第4話 農園拡張


「魔力をより多く使えば石の大きさや早さを上げることができるよ」


 さくらんぼの精霊がそう教えてくれる。


 なるほど。


 俺はもう少し強い力をイメージしてストーンバレットを放ってみる。


 すると石つぶては勢いよくライナー性に飛んで、木のみきへ当たった。


 跡を見ると、石は3センチほど木にめり込んでいる。


 これなら一応は魔法を使う意味のある威力じゃないだろうか。


 ただし、今度は魔力の消費も多く、3減っていた。


 残りの魔力はもう『0/6』だ。


 うーん、魔力が少ないなあ。


「最大魔力は農園で1日に採れるフルーツの量で変わるよ」


 と、フルーツの精。


 1日に採れる実の量を増やすには、


1、農園を広くしてコマ数を増やす


2、農園のレベルをあげる


 このどちらかをすればいいんだと。


 今日の感じだと『さくらんぼ園レベル1』は1コマで1日に3つの実をつける。


 それで最大魔力が6だったんだから、さくらんぼ1つにつき最大魔力が2増えるってことかな。


 つまり、たとえば今日食べたさくらんぼのタネをとなりに植えて1コマ広げれば1日の収穫量も増え、最大魔力も6増えるってことだ。


「そうだね。まずはそうやって農園を広くしていくのがオススメだよー」


 もう1個の魔法『肥料生成』ってのも気になるけど、一気にいろんな魔法を練習するとパンクしそうだからな。


 ここは精霊の助言どおりにやってみるか。


 というわけで。


 また荒地に農地を作っていこうと思う。


 現状はこんな感じ。


――――――――――――

[  家  ]

  ✕□ ✕

    ✕

――――――――――――

□=農園 ✕=岩



 この農園1コマのとなりにもう1コマ農園を作るってわけだ。


 岩は重くて動かせないから、そこは避けて拾える小石を退かし、草を抜き、土を耕す。


 ざくざくざく……


 そして、耕した土に水を撒くと、そこへ魔法さくらんぼの種子タネを植えるのだ。


「よし、できたぞ」


――――――――――――

[  家  ]

  ✕□□✕

    ✕

――――――――――――

□=農園 ✕=岩



 農園はこんな感じで拡張された。


「もうちょっと広げるか」


 さくらんぼのタネはまだ2つある。


 つまり、あと2コマ拡張できるってことだ。


「ヒロト様。もう日が暮れてしまいますわ」


「え?」


 もうそんな時間か。


 夢中になってやってたから気づかなかった。


「早くおうちにお入りあそばせ。夜は魔物が出るのですわ」


「魔物?」


 この土地は鬱蒼とした木々に囲まれている。


 林の隙間の暗闇にはナニかが棲むようなおどろおどろしい雰囲気があった。


「家へ入れば襲ってはきませんわ」


「なるほど」


 というわけで今日はここまで。


 今の装備だと農園1コマ作るのに丸1日かかるなあ。



 ◇



 次の日。


 農園2コマからさくらんぼが6つ採れた。


 最大魔力は12となる。


「フルーツを食べると昨日減った魔力が回復するよー」


 と、さくらんぼの精霊。


「お、本当だ」


 さくらんぼを一つ食べると魔力0/12だったものが2/12に回復していた。


 あと5つあるから、全部食べればちょうど満タンだ。


「ヒロト様……」


「ん?」


 気づくと、フルートが期待の眼差しでこちらをジッと見つめていた。


「食いたいのか?」


「あ、いえ……その、もし、よかったら……」


 フルートは懇願するように上目づかいである。


 彼女はこのさくらんぼのうまさを知っているからな。


「そっかあ。でも、これ全部食べないと魔力が全快しないからなあ」


「そ、そうですわよね……」


 俺は女を放っておいて、ふたつめのさくらんぼをへ手をつける。


「ウマーい!」


「ああ……」


 うらやましそうに唇の下に指を当てるフルート。


 やれやれ。


 冗談はこれくらいにしておいてやるか。


「ウソウソ。半分あげるよ」


「え……?」


 俺は6つ採れたさくらんぼのうち3つをフルートへ手渡した。


「でも、それではヒロト様の魔力が……」


「大丈夫。今日はまた農作業だ。魔法の練習はしないから明日回復できればいいよ。めしあがれ」


「ありがとうございます……!!」


 そう言うとフルートはようやくひとつめのさくらんぼを頬ばる。


「……美味しいですわー☆」


 女の目がきらめき、なめらか着物に突き出された尻の影がぷりッとして、喜んでいるのがわかる。


「うふふふ」


「ははは!」


 自然と笑みのこぼれる美味しさ。


 そんな俺たちを見て、さくらんぼの精霊が満足げにうなづいていた。



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