015 ノーマン二刀流奥義!

「グルオオオオォォォ!!!」


 紫ゴブリンは咆哮をあげると真っ直ぐに突進してくる。こうして接近してくると分かる。ゴブリンのくせに図体がでかい。身長は2mを超えているだろう。そして、紫ゴブリンの手に持つのは禍々しい紫色のオーラを纏う大斧だ。


「よし、来い!!」


 俺は右手の斧で迎え撃つ。斧と斧がぶつかり合い、激しい火花を散らす。

 ノーマン二刀流では、この後レイピアで突く流れではあるが……


「うお!?」


 俺の斧が弾かれる。相手は両手持ち、俺は片手。相手は筋骨隆々の巨体、俺は中肉中背のおっさんだ。俺のによるドーピングがあっても押し負けてしまった。


「グガア!!」


「やばっ!」


 紫ゴブリンの斧が俺を唐竹割りしようとするのを、俺は必死に身をよじって回避した。紫ゴブリンの斧は俺には当たらず地面を叩き、地面を陥没させる。


「隙有りぃ!」


 地面を叩いた紫ゴブリンは一瞬動きが止まる。今度は俺のターンだ。左手のレイピアで紫ゴブリンの身体を突き刺す。


 グニィ


 紫ゴブリンの肌は弾力があり、レイピアは突き刺さらなかった。


「嘘だろ!?」


 紫ゴブリンの肌は刺突耐性があるようだ。更に言えば、最初の火計でダメージがないことから火耐性も高そうだ。

 紫ゴブリンは斧を水平に構え、次の攻撃に移ろうとしている。


「うおっと!」


 俺が大きく跳び退くと、ギリギリのところを紫ゴブリンの斧が掠めていった。


「ググァ!」


 俺が回避したことで紫ゴブリンが悔しそうに地団駄を踏む。


「ウゴグナ! トマレ!」


 動くな。止まれ。と言っているのだろうか。そんな事を言われたからといって、従うわけがない。


「馬鹿が。従うわけねぇだろ。もちろんNOお断りだ!」


 俺の身体に更なる力が溢れ出す。全能感に包まれる。もう紫ゴブリン程度に負ける気がしない。


「コレだよコレ。もう負ける気がしねぇな!!」


 俺が一足飛びで紫ゴブリンの懐に飛び込むと斧を下段から逆袈裟斬りする。


「ガッ!?」


 紫ゴブリンはとっさに斧を構えたが、体勢が不十分でだったようだ。


「うらぁ!!」


 俺の全力フルスイングを受けて、紫ゴブリンは後方へ吹き飛んだ。紫ゴブリンは10メートルほど吹き飛び、ヤギの足元で止まった。

 ヤギが、足元に転がる紫ゴブリンの方に視線を向ける。


「メ”ェ”ェ〜」


 ヤギが鳴くと、紫ゴブリンの周囲に黒色のオーラが発生する。


「グギャオオオオ!!」


 紫ゴブリンの身体が一回り大きくなり、全体が黒く変化した。そして頭に角が生えてくる。

 どう見ても強化されました。ありがとうございます。それでは、これで俺は失礼させていただきますね。と言って帰りたい衝動に駆られる。だが、それは許してもらえそうにない。というか、


「やってやる!! 俺はノーマンだ!! 拝田肯定じゃねぇんだ!!!」


 俺は次の一撃で全力を出すことに決めた。斧とレイピアに力を送り込む。俺が編み出したノーマン二刀流の奥義だ。斧から茶色のオーラが、レイピアから水色のオーラが出てくる。これは武器固有スキルの準備段階のオーラだ。普段はどちらかしか発動出来ないが、無敵モードの今なら同時に発動出来る。


「オオオォォォ!」


 紫ゴブリン改め、黒ゴブリンが地面を揺らしながら突進してくる。圧迫感は2倍以上に感じる。後退りたくなる気持ちを理性で無理やり抑え込み、腰を深く落とし構える。


「ノーマン二刀流奥義! 砂塵水突き!」


 俺は斧を天高く掲げると、眼前の地面に叩きつける。衝撃で砂煙が上がり、砂煙を割るように岩で出来たトゲが飛び出す。


「グギャ!」


 黒ゴブリンは、驚くほどの反射神経で岩トゲを薙ぎ払い、全ての岩トゲを砕く。黒ゴブリンは勝ちを確信し、ニチャリと嗤う。

 だが、俺の奥義はまだ終わりじゃない。砂煙の中に隠れながらレイピアの連続突きを放つ。1回突く度にレイピアから水の槍が発生する。


「グ、グギャ!」


 黒ゴブリンは連続で飛来する水槍に驚き、とっさに斧を盾にしながら耐える。

 そこに、黒ゴブリンの背後から何かが飛んで来て、後頭部に当たる。


「ギャ!?」


 黒ゴブリンは驚き、後ろを振り返る。そこに居たのはファイティングポーズのカエルだった。黒ゴブリンは予想外の相手に動きが止まった。


「ナイスだ、カエル」


 俺は両手で斧を持ち、砂煙を飛び越えるように大きく飛び上がった。


「これで終わりだあああ!!」


「グ……ギャア……!!」


 全体重を乗せた俺の斧の一撃は黒ゴブリンを一刀両断した。黒ゴブリンの体はメリメリと音を立てて左右に分かれた。


「これぞ、ノーマン二刀流だ。強い、強すぎるな」


 俺が黒ゴブリンの死を確認しつつ、自画自賛する。視界の端に何かが動いた瞬間、頬に衝撃があった。


「あいたっ! カエルこの野郎!!」


 犯人はカエルだった。そして、カエルはジトーっとした視線を向け、何かを言いたそうな顔をしている。


「あっ……お前もしかして敵陣に投げつけた事を……?」


「ゲココー!!」


 カエルが怒り、舌を連打してくる。


「あいたたたた! わかった、謝る! 謝るからやめろぉ!」


「ゲココココ!」


「ぎゃああああ」


 無敵モード後の痛みも合わさり、俺は倒れた。最後に戦場に立っていたのは、カエルとヤギだけだった。

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イエスマンのおっさんが異世界でNOと言えるようになったら、最強になりました パピプラトン @Papiplaton

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