そよぎ波立つ

 北畝の家から帰ったその夜、夢を見た。懐かしい夢だった。

 僕は電車に揺られて、高校に向かう。その途中で寝過ごして、知らない田舎についてしまう。降りたホームから見える一面の田んぼと大きな食品工場は、きっと見たことなんてないのに、いつか訪れたことがあったなと錯覚してしまう。僕はホームの反対側に移って、行き違いの電車を待つ。

 何度も見た夢だから、この先の顛末は知っている。雪が降ってきて、運休のアナウンスが流れる。田んぼ道を突っ切って現れた実家のセダンが線路沿いで速度を落とし、改札に両親が迎えに来る。僕はいつの間にか、高校に上がるとき捨ててしまったはずのジップパーカを着て、その車に乗り込むのだ。

「森崎さん、電車がもう来るみたいですよ」

 セダンが田んぼ道に見えたので電子マネーを取り出そうとした腕を、華奢な指先がつついた。制服姿の北畝が呆れたように線路の先を指さしていた。

 高校があるらしい方向から、四両編成の電車が近づいてきている。でも、それに乗ったら高校からはもっと離れてしまうし、果てなく続く田舎道の先は深い山道だ。

 見たこともないのにそんな確信があって、僕は少女の制止を気にかけず、改札へと歩いていく。

 後部座席に乗り込んだセダンも、エンジンがだめになって、数年前に軽自動車へ乗り換えられてしまった。車内で僕を呼ぶ両親のこの表情は、いったい何歳の頃のものだったろうか。




「森崎さん、デートにいきましょう」

 昼過ぎにアパートに現れた北畝は、至極真剣な表情でそんな冗談をのたまった。

「土曜なのに珍しくこっちにいると思えば……」

 急に何を言い出すのだろう。グレーのパーカにMAー1を羽織り、タイツにショートパンツ、ホワイトのハイカットスニーカーを履いた少女は、先日とはうって変わって活発な印象だったが、そんな活動的な格好でデートなどとのたまう行き先には思い当たる宛がない。しかし北畝はその反応が見たかったわけではないのか、少し不満げな表情をしてから「図書館で勉強を見てもらおうかと思いまして」と続けた。

「特待生に教えられることなんかないよ」

「何も勉強を教えてもらおうというわけではありません。吾田さんから聞きました。研究と並行してて大学の課題、進捗が微妙だそうですね。私もそろそろ中間考査が近いので、こっちで勉強しないといけなくて。そこで森崎さんが浮かんだわけです」

 なるほど。お互いの勉強を監視しようというわけか。しかし研究所のほうが勉強に向いていそうだけど、ああいうところだと落ち着かないタイプなんだろうか。海は近いが、建物も少なく静かだし、お誂え向きに机と椅子が並んでいる。図書館とそう変わるようには思えない。

「人がいる程度の雑音が、一番好きなんですよ」

 北畝はそう言うと呆れたように肩をすくませ、靴を脱いで室内へと入ってきた。台所をキョロキョロと見渡し、「部屋に入っても?」と奥を指差す。

「いいけど、資料やらなんやらで散らかってる」

「構いません。人の家の間取りを見るのが新鮮で」

 理解できなくはないが、意味不明な理由だった。ただ、そういえばこの子はお互いの家を訪れるような交友関係を持っていないのだった。

「……予想通りに無味乾燥としてますね」

「悪かったな」

「いえいえ、森崎さんらしくて、いいと思いますよ」

 事前の準備なく異性に部屋を見られることにむず痒さを覚えるのは、僕にまだ自尊心が残っている証拠だろうか。露骨にゴミを散らかしているわけではないが、一刻も早くこの自堕落な部屋から彼女を連れ出したい気分になる。

「着替えて髪だけ整えたら、すぐ出よう。それまではベッドにでも腰掛けててくれ」

「その寝間着、以前も見ましたね。着替えるなら、部屋を出ていましょうか」

「見苦しくなければいてくれても構わないけど、――あぁいや、僕が脱衣所に行くから大丈夫。北畝は座ってて」

 ケトルのスイッチを入れながら、脱衣所の天面から垂らされたワイシャツとスラックスを引ったくって着替える。ヘアワックスで無難に髪型を整えながら、彼女をすぐに追い出すつもりだったのにお茶の一杯でも用意しようと考えたらしい自分に笑ってしまった。

