生まれて初めてバンドにハマった話 Mrs. GREEN APPLEは実質救済
鳥羽ミワ
第1話
私は大森元貴さん、ひいてはMrs. GREEN APPLEを信じている。大好きだ。とりあえず、ファンクラブに入った。こんなに音楽コンテンツを好きになったのは初めて。これまで多種多様な作品にハマり二次創作をしてきたけど、これはどうすればいいのか分からなくて、右往左往している。
紅白で「ダンスホール」のパフォーマンスを見たとき、私の中でこれまで認知していなかった部分のスイッチが入った。天国がこうだったら楽しそうだな、とめちゃくちゃ思って、気づいたらYouTubeを見ていた。
画面の向こうのみんなは、とても楽しそうだった。綺麗で明るい色の衣装を着て、笑顔で歌って踊っている。この世界をダンスホールだと朗らかに歌う声。当時私は卒論や人間関係やさまざまなことで問題を抱えていて、まぁだいたい私が悪いせいで発生した問題だったので、心底自己嫌悪していた。そこで紅白のパフォーマンスに衝突して、「もしかして救いってこういうこと?」とミセスに興味を持った。
私がまず触れた曲は、ダンスホールとケセラセラだった。この2つの曲の歌詞は、負の感情が底に敷かれている。自分が嫌いだ、認めたくない、どうして自分ばかり不幸になるんだ、という苦しみを、まるっと肯定しているように思った。近くで見るとそれは自己愛の肯定だけど、引きで見てみると、博愛で包み込まれている気持ちになる。だって自己愛と言うには、ミセスの曲には他者がいて、聞き手に向かって「手をつなげるくらい近くにいる誰かを、あなたは愛しているんじゃないのか」と問いかけている気がする。そして、自分を愛せるのは自分だけだ、としっかり念を押す。
そうして念を押される私は、精神的にかなり幼稚な人間だ。自他境界が曖昧で、自分自身が嫌いだ、と思う気持ちより強い、自分がかわいいという衝動でトラブルを起こしまくっている。人にたくさん迷惑をかけて注意される。それで萎縮してせっせと自己憐憫する。最悪だ。最悪だから認めたくなくて目を逸らしてしまう。
そんな自分を、Mrs. GREEN APPLEはでっかい博愛で包み込む。少なくとも、私はそういうふうに感じていて、すっかりファンになってしまった。
ミセスは、別に私の幼稚でゴミみたいな人格を「そのままでいいよ」と肯定しているわけじゃない。ただ、自己嫌悪をすること自体への肯定と、今に寄り添った言葉をくれる。自己嫌悪や自己憐憫で沈む日があっても、君はなりたい姿になろうと頑張れる人だよ。立ち上がれるよ。勝てなくても、負けずにいることはできるよ。ミセスは、どん底から立ち上がるための装備をくれる。自分が、自分のなりたい姿になることを応援して、力を貸してくれる。ミセスはなにも「あなたは素晴らしい人だ」と言っているんじゃない。「私たちは素晴らしく、あなたは自分で立ち上がれる人だ」と背中を押す。だからミセスを知った私は、こんな自分のことを認めてもいいのかな、と思うし、立ち上がりたい、変わりたいしきっと変われる、とも思える。
私は自分が嫌いだけどかわいくて、そんな自分が気持ち悪い。人を傷つけて、時間は戻らなくて、間違えたことはやり直せなくて、たびたび取り返しのつかないことをしたとパニックになる。
だけど私は私にしかなれないし、自分がかわいくて当たり前だ。この世界って私たちのためのダンスホールらしい。だから私は人生を楽しむ権利も私を愛する権利も持っているし、それは何者にも犯せない。他の人も同様だ。ミセスが歌っているのは、たぶんそういうことだと思う。人生を肯定する方法を、めちゃくちゃ考え抜いて作っているんじゃないか。作品の根底にあるのが自己嫌悪や自己憐憫だと勝手に思い込んで、私はMrs. GREEN APPLEの、大森さんの言葉を信じる。この好きという気持ちが自己投影によるものでも構わない。だってそれによって、ミセスの私の人生における素晴らしさが損なわれるわけがないから。何より、人生を支える柱のひとつに、Mrs. GREEN APPLEというバンドが加わったのは、大森さんの言葉や音楽が単純にめちゃくちゃ素晴らしいからだ。私は熱狂しているし盲目だし、全然冷静じゃない。でも、信じる気持ちだけは綺麗に筋道が立っていて、ミセスの音楽を私の人生に繋いでいる。
私はファンクラブに入ったばかりで、ブログを全部読めているわけじゃない。動画も全部見ているわけじゃないし、彼らのことをなんにも知らない。はっきり言ってニワカだ。でも終末が訪れるときは天使のラッパの音じゃなくて、大森さんの歌声じゃないと救われないと思うくらいには、信じている。私は彼らから勇気をもらったり、日々のつらさや怖さを耐える力を貸してもらったりしているので、信じるものは救われるって本当のことなんだ、と驚いている。ミセスに、びっくりするくらい救われた。毎日のようにMrs. GREEN APPLEを聴いて、全部投げ出して消えてしまいたい気持ちを抱きしめてあやして、できることをひとつずつやろうと決めている。ミセスに出会えてよかった。
生まれて初めてバンドにハマった話 Mrs. GREEN APPLEは実質救済 鳥羽ミワ @attackTOBA
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