砂上の楼閣

旗尾 鉄

砂上の楼閣

 どこか、遠い遠い国の話である。


 その国は、砂漠の王国だった。

 見渡すかぎりの砂の大地。どこまでも広がる大砂漠の国だ。

 砂漠の砂以外は、ほとんどなんにもない国だ。


 人々は、砂の大地で砂にまみれて暮らしていた。

 テントを我が家として、ラクダとヒツジを飼って暮らしていた。

 他の国と比べれば、貧乏な国、貧乏な生活だった。

 でも、誰もなんとも思わなかった。その国では、それが普通だったのだ。


 あるとき、ひとりの外国人がやってきた。

 立派なスーツを着たその男は、ビジネスマンと名乗った。

 みんな、ビジネスマンとはなにをする人なのか、よくわからなかったけれど。


 ビジネスマンは王様に謁見えっけんすると、砂を売ってほしいと言った。

 みんな驚いた。

 ほこりっぽくてじゃりじゃりする、なんの役にも立たないこんなものを、お金を出して買うなんて。

 お金なんか出さなくても、勝手に持っていったって構わないのに。


 王様は喜んで、好きなだけ売ってやると許可した。

 ビジネスマンは大きな船に、大量の砂を積んで帰っていった。

 それからもビジネスマンは毎月毎年やってきて、大量の砂を運んでいった。


 安い金額だったけど、大量の砂を売ったおかげで、国にはお金の蓄えができた。

 国に蓄えができたころ、別のビジネスマンがやってきた。


 ビジネスマンは王様に謁見すると、巨大なビルを建てないかと誘った。

 ビジネスマンの国のダイガクというところで、新しく開発した建材を使うという。

 外国の大きなビルに憧れていた王様は、大喜びで話に乗った。


 ビジネスマンの国から、たくさんの建築資材が運ばれてきて、ビルが次々に建てられた。

 高いビルに取りつけられた一面のガラス窓は、砂漠の王国の強い日差しを浴びて、きらきらと輝いた。

 みんな、そのようすをうっとりと眺めた。

 ラクダもヒツジも、まぶしそうに目を細めた。

 みんな、自分の国がとても立派な国になったような気がした。


 誰も、ビルの建材の原料を知らなかったけれど。ビジネスマンの国で砂漠の砂から建材を作る研究をしていることなど知らなかったけれど。






 今日もまた、ビジネスマンがやってくる。

 安いお金と引き換えに、砂漠の砂を持っていく。


 明日もまた、ビジネスマンがやってくる。

 高いお金と引き換えに、豪華なビルを建てにくる。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

砂上の楼閣 旗尾 鉄 @hatao_iron

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