25話 ありふれた素材は使いにくい
「本当に、異様ですね………」
「そうだな…」
偵察型AR、シャレイに乗った彼らは、赤い柱へ進んでいく
木も少なければ、音も聞こえない
静けさという異様が支配する中を、二機は進んでいく
ここで聞こえるのは唯一無二、シャレイの駆動音のみ
いつもうるさかった場所が、ただ静かである。その状況は、人に好奇心よりも先に、恐怖心を植え付ける
「流石に怖いっすね…。先輩」
「まあ、な」
あたりは暗闇というわけでもない。冷たい風と共存してきた屈強な地面たちもそこに存在している
だが、赤い柱に近づいて行く度、心臓が跳ね上がり、本能が危険というアラートを出しているのだ
「消音モード起動…っと。ついでに記録レンズ展開」
シャレイの胸部が展開し、丸いパーツが顕になる。記録レンズだ
記録レンズというのは、文字通り記録ことに特化したレンズであり、刺激を与えないようにフラッシュはおろか、駆動音すら聞こえない
また、暗視機能も高く、対象を絶対に捉えるという製作者の意思が垣間見える
「もう起動するんすか…?」
「何かあった後じゃ遅いからな」
シャレイは記録を始める
コクピットのモニターに変わりはないが、少しだけ、解像度が上がったようにも見える
「何事もないといいですけどね」
「それもう、フラグじゃん」
と、その時
目の前の木々が一斉に薙ぎ倒された
道は開け、静寂を貫いていた場所に音が訪れる
そして目の前にはただ青いだけの青空とただ赤いだけの柱が現れる
「なにが…起きた…?」
赤い触手が、金属にも似た硬さになった触手が、反応できるギリギリのラインの速さで迫る
「先輩っ!」
後輩が倒れかけた先輩のシャレイを支えようとワイヤーアンカーを伸ばす
黒いワイヤーは間一髪、触手が届くより先にシャレイに届き、後輩機の元に寄せることができた
「ありがとう」
「一体どうなってるんすかね?」
「これが噂に聞く異常化というやつか?。にしても、これは…」
話をさせる間もなく、赤い槍が豪雨のように降り注ぐ
(やばい…!)
シャレイは標準装備されている盾を空へ向け、槍を耐え切ろうとする
後輩機も盾のカバーできる範囲に範囲に入り、身を守る
しかし、強度が足りず、盾にヒビが入り、欠片が飛び散る
「なんとか持ってくれよ...!」
願いも虚しく、盾は完全に砕け散った
刹那、宙で閃光が弾ける
爆閃光弾。圧倒的な光とともに爆風を吹き荒らし、その場をその場を何とかすることを目的にした武装である
爆発的な光の元、ある程度避けられた槍の豪雨をから逃れる二機
「大丈夫っすか1?先輩」
「俺は大丈夫だ。だけど、まずいな......。さっきので武装全部使い切った」
正確には、壊れていないものはと前につく
「逃げます?」
「そうしたいが.....。まだ伝えられる情報があるかも.....」
「今は命ガ先です。今死なれたら私は一生後悔します」
「....わかった」
すかさず、槍となった触手が飛んでくる
しかし、今度はそれを避けようともせず、手を伸ばす
避けられるはずもなく、その腕は槍に貫かれる
「いまだ」
槍が腕の先に刺さったとわかった瞬間、シャレイは腕を
壊れることによってすべての衝撃を完封したのだ
ただ派手に崩壊する腕を尻目に、二機はその場を離れる
だが、相手のほうが一本上だったか、もう一つの槍が頭上に迫っていた
「よく耐えた!私が称賛しよう!」
響く声
その声とともに、青い閃光がほとばしり、槍が切り刻まれる
「あとは、私に任せて先に行け」
一切の負を感じさせない覇気とともに、青いARが空を舞った
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「ごめんね……。こんな状況で」
「いや、いいんだけど……」
先程まで怒号を怒濤に展開していた人とは思えないほどの柔和な雰囲気のする、情報部の部長こと、クロウ・ニノヤ
黒い髪に端正な顔立ちをしていて、イケメンという部類に入りそうなのだが、いかんせん、ハルトからは先ほどの怒号のイメージが消えず、本当に同一人物かと疑いたくなる
「で、どんな情報が欲しいの?ここに来たってことは何か欲しい情報がああるということでしょう?」
「ええ。軽くて頑丈な素材を探してまして」
「あと、安い」
「そんなのこの世に存在するの…?」
軽くて丈夫な時点で数は限られてくる。なおかつ安いという点においては、もはや天上界の物質と言っても差し支えないだろう
「とりあえず、探すしかないんじゃないかね?」
