26話 熱烈疾走カーチェイス(ただし事故は起きやすいものとする)
「盗まれた!って驚いたはいいけど、一体何が盗まれたんだい?」
「軍から解析を頼まれた薬品だよ。いや、結晶というべきかな?」
「ここが軍から?妙だな.....」
「失礼な」
彼女がいう解析を頼まれた結晶というのは、そのへんの道端に転がってい他綺麗な石などではなく、とあるマリウスとの戦闘で奪取もとい獲得したものらしく、マリウスそのものが異常的な行動をしていたため、解析を頼んだという流れらしい
「それで、そのあと解析を進めてみたら、人工物であること、そして異常性を無理やり発現させる可能性を孕んでいることがわかったんだ。でも、それはまだ解析の途中。あまりにも危険がすぎる」
だから、大事に保管していたんだ。そう続けるセト
がらり
窓を開ける音がする
「盗まれちゃいけないものだったんだけど……って何してるの?」
「ほら、善は急げっていうじゃん」
窓から飛び出て、どこかへ飛び立とうとしているハルト
窓の外はすでに薄暗く、夜が来るのが近いことを寒さと共に知らせてくる
「危険が危ないんだろ?行くしかない」
「危険なら追っかけるべきだろうね」
「まあ、行ってもいいんじゃない?」
その場にいるほぼ全員が追いかけることに賛成する
「……やっぱりそれしかないか…」
「よし行こう」
「車は俺が出すよ」
セトの賛同も得られたので、善は急げ、ということで早速出発することにした
車はカルトが出してくれるらしい
全員が車に乗り込み、シートベルトを絞める
「発信機とかはつけた?」
「一応…。あの結晶の場所は、この道をまっすぐ行けば着くよ」
「結晶とだけ言うのもなんだかな。ここはその結晶を物体Xと呼ぼう」
「いいじゃん。物体X」
「さあ、出発だ」
車にエンジンがかかり、心地いい重低音と共に小刻みに車体が揺れる
そして
「おおおおお!スピード出し過ぎ!!!」
ものすごいスピードで走り出した
窓を閉め切っている車内からでもビュンビュンという風を切る音がダイレクトに伝わってくる
スピードメーターはすでに表示できないはず空白部分に針が振り切っている
「よくこんなの運転できるね!?毎回思うけど!」
「気をつけて!舌噛むよ!」
「そんな危険な運転すんなよ!!!」
外の景色が色だけ残して消えていく
体にかかる圧も、どんどん重くなっていっている
どうやら加速しているらしい
セトはもうすでに青くなっている。酔ったわけではないようで、きっとあまりの速さに恐怖しているのだろう
その頃一方
カルトの前を走る黒い車を運転する、丈の長いシャツとズボンという至って普通の私服といった格好の運転士は、違和感を感じていた
「なんか、変な音が聞こえないか?」
隣にいる、茶色いパーカーを着た男に、運転士の男は語りかける
黒い車のトランクには、緑に輝く結晶が積まれている
「そうか?この車が風を切る音だと思うけど…」
黒い車自体も、アクセル全開フルスロットルで走っているので、結構なスピードが出ている
しかし、それにしても異常だった
後ろからグォンという、風を切るにしてはあまりにも重すぎる音がしたのだ
「しかし、主様に言われた通り、あれを盗んできたわけだが、一体なんなんだ?」
「さあ?我々にわかる範疇のものじゃないんだろうさ」
外の景色はかろうじて捉えられる。そのことからかなりのスピードが出ていることが窺える
「まあ、このまま帰ればいいんだろ?楽勝だな」
だが、そう簡単にいかせるわけがない
追いかける者たちが
「なあ、これはなんだ?」
助手席の男が、サイドミラーを見ながら呟く
そこに映るは、白いボックスカーが迫ってくる姿。しかも残像が見えるほどの速さである
「あ、あれだよ!あれが物体Xを積んでる!」
ところ変わってセトが叫ぶ
「了解」
車はさらに加速し、黒い車の後をピッタリとつける
「次で抜く気か」
カイレが呟く
どうやら本当に次のコーナーで抜くらしい
「なんだあいつら!?まあ、けど抜くだけの馬力はないみたいだな…」
「いや、待て。何かがおかしい」
黒い車も負けずと加速する
回転数がぐんぐん上がる
風を切る音も、ヒューという限りなく無音に近い音となる
しかし、それでも白い車の距離はあかない
「こいつ!?ずっと後をつけてきやがる!?」
白い車の車内は速度のおかげで無音ながらも、どこか無音を感じさせない
前には、急なカーブが待っている
「次だな」
トントントンと、カルトはハンドルを人差し指で叩く
景色はいよいよ色だけとなり、車を加速させるかのように、場面を作る
そして、カーブは目の前に
「今だ…!」
ギャァァァァァァ…!
黒い車の後ろから離れ、さらに加速し、思いっきりハンドルを切る
時間が、止まる
そんな感覚さえ生むほどの圧倒的な慣性が働き、景色の色が混ざる
「慣性ドリフト!?」
そうドリフトだ
永遠と見紛うほどの刹那
その刹那の間に、黒い車を抜いたのだ
「抜かれた!?」
黒い車の方も、何が起きたかもわからないほどの一瞬の出来事だった
だが
「まあ、まだ抜ける」
カーブの直後に現れる直線
そこにむかい、黒い車は加速する
「これで止めるの?」
「いや、まだだろう」
すぐ抜かれる
そうカイレは続ける
「このままいけば次にカーブがあります。決着をつけるならそこでしょう」
黒い車がカルトたちを抜く
「まだダメか……」
車も加速し、黒い車と並ぶ
抜き去ることはできないようだ
暗い夜の道標になるように、道路の車線提示のライトが光っている
そして、すぐカーブが見える
「側溝…!」
カーブに差し掛かる
ガコン。車体に衝撃が走る。側溝にタイヤをはめたようだ
「全速を出し切る…!」
「俺が取り返そう」
カイレが突入する準備を始め、カルトが宣言する
緊迫の中、カーブへ入った
ギャリィィィィ…!
側溝の道筋のまま、ハンドルを切り、アクセルを全開にする
側溝が遠心力を抑え、より純粋なスピードを出す
しかしそれは、相手のドリフトよりも、一段、いや数段上回る速さで、黒い車を振り抜く
「突撃する!」
カイレが叫び、あらかじめ開けていた窓から黒い車の窓を拳銃で叩き割り、中の物体Xを奪取もとい奪い返す
その間、刹那にも満たない時間
カイレが無事に戻ってきたのを確認すると、さらに車は加速し、ヘアピンカーブの最高潮へ差し掛かる
さらにアクセルを踏み込み、振り切った針を超越した速度を叩き出す
慣性も、遠心力も、全てを無視し時が加速しているようにも錯覚する
カルトがハンドルを戻し、側溝から抜ける
「お前どういう身体能力してんだよ…」
「訓練を受けているからな」
「そういう問題じゃないでしょ」
一直線を光のように駆け抜ける白いボックスカー
夜の中に輝くその白い装甲は何よりも目立つ
「!前から来ます!」
ルイスが叫ぶ
宵闇の中から、黒いボックスカーが現れる
「大丈夫。舌は噛まないでね」
速度を緩めることなく突っ込んでいく
そして、黒いボックスカーに衝突する寸前
飛んだ
一瞬の浮遊感
そして、さまざまな色ではなく、黒と白い輝きの二つだけが景色を支配する
それは星空
翼でもついているかのように、いや、ついていると錯覚するほどに、空へ羽ばたいた
多少の衝撃を残し、着地する
そして、一直線をただ、駆け抜けていったのだった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます