23話 新たな異常

 赤い柱が、動き出す

 辺りの木々を薙ぎ倒し、誰も望んでいない 広場フィールドを作り出す

 そして、柱そのものも苦しむかのように触手を地面に突き刺す

 こうして、赤い柱の蹂躙は始まった


 そんな赤い柱が見えなくなるくらいの距離に存在するキャンプ地

 それは、赤い柱の動向を見守るために設立された、キャンプ地であり、そこには基本的に周りのマリウスの状況の確認や、情報の伝達などを主な業務とする監視隊が暮らしている

 と言っても、その監視隊は今は2人だけなのだが

「先輩、もうそろそろ出るんすか?」

「そうだな。周期的通りならこれが最後の状況把握になる…はず」

「歯切れ悪いっすね…」

 白いARの前で青年と少女が会話をしている

 会話の内容的に先輩と後輩の関係なのだろう

「けど…、なんでこんな遠いんすか?対象から」

「危ないからな。癇癪でも起こされてこっちが襲われたひとたまりもない」

「そういうことっすかー。じゃあ、なんで私たち二人だけなんすか?」

「少人数の方がやりやすいだろ。少なくとも俺はやりやすい。それ以外の理由は知らない」

「わかんないっすね」

「真相は神のみそしるってことですね」

 白い機体は進んでいく

 彼らが乗っている機体は、この国の正式量産機である、偵察型のAR「シャレイ」。

 音を立てず、精密に行動することに特化しており、ODは記憶能力が高く、容量も多い

 まさに偵察し、記憶して情報を伝えるという報連相に特化したARになっている

 ちなみに透明化装甲インビシブルアーマーとかいうもはやインチキとまで言える装甲を纏っているため、装甲色は何色でもいい

 まあ、いくらチートみたいな装甲を纏っているとはいえ、少しの衝撃を受けたら解除されると言う弱点も持っている

「先輩。昨日の魔法使い不審者見ました?」

「もちろん。俺を誰だと思っている」

 魔法使い不審者。それは、毎週土曜日の朝八時に放送されるドアサと呼ばれる一連の子供向け番組の一つ「不審者シリーズ」の第13代目の番組である。ドアサ自体、子供向けと名を打っておきながらも、かなりディープかつ重い展開も多く、大きなお友達おとなにも人気なシリーズである。だからおもちゃもよく売れる

「もうクライマックスですけど……。まさかあの人が光落ちするとは」

「堕ちな。それだと落下だから」

「まあ、それはいいですけど……、……なんか、静かすぎません?」

 その森林には、風が吹いて木の葉が揺れる音もしない、ただの静寂が訪れていた

「確かにな。なければいけない音がない気がする」

「ちょっと危険っすか?」

「もしかしたらな。だけど、大事にはならないはず。けど、気は抜くなよ」

「もちろんっす」

 彼らの監視対象である赤い柱自体、災害級の大きなマリウスであるものの、街の方へ攻めてくる様子はなく、なんなら毎年の討伐も、マリウス側も、国側も一つの風物詩として楽しんでいるようでもある特異なマリウスだ

 だからこそ、討伐が始まりを告げる、赤い柱の活性化があるまでは、こちらが一才の刺激を与えなければ安全なマリウスなのだが、今回は異様な雰囲気が渦巻いていた

「そういえば、木、少ないな」

「言われてみれば……」

 周りを見渡してみると、木がちらほらと見えるが、森林と呼べるほどの木は無い

 それも、不自然に無いのだ

 まるで削り取られたように


 異様な雰囲気を感じながら、2機の白いARは進んでいく

______________________________________

「おーらい。おーらい」

 無機質な灰色の壁で囲まれた大きな空間に、カルトの声が響く

 カルトの目の前には、胴体はひしゃげ、右足、左腕がない元のARがどんなARだったのかさえ判別できない金属の塊が、格納庫に運び込まれる光景が広がっていた

「これをどうする気なんだい?」

 リエルがハルトに聞く

「骨組みの髄まで徹底的に分解してわからないところを無くしてやる」

 ハルトの回答に思わずリエルは天を仰ぐ

 要するに呆れたと言うことだ

「まあ、これが最もいい方法ですよ。現物を見る、現物がここに存在するならそれ以外で最もよくわかる方法なんてありません」

「そりゃそうだけどね……」

「軍には怒られないのか?」

 搬入が終わったカルトが話に混ざってくる

「いいかよくきけ。バレなきゃ犯罪じゃ無いんですよ」

「壮大なフラグをありがとう」

「あれ、もう動かないけど、分解して何かわかる?」

「動かないにしろプログラムは残りますよ。動かないだなので。物理的障害でプログラムが破損なんてことはないでしょうし」

「分解した後はもう廃棄かい?」

「溶鉱炉にぶち込んで彼の機体の糧にします。学園側には実験とでも言っておけばいいでしょう」

 なんだかんだで太々しいルイス

 そしてハルトは自分が最初に乗ったARを思い出した

「そういや、あの赤い機体は使わないのか?」

「使えないこともありませんが、それではあまりにも型にハマり過ぎている。それなら新たな量産機の製造に回した方がいいでしょう。だからこそ一から作ることにしました」

 ハルトのやりたいことを理解した上でのこの行動だった

 やはり類は友を呼ぶ。まさに、2人のメカオタクは通じ合うと言うことを証明したと言えるだろう

「間に合うのかい?」

「奇跡が10000回起こらないと無理でしょう。なのであくまで、あの赤い機体、いくストライトはスペアです」

 人の声が響くだけの空間に、パタパタという足音が聞こえる

 その音の主の方向を見ると、そこにはアイカがいた

 走ってきたのか息を切らしている

「大変…!………ってなにこれ?」

 そしてアイカはボロボロのARを目の当たりにした

「アーテガスベッター」

「そんなわけないでしょ」

 誤魔化すのは無理だった

 無茶であり、無謀だった

「で?なにが大変なんだ?」

 ハルトが問う

「赤い柱の周期が……、早まった……!」

「は!?嘘でしょ!?」

「今回は監視隊からの報告。情報は正確だよ」

「んな……バカな」

 カルトが面食らってる

「どういうこと?」

「あの赤い柱は、一定周期で活性化するんだ、そしてそれが防衛戦の合図となるんだけど……。今回はそれが想定の倍以上早い」

 またしてもなにも知らないハルトの問いにアイカが丁寧に答える

「要するに、期間が早まったから何かの異常があった合図というわけか」

 その声の主は、カイレだった

「カイレ?なぜここに?」

「迷った」

 想定以上に情けない理由を聞き流しながら、アイカに続きを求める

「その通りだよ。基本、マリウスが行動周期を外す場合は外的異常価、内的異常、またはその両方がある」

「なるほど…。要するに」

「今回はその異常が表れたと」

「そういうこと。しかも今回の異常は純粋な能力の底上げ、最も厄介なやつだ」

 能力の底上げということは、現在の量産型のARでは追いつけない、技量でカバーできないくらいの能力に達したということであり、複雑な能力の追加よりもこっちの方が厄介と言える異常性だ

 そしてルイスは、このままでは間に合わないことを告げる

「現状、このままでは、彼の機体の製造は間に合いません。それに、能力が底上げされているというのなら、ARの強化も必須になります。ならばここは、軍の施設の利用許可を私たちにくれるのが先決かと」

「そうだね…。けど、君たちがARの強化、あれに対抗できるだけの強化を達成できるとは…少なくとも現状でも思えない。だからここは、軍で…」

「任せろ」

 アイカのセリフにハルトが被せるようにして発言する

「は?」

「俺に任せろ。いい案を思いついた」

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