第16話 平安ダンスバトル

「えー!」

「何それ」


 舞台の下、つまり観客たちからびっくりしたような声や、笑い声があがる。それから、拍手とちょっとずつ始まる手拍子。

 よし! とわたしはぐっと手を握る。

 そう、かぐや姫たちの目の前で彼らが踊り始めたのは、ヒップホップ。その先頭に立っているのは、小林君。

 すごく生き生きと、キレのあるダンス。

 本当にこれがやりたかったんだろうなって、そう思えるような。

 しかも、昔っぽい着物の衣装でやっているのが不思議にかっこよく見える。

 ダンスが終わって、今度は右側で座っていた若者たちが立ち上がってダンスをしていた若者たちと交代する。

 そして、真ん中にキレイに整列すると今度はその若者の役の子たちが歌い出す。かぐや姫とは思えないポップなやつ。

 最後は、いつの間にか楽器を持っている若者たち。大道具のところにこっそり隠してあったんだ。

 さっきの歌の伴奏だけを彼らがやっていることに観ている人は気付いただろうか。

 演奏が終わる。

 三つのグループはみんな座って、かぐや姫だけが立ち上がる。そして拍手をしながら言う。


「ありがとう。ですが、みんな素晴らしくて決められません」


 納得できない若者たちが立ち上がる。


「俺たちが一番だった!」

「違う! 僕たちだ!」


 口々に言い始める。そして、


「もう一回勝負だ!」


 さっきよりも激しく踊り始める若者たち。負けるものかという感じで、それに楽器を演奏する若者たちが加わる。遅れるものかと歌い始める若者たち。

 最初は勝負みたいに始まって、段々と三つのグループの若者たちのタイミングが重なっていく。

 よし、ぴったり!

 本当にこれ、かぐや姫?

 今、この劇を見始めた人だったらきっとそんな風に思ってしまうだろう。

 かぐや姫、そしてそのとなりにいるおじいさんとおばあさんの前で、楽器の演奏に合わせて歌って踊る若者たち。しかもそれが、昔話風の衣装を着ているからなんとも言えないおかしさというか、不思議さを出している。

 なんというか、平安ダンスバトル? ダンスと歌と演奏でのバトルだからちょっと違うんだけど、イメージ的にはそんな感じ。

 これがわたしの出した答え。

 わたしが最後に手をあげたことで、出し物は劇に決まってしまった。だけど、本当はダンスも、合唱も、合奏もやりたい子がいて、できなくて嫌な思いをしていた。

 だったら、って思ったんだ。

 それなら、かぐや姫の中に全部入れちゃえって。

 みんながやりたいことを全部入れちゃえって。

 思い付く前のわたしの頭の中では、みんなが言っていたことがぐるぐる回っていた。わたしが書いたかぐや姫が、どうしたらもっとよくなるかってずっとぐるぐる考えていた。

 考えて、考えて、考えていたらパって浮かんできたんだ。帰りの会の途中で。

 あの後、勇気を出して言ってみた。言葉に詰まったりはしたけど。

 そうしたら、学級会の時間にみんながわたしの最初の脚本を読んだときとは全然違う反応が返ってきた。

 舞台の上で、若者たちが白熱しているところにちょっと豪華な衣装を着た役の子が通りかかる。そう、帝。かぐや姫のウワサを聞きつけて結婚を申し込みに来たという。あの、帝。

 だけど、この劇では、


「なんじゃ、この楽しそうな宴は」


 帝は思わず一緒にダンスを踊り出してしまう。

 客席から、笑い声があがる。

 踊っている子たちはみんな楽しそう。楽器を演奏している子も、歌を歌っている子も。

 わたしは……。わたしも、すごく楽しい。だって、わたしが考えた劇で、こんなにもみんな笑顔になってくれている。だから、すごくうれしい。

 いつの間にか、かぐや姫まで一緒に踊り出す。おじいさんも、おばあさんも。

 客席からは手拍子。

 月からの迎えもやってくる。かぐや姫は帰らなくちゃいけない。でも、


「あなたたちも入って入って!」


 あろうことか、かぐや姫の方からダンスに誘ってしまうんだ。つられて踊っちゃう、月の使者たち。

 もう、舞台の上はめちゃくちゃだ。かぐや姫の劇としては。

 だけど、みんな一生けんめい自分のやりたかったことを、得意なことを、練習してきたことをやっている。

 そして、かぐや姫は言うんだ。


「結婚相手なんて今はどうでもいいじゃない! わたしは月にも帰らない。ここでみんなと一緒に楽しく暮らすわ!」


 って。

 誰にしようか決められなかったかぐや姫が、そう言うんだ。

 そうして幕は下りた。

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