リエルの言った通り、探さなければ何も始まらない
しかし、あまりにも希少な物質のため、探すのも困難だろう
「うーん。俺の頭には無いな……」
いくら情報部とはいえ、希少も希少がすぎる素材。そんなものはアーカイブにないらしい
「そんなのがあれば学術誌に載せたいくらいだよ……」
「やっぱりか〜。まあ、仕方ないよ」
「違うところを探しますか?森とか」
「虫じゃないんだから」
クロウは考えにふけっている
具体的には学術誌のあたりから
「鳥の皮でも剥ぐ?」
「脆い、脆すぎるよ」
考えにふけっていようと、ハルトたちは変なことを口走っている
「もう、己身一つで突っ込んでいったほうがいいんじゃない?」
「ありだな」
「嘘だろ…」
言った張本人が何を驚くというのか
「じゃあ、ここは地道に一撃必殺武器でも……」
「すでにあるよ。被害ですぎてもはや使えないけど」
「なぜ作った」
全くである
「でかい合体変形ロボ」
「乗りたい人が多すぎて期日に間に合わないよ。抽選が」
「塩撒いたら逃げてくれないかな」
「ナメクジじゃないと思います」
ナメクジは縮むはずだ
「目の前で踊って興味を惹きつける」
「囮になってくれるんだね。よろしく頼むよ」
「そうだ!思い出した!」
がたっ
クロウがいきなり勢いよく立ち上がった
「なにがだい?」
「思い出したんだよ。ある素材のことを」
クロウによると、その素材とは、軽くて丈夫で、防火性能まで付いてるらしい
しかし、一つ問題ああるらしく
「けど、その素材、加工に向かないんだよ」
「どれくらい?」
「戦極凌馬が自分の非を認めるくらい」
「そりゃ大変だ」
柔らかな夕日の日差しが差し込む木造建築の廊下を彼らは歩いていた
「その分安いよ」
「でも、お高いんでしょう?」
「安いってさっき言った気がする。これは新手のスタンド攻撃......!?」
「多分違う」
彼らが目指すは製造部
ARの部品の製造や加工をしているサークルだ
意外や意外、ルイスはこのサークルの所属じゃないらしく、完全にフリーで自由にメカニックをやっているらしい
廊下の質感が変わる
これまでぬくもりを感じさせるものだったのが白くより無機質に感じる廊下に変わる
どうやら、此処から先が製造系の教室がある棟のようだ
少し進むと、目の前に金属質で少し歪んだ扉が現れる
「ここが製造部」
クロウがそう説明し、無遠慮に扉を開ける
「やあ。」
「おお。どうしたんだい?情報の部長さんに....見ない顔だね.....」
そこから現れたのは、美少女だった
翠緑の髪を長く伸ばし、後頭部で一つにまとめている
その形は馬の尻尾のような形で、人はここからポニーテールという言葉を生み出したんだろうと納得ができる
女性にの平均の身長より少し高めで、モデル体型とでも言うのだろうかスラリとした体型だ
胸部装甲は控えめではあるが、控えめであり、その存在をしっかり主張している
「愛と平和を愛する通りすがりの美少女よ」
とりあえずハルトが自己紹介する
自己ではない気がするが、些細な点だろう
「ほほう。私は製造部の部長をやっているセト。フルネームはセト・アガだよ。よろしく頼むよ。、で今回はなんのよう?」
「この間取材させてもらった素材を見せてもらいたくてね」
「え?あれかい?」
「そうそう」
「色々あって、軽くて丈夫な素材を探してるんだ。俺達は」
「なるほどね。まあ、加工できないっていう重大な欠陥があるけど、それは大丈夫?」
「どうにかするから大丈夫」
「あまり君たちのことは知らないっていうか、とくに通りすがりの美少女に関しては何も知らないけど、何かあっても私の責任じゃないからいいか......」
なんとも辛辣だった
「ちょっとまってね、取ってくるから」
そう言って奥へ消えていく
広大で無骨な部屋の中では他の部員たちが忙しく何かを作っている
そのジャンルは鉄鋼から今晩のおかずまで多岐にわたるようだ
あるところからは火柱が上がり、あるところからは水柱があがる
他にも、フライパンから火柱があってるところもあるようだ
「あー!」
よく通る叫び声が裏から上がる
「なにがあったんだ?」
奥に消えてからあまりにも早い時間での叫び声
しかし、なにかドジをしたと言うには遅すぎる時間
残されたハルトたちは、彼女になにかあったのではないかと思い、声がした方へ駆けつける
「どうしたんだ?」
「盗まれた.....。盗まれちゃいけないものが.....!」
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