24話 締切間近は修羅の匂い
「いい案ってのは?」
「コストが軽くて量産に向いていれば使い走行は作れるんだろ?」
「そうだけど……」
「そんな素材どこにあるんだ?」
「探す」
ハルトはキメ顔でそう言った
「アホか」
「可能性がないわけではないですね。うちの学園にはかなり広大なアーカイブがあることですし。探せば近しい素材くらいは見つかるかもしれません」
言うのを忘れていたような気もするが、カルト、リエル、ルイスの三人は、、この国で割と大きめな部類に入る大学の学生である
大きいと言っても名門というわけではなく、手頃な難易度をしているし、カリキュラムもちょうどいいということから、かなりの人数を所有するマンモス校である
そのため、さまざまな生徒、特に一部の特異な生徒のために研究用の自由室と、学生であれば自由に使える機械整備室、最終的には、ありたいことがあるので単位だけくださいといった生徒のために、授業に出席しなくても単位をくれる「遊業枠」を作ったのだ
ちなみに、この三人は遊業枠だ
「思ったより脳筋だね……」
「いい案って言ってもこれ以外ないだろ?」
「まあそうだけど」
「とりあえずアーカイブを探しに行きましょう話はそこからです」
「わかった。行こう」
「あ、いや、君は来ない方がいいかも……」
一緒に行こうとしていたアイカをリエルが止める
「なんで?」
「ものが飛んできたら困るから」
:
「その、情報部ってのはどういうことをしてるんだ?」
「主に学術書の編集だね。あと娯楽雑誌の編集と発行」
「なるほどね」
体液が少し揺らしたら凍るような過冷却をされてるんじゃないかと思うほどの冷えた風が吹きすさぶなか、ハルト達は大学へ向かって歩いていた
こんなに寒いのに空はそれを煽るように青い
「そういえば、君はどんな素材をご所望なんだい?」
「軽くて丈夫なふわふわ素材」
「そんなファンシーの塊が存在するのか…?」
とりあえず彼らは歩いていく
すこしすると、大きな敷地を誇りテーマパークのようにたくさんの建造物がある場所が見えてくる
「あれが大学だね。僕達の学校」
カルトがそう説明する
「さっさと情報部へ行って済ましてしまいましょう」
「それもそうだね」
会話を交わしつつ、大学の門を通る
すると、空気が変わる
比喩ではなく、物理的に
「これは....」
「雰囲気部だね」
「雰囲気部?」
聞き慣れないというか、存在すら知らなかった部活を聞き返すハルト
「うん。学校の雰囲気をつくってるサークルだよ。眼の前にある銀杏の木とかは雰囲気部が植えた」
リエルの丁寧な説明だが、それでもよくわからない
「この学校で一番勢いがあるサークルかな。この学校の大半の人が所属してる」
「たしか、毎年の学園祭で音楽やらそこら辺をカバーしてたのも雰囲気部かな。まあ、雰囲気部自らが音楽をかけるんじゃなくて、やってくれる人の斡旋だけど」
補足が入ってもよくわからない
よくわからないサークルをそんなサークルなのだとハルトが理解したと同時に、リエルたちの足が止まる
いつの間にか、校内に入っていたようで、木目調の床と白い壁につつまれ、生徒たちに多めの安らぎと、程よい緊張をもたらす廊下にたっていた
その前には、もともとガラス窓であったんだろうと思われる、紙が貼られる事によって生まれてしまった白い壁と、重く閉ざされた扉があった
「ここが情報部だよ」
扉を開けると怒号が飛んできた
文字通り、怒号という文字が
「締切間に合うか!!!?」
「いまやってる!!!!」
「もうまにあわねえぞ!!!」
「わかってるわ!!!」
「うるせえんだよお前ら!!!作業に集中させろ!!!!!」
「気にすんじゃねえよ!!!!」
「まじでお前ら黙れよ!!!!寝てられねえじゃねえか!!!!!!」
「寝るなよ!!!!!!」
「ああ!!?てめえのその原稿今すぐここでぶち破ってやろうか!!!!!!!!!?」
「落ち着け!!!!!」
「落ち着いてるわ!!!!!!」
神秘的に投げられた羽毛は、皮肉にも冒涜的に宙に舞う
「やってんね~」
「そんなこと言ってる場合か」
「まあ、いつものことだし」
「こんな物騒な日常があってたまるか」
これが情報部なのか、もっと静かじゃないのか
ハルトは何度もそう思ったが、持ち前の飲み込みと適応の速さで、その考えを引っ込めた
「まあ、締切前だし、切羽詰まってるのもわかるよ」
「器物破損ランキングは、この月だけ一位を情報部が独占してるしね」
彼らが呑気に話してる間にも、資料が火の粉となって儚く散っていく
「オールジャンル系雑誌の発行が間近に迫ったこの時期は毎度のことだよ」
「そんな大事な雑誌が紫電となって消え失せているように見えるんだが……」
「……気のせいじゃないかな」
野生に戻ったような、しかし野生には絶対にない咆哮が鳴り止む
どうやら、怒りのピークは終わったようだ
怒りのピークは6秒間と言われてはいるが、絶対にこの人たちは怒りのピークが六秒以上あった
ハルトはそう思った
「あ、カルトたち」
そして、1人の眼鏡をかけた男がこちらに気づく
「紹介しよう。彼が情報部の部長。クロウだ」
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