●40・永遠に続く道【最終】
●40・永遠に続く道【最終】
終戦の狼煙が上がった。
それを見た両軍は、徐々に戦いをやめ、事前に告知されていたとおり、それぞれの軍の集合場所へと向かった。
「勝った……のか」
アルトはその狼煙を、確かに見た。
「そうみたいだな」
ヘクターが同調する。
◆おめでとう、ミッション達成だ◆
神通信も開き、その結果をアルトに告げる。
彼は自分の勝利を、ようやく理解した。
これは学園の行事であるから、仮想空間から全員が抜け、その無事を確認すると、大講堂で表彰式が行われた。
「西組を代表して、アルト」
「はい」
彼は返事をすると、壇の上へ昇った。
「……よって、これをもって、第三十二回の大規模演習において、西組が勝利したことの証とする」
理事長からアルトは、うやうやしく表彰状を受け取った。
その日の夜は、大規模演習を終了したことをねぎらうため、学校で夜会が行われた。
しかし、こうも大人数だと、アルトはなかなか気が進まない。
必要なあいさつなどを一通り行った彼は、夜風を浴びるべく、人の気配のしないバルコニーへと向かった。
一息つく。
空はすでに夜の帳が下りた。月の光と、星の輝きだけが彼を迎える。
風はひんやりと冷たい。しかし、緊張続きだった彼にとって、その冷たさはかえって心地が良かった。
少しずつ、身体の熱が落ち着いていく。
◆ずいぶん疲れているみたいだね。大丈夫?◆
神通信が開いた。
◆なんとか。まあまあですね。そちらは?◆
◆こっちも、きみの活躍のおかげで、運命に対する攻勢の活路が開けたよ。本当によく頑張ってくれた。感謝に堪えないよ◆
◆よく分かりませんが、まあ良かったんですね◆
◆だいたいそう理解してもらえれば助かる◆
神はそこで息をついた。
◆もしかして、お邪魔だったかな。きみも大変そうだしね◆
◆いえ、大丈夫です。むしろ多少の会話をしてくださったほうが、かえって落ち着きます◆
◆そうか。そうだね、何を話そうか◆
そこでアルトは返答に詰まった。
ミッション関連以外で、いったい何を話せばいいんだ?
すると神が助け舟。
◆いや、すまない。こんなこといきなり言われても困るよね◆
◆いえその……まあ、そうですね◆
アルトは、誰も見ていないのに、ついうなずく。
◆そうだね……まずはきみ自身で、頭の中を色々整理したほうがよさそうだね◆
◆そうかもしれません◆
◆じゃあ、通信を閉じるよ。今回は本当に、お疲れ様でした◆
ぷつりと通信が切れた。
彼は、いくぶん冷えてきた頭で、今後を考える。
ミッションは、今回で下っている分はあらかた達成したはず。当分はミッションについては考えなくてもよいかもしれない。そういえば神も活路が開けたと言っていた。
とすると、この空白ですべきことは、自己の鍛錬だろうか。
まあ、それも重要そうだが、きっとそれだけではない。
今回の勝利につき、最大の立役者は、おそらくベトレヒトである。
……いや、アルトも、そしてもちろんヘクターやフレデリカも仕事はちゃんとしていた。特にこの三人は、誰が欠けていても、きっと難しかった。
しかし、だからこそ彼は思う。
個人の力だけでは、今後の様々な苦難は解決できない……こともあるかもしれない。そのときに頼りになるのは、友人、交友関係、そして各種の伝手なのではないか。
要するに、もっと親交を広げ、そして深める必要がある。
特に、学園を卒業したあと、アルトたちがどうなるかはよく分からない。
ゲームでは一応のエンディングがあり、そこで各々のざっくりした進路が示されていた。しかし、ゲームとこの世界はどうやら少し違うらしいし、仮にエンディングが正しかったとしても、神によるミッションは続くと思われ、また進路もざっくりとしたものでしかなかった。具体的にこの人生がどうなるか、少なくともアルトにそれを知る手段はない。
彼は冷えた風にぶるりとした。どうやらこれ以上は冷えすぎるようだ。
そこへロナがやってきた。
「アルト、こんなところにいたの!」
「ロナ」
彼はロナのほうを向く。
「なに、夜風を浴びてたの?」
「ああ。だけどちょっと寒くなってきたね。ごめんね、一人で抜けていて」
「まあいいけど、夜会ももうすぐ終わるから、主役のアルトを探してたところだよ!」
「なるほど」
彼はうなずいた。
「終わるんだったら、確かに主役がいないと締まらないね」
「そうだよ、行こう!」
言われて、彼は「ふうぅ」と寒がりながら、ロナの後を追って、バルコニーを後にした。
星と月は、何をとがめるでもなく、ただ静かに光っていた。
夢幻の学園——転生した男は貴族学校でミッションのため奮闘する 牛盛空蔵 @ngenzou
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