れず説明を求める

「通常なら、こんな感じで輝いたあとにモニターに数値が映し出されて、その数値がどれくらい魔力を生み出せるかの指標になるはずなんだけど......」

「それがでない..と」

「うん。魔力の生産量は人それぞれだけど、こうなった時点で必要な魔力はあるから安心して」

「いや、そうとも言えませんね。先程、僕がシステムそのものを確認しましたが、システムそのもの異常はなく、この機械に魔力が流れてないが、魔力が流れたと認識しているという状況です」

「ということは、囮?」

「囮...というより、代替品に近いかと」

「つまり?」

「つまり、君には魔力がないってこと。」

「けどそれってハイヴァルがあるなら魔力は必要ないんじゃ」

「ハイヴァルを動かすにも魔力は必要だよ。ハイヴァルは人が持つ少しの魔力でARが動くようにするための機械でしかないからね」

 この世界は基本的に物を動かすには魔力が必要。とはいえ、毎度毎度魔力を注入するのは面倒だ

 そのため、生活用品などは、魔力を貯めておくバッテリーに魔力を注入しており、それを消費して使う仕様になっている

 なので、使うだけなら本人に魔力はいらない。だから、ハルトは形成機を操れたのだ

「安心してください。ARを動かせない訳ではありません。バッテリーを使います」

 ARについても、同じ機能を有するものがある。しかし、効率が悪すぎて普及はしていないが

「ハルトくんが乗ってたあのAR。試験機だったよね?。それならバッテリーか…」

「ええ。試験をするのにうってつけですからね。バッテリーは。そういう面ではある意味幸運だったのかもしれません」

「新しい機体も、バッテリーかな」

「そうですね」

「まあ、そこら辺は後々考えるとして、今日は解散」


 いろいろな疑問を残したまま、その日はそのまま解散となった7


 

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《Rüstung-Sword》 バールのようなもの @259458rjdhu

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