第17話 めでたしめでたし

 学習発表会が終わった。わたしたちのクラスの出し物がびっくりしたけど楽しかったって、客席に戻った後周りのクラスの子が言っているのが聞こえた。

 教室に戻ってからも、みんなの興奮は冷めていなかった。

 ヒップホップのダンスを踊っていた子たち。歌を歌っていた子たち。楽器を演奏していた子たち。

 みんな、それぞれにお互いにすごかったね、よかったね、なんて言い合っている。

 あそこがどうだったとか、あの振り付け上手くいったとか。歌、あれにしてよかったねとか。盛り上がって楽しかったとか。大道具の子も、失敗しなくてよかったなんて話している。

 わたしは自分の席で一人、そんなふわふわした空気を感じている。

 わたしはどのグループにも入っていなかった。だけど、どれのグループのことも気になってはいたから、聞き耳を立ててそれぞれの子たちが言い合っているのを聞いてしまう。

 ああ、本当によかった。考えてよかった。あのままにしなくてよかった。

 わたしは裏方の裏方みたいなもんだし、こうやってみんなが喜んでいてくれればいいかなと思う。

 誰が書いたかなんて、考えたかなんて、今のみんなにはきっと関係ない。どうだった? なんて聞いたら、わざとらしい気がしてしまうし。

 今日は実際に舞台に立っていた子の方ががんばっていたことは間違いない。誰にもなにも言われないのは、ちょっとさみしいとか多分わがままだ。

 後で、帰りに香苗ちゃんのところに行こう。がんばってナイショにしていたから、今日の劇にはびっくりしてくれたかな?

 感想を聞くのが楽しみ。


 帰りの会のチャイムが鳴って、わたしは教室を飛び出す。そのまま、すぐに香苗ちゃんのクラスに行こうとしたら、


「長尾!」


 誰かがわたしを呼び止めた。この声は、多分。

 ふり向かずに行ってしまおうか。だけど、追い掛けられたり、明日何か言われたりしたらどうしよう。

 ちょっと迷ってから、わたしはふり向いてしまった。

 そこにいたのは、やっぱり小林君だった。


「あのさ」


 怒っているような顔で、小林君は口を開いた。

 立ち止まらなきゃよかったかな。舞台の上では楽しそうに踊ってたし、練習も嫌な顔をしないでやっていたと思う。それでも、今になってまた文句を言いたくなったのかな。

 急いでるからって、言った方がいい?

 でも、小林君はわたしが口を開く前に言った。


「ごめん」

「え?」


 今、なんて言った?

 小林君が、ごめんって言った?

 ヒップホップを踊れるって決まったときはうれしそうにしてたけど、わたしに対しての態度は変わっていなかったのに。だから、嫌われているのは変わらないと思っていた。


「お前のせいでダンスできなくなってイライラしてたから。悪いとは思ってて。……でも、お前の考えたかぐや姫、すっげー楽しかった。すごいな、お前。あんなこと考えて。オレには思い付かなかったから。全部やるなんて」

「あ、ええと」


 言葉が出てこない。


「お前、全然処理落ちなんかじゃなかったじゃん。……だから、ごめん!」


 叫ぶように小林君が言った。顔が、赤い? 言うの、緊張してた? 小林君が?

 まだわたしが何も言えないうちに、小林君はくるっと背中を向けて走って行く。

 あれ? どうしよう。

 わたし、すごいって言われた?

 しかも、小林君に? これって、どういうこと。ああ、そうだ。悔しがらせること、できたってことかな。最初の目的どおりに。すごくうれしいはず。

 でも、変だ。

 悔しがらせたことよりも、すごいって言われたことの方がずっとうれしい。

 誰もわたしに言わなかったことを、あの小林君が。

 香苗ちゃんに会ったら、報告しようかな。でも、なんだか恥ずかしい気もする。

 それに、そうだ。今、思った。

 小林君はわたしのことをすごいって言ったけど、小林君もすごかった。あのダンス。

 あれは、わたしには絶対できない。

 小林君はそうじゃないって言ってたけど。言いたいことを思い付いたときには、その人が目の前にいない。

 やっぱり、わたし処理落ちしてない?

 小林君がわたしのことすごいって言ってくれたからかな。今なら素直に思うのに。でも、もう少ししたら、あんなにいじわるしたくせにって、どうでもよくなるかも。

 だけど、今はちょっといい気分。

 我ながらめちゃくちゃなお話だったけど。もっと上手く書けてたらなとも思っちゃうけど。

 だけどあの劇のかぐや姫はきっと幸せだったと思う。

 今のわたしみたいに。

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処理落ちかぐや姫 青樹空良 @aoki-akira

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