「北畝、白湯かコーヒーか、紅茶。なにか飲む?」六帖の居室へ声をかけると、「結構です。自販機で買ってきてしまったので」と返ってきた。

「そう。ならよかった」ホッとしたような、すこし残念なような気持ちで、ケトルの過熱を中断した。

 部屋に戻ると、しげしげとサウンドバーを見つめる北畝の姿があった。ソニーのワンボディ型立体音響。この1Kをひっくり返して出てくるモノで、ダイナブック製のモバイルノートパソコンに並んで最も高価な品物だ。一見するとケーブルの引っついた黒い棒でしかないそれを心底興味深そうに眺める北畝に、わずかに口角が緩むのを自覚する。赤子が初めてクレヨンを使って、自らの引いた線を眺めているような。

「……そんなに珍しい?」

「いいものを使っているのだとはわかります。オーディオってかなりマニアックな業界の印象ですけど、大手も作ってるんですね」

「映像作品やデバイスを作るなら、音響は切っても切り離せない要素になるんだ。そこは音響専門メーカーが他の追随を許さないほど振り切ってるわけじゃない。――そもそもソニーは音響メーカーとして飛び抜けてるけど――それぞれに得意とする音があって、目指している音も違う」

 オーディオを選ぶとき、定番はあっても正解はない、とはそういうわけだ。自然な音、聞き心地、楽器の再現。国外メーカーだとロックミュージックの重低音を重視するといった音楽文化の違いまで影響してくるが、そのどれもが一長一短で、人によって好みが分かれる。各メーカーの特徴に縛られる必要だってなく、僕だってデノンやマランツを選択肢に入れていたが、結局は汎用性が決め手になった。

「なるほど、ブルートゥースを用いてスマートフォンから直接データ転送するんですか。CDはもう古いんですかね」

「今はサブスク全盛期じゃないかな。ディスクも現役だけど。形として残したいとか、ファンとして応援したいとか、あとはディスクの方が音源として良かったりもするから、根強い人気はあるよ」

「その言い方からすると、森崎さんはサブスク派ですか」

「まあ、そうなるかな。エド・シーランとかワンリパブリックとか聞いてる」

「……意外です。ビートルズが至高だと言っていそうなタイプなのに」

 それは褒め言葉なんだろうか。違う気がする。

「別に、色々な音楽の方向性があると思ってるだけだよ。ビートルズだっていい。国内だって聞く。音楽はジャンルを絞らずに聞いている方が、きっと楽しみの根源に近い。北畝は普段なにを聞くんだ?」

「私は無難な人間なので、ヒットチャートとかを適当に流してますよ。あえて言えば、物寂しい雰囲気の曲とか好きでしょうか。最近だとエモいとかいうんでしたか」

「いまはもうチルだよ。エモいはどちらかというと、嬉しいとかきれいとかで使う」

 めんどうくさい世の中ですね、と北畝がため息をついた。

「あ、思い出しました。私、環境音が好きなんです。川の音とか、夏の音とか。やっぱりちゃんとした機器で聞くと変わってくるのでしょうか」

「オーディオに興味があるなら、ウーファーを入れてみるか、イヤホンをこだわるとこから始めるといい。この前二、三年ぶりに完全ワイヤレスを買い替えたけど、立体音響技術の進歩は目を見張るものがある」

「それ、お借りしてみてもいいですか」

 突然の提案に理由を探ることもできず、僕はポケットからイヤホンケースを取り出した。簡単にセンサーやスイッチの説明をして、北畝に手渡す。少女の慎重な手つきが初めてTWSイヤホンを買った時の自分にそっくりで、誰でもこの小さな芸術品みたいなコンピュータは手荒く扱えないものなんだなと感じた。

 北畝が黒髪をすっとよけた時、僕は初めてそこに赤い切り傷のようなものがあるのを見つけた。耳孔からダーウィン結節にかけて、稲妻のように細い血管が迸っていた。普段は髪で隠れているし、星を見た夜は暗くて気づかなかったが、一生消えないもののようだ。

「あぁこれですか。鯨音を聞いた副反応ですかね。おむつを履いてた頃からずっと、ひどく特徴的な印をつけられたものですよ」

 北畝はこともなげに笑う。

 僕にはそれが、彼女と鯨王の、長いつながりを表しているようにも見えた。



 図書館での勉強は、事前に予想していたよりも捗った。まだまだ貯めこんでいた分を解消するには至らないが、先行きが見通せそうな丘には登ったくらいの気分だ。自室の方がよほど勉強できると思っていたけれど、対面に人がいる状況というのも、なかなか集中できる。北畝が外部入館証に年齢を書いていた間の、職員から僕に向けられた視線は忘れることはないけれど。

 帰る支度をして、夕食がてら図書館一階のカフェで休んでいると、見知った顔がいた。

「あれ、モリリンじゃん。珍しいね、図書館にいるなんて」

「……押谷」

 きれいに色の抜けた茶髪を二つ結びにした店員は、僕たちの皿を丁寧に重ねながら、視線を交互に飛ばした。北畝がパーソナルスペースに飛び込んできたハイテンションな年上に、驚愕と怯えの入り混じった視線を向ける。

「あぁ、えっと。北畝、こいつは押谷。もともと一緒のバイト先だった同期。同じゼミで分野も一緒で……」

「北畝ちゃんっていうんだ。可愛い子だね……! ――そうそう、二人仲良くバ先が潰れて放浪する羽目になっちゃってね。モリリンは今何やってんの? ……てか、あれ、妹とかいたっけ?」

 矢継ぎ早に繰り出される質問に、北畝の警戒が増す。相変わらず独自のスピード感で会話を進める女だ。

「高校の後輩だよ。遊びに来てるんだ」

「わざわざ土日に?」

 押谷はネアカだが馬鹿じゃない。変なところで聡く、無邪気に他者の弱点をずぶっと刺すところがあった。すぐに自身の軽率な返答を後悔する。僕はこいつに地元の話をしたことがあるだろうか。こんな遠方に高校の後輩がいるなんて、おかしな話だ。

「……部活で面倒を見てたから、ずいぶんと気に入られて」

「ふーん、まあいっか。北畝ちゃん、モリリン変人だけど悪い奴じゃないから。仲良くしてやってくれよな」

「ええ、あ、はい!」

 慣れない手合いなのか、語尾が自然と大きくなる北畝に頬が緩むと、押谷が耳元に口を寄せた。さわと肩に触れたおさげの重みとで、全感覚が左半身に集中する。

「高校生は事実だけど、後輩じゃあないでしょ」

 彼女の表情を読み取る前に、押谷はそっと顔を引く。

「まあ、お似合いだよ。皮肉じゃなくてね」

 反論しようと口を開くが、「じゃあ、私これで上がりだから。また会おうね〜」と遮られてしまう。完全に置き去りにされた北畝が困惑したようにその背を見つめていた。ごめんよと謝罪しようとして目が合い、しばしその瞳を見つめてしまう。

 冬の朝の空気のように冷たく澄んだ瞳と、墨とツヤを塗ったような艶やかな黒髪。容姿端麗な少女と僕のような人間を見てお似合いとは、とんでもない。

 ――いや案外、他人からはそういう関係に見えるものなのだろうか。

 図書館を出たあと、最寄り駅まで送るために歩き出した。学生街はいつだって人集りに溢れ、喧騒に揉まれている。その騒ぎに便乗あるいは擬態するように、僕たちは歩いた。

「ごめん、一度家に帰って車を出せばよかった。駅、だいぶ先だろ」

「家に寄っていただけるなら、そのまま泊まらせてほしいところです」

「いや、それはだめだ」

「もう一緒に眠った仲じゃないですか」

「誤解じゃないけど誤解を招く表現はやめてくれ」

 冗談ですよ、といたずらっぽく笑う少女は、おもむろにスニーカーの踵を弾ませる。

「でも、晩秋の夜って無性に寂しくなりませんか。他人なんていなくたって構わないのに、温もりだけがほしい。夜ひとりで布団に入る、その毎日やってるはずのルーティンが、ひどく虚しくなるときがある。可能なら、抱き枕代わりになってくれる人が欲しいものです」

「抱き枕代わりに……」

 猫を飼いたいと思うことはあったが、他人が自分の布団に入っているところは想像できそうにもない。落ち着くかと言われれば、気が気ではないと思うが。

「……北畝の旦那さんになる人は大変そうだな」

「私、甘え方を知りませんから。ベタベタに甘やかしてほしいです」

 駅につくと、北畝は普段通り静かな態度で送迎の謝辞を述べて帰っていった。

 その後、北畝は何度かうちに来るようになり、僕が送っていくのが日常になった。少女に好かれるのは特段悪い気はしなかったが、どことなく引け目を感じてしまう自分がいた。

 なぜだろうと考えてみて、一つの結論に至る。

 本棚に並ぶアルバムが、きっとそれなのだと思った。




 北畝が「今日は登校するので」ということで、その日の勉強会は中止となった。成績を維持できているとはいえ、公欠をもらってうちに来ているようだったから、彼女が学校生活をしっかり意識しているという事実は助かる。

 僕は僕で、オンデマンドにかまけて放置していたターム末レポートがついにグーグルドライブの単一フォルダで管理できなくなったので、今日は家にこもることにした。北畝との勉強会によって見通しは立っていたが、余裕はあるに越したことはない。

 十一インチのタブレットに資料を表示しながら十四インチのノングレア液晶にカタカタと文字を打ち込む。ワンルームにテーブルとデスクを持ってくるという頓痴気な選択も、今思うと無駄ではなかった。やはり勉強は、机と椅子があるに限る。

 三つほど課題を終えたところで休憩のために台所へ向かった。牛乳をレンジで温めながら、つい今朝買ってきたばかりの抹茶ミルクのスティック粉末を手に取り、封を切る。

 暖房をつけずに眠ると朝方に寒さで起きるようになったので、最近はそのまま活動していた。眠気が訪れたら換気をして、それから暖房を入れる。一年目の冬はそれどころではなく、二年目は冬期うつになっていたから、今年が初めてマトモに冬を越しているかもしれない。

 太平洋側の冬はいつも晴れていたので、曇りが続くと気分が落ち込む。三年目を迎えても、そこだけは依然として慣れないが、自分なりの越冬スタイルを確立し始めたのかもしれない。

 ケトルがスイッチを跳ね上げ、お湯が湧いたことを伝えた。ティースプーンを用意しようと食器棚に手を伸ばしたのと、家のチャイムが鳴ったのはほぼ同時だった。

 郵便局かセールスか、あるいはとドアスコープを覗くと、そこにはグレーのトレンチコートに身を包んだ吾田が立っていた。

「なんだ、吾田さんか」招き入れた彼にそう言うと、「北畝ちゃんのほうが良かったかい?」と彼は笑った。はいと答えるわけにも当然いかず、誰かと思ったんですよとお茶を濁す。

 正直、予期していたのは北畝だったが、それは僕に彼女以外の来訪者が原則いないからだ。

「ちょっと話があってね。ドライブがてら昼食でもどうだい? 今はいそがしかったかな」

「いや、課題の小休憩に入ったところでしたから。あぁでも、ミルクだけ温めちゃったんで、それだけ飲んでからでもいいですか」

「もちろん、車で待っているから準備できたら声をかけてくれ」

 車のキーをポケットから取り出す吾田に一礼して、牛乳が冷めるのを待つ間、出かける支度をする。秋物のコートから切り替えるか迷って、結局いつも通り薄手のコートを羽織った。温かい乳飲料は急かされて飲むものではないななどと愚痴垂れながら、できるだけ早めに飲みきった。

 セダンの助手席の窓をノックすると、吾田が座席の荷物をグローブボックスに詰め込んだ。促されてからドアを開け、乗り込む。

「急にすまないね。所用でこっちに顔を出さないといけなくて」

 所用。十一月の下旬に入ろうかというこの時期に訪れたということは、年末の書類整理だろうか。公用車だって空港に置いてある以上、新潟で管轄しているはずだろうし。

「車の運転には慣れたかい? 新潟は車間距離の概念がないから、気が気じゃないだろう」

「時間帯で変わる車線とか、ロータリーには慣れましたよ。バイパスの速度感も、まあそれなりに」

「北畝ちゃんのおかげかい?」

「……ええ、まあ」

 吾田の指摘は、言外に北畝が僕のもとを訪れていることを把握していると述べていた。それを僕が律儀に新津まで送っているということも。掘り下げられるには分が悪く、僕は車が動き出すまで無言を貫くことにした。

 吾田はシーサイドラインを慣れたハンドル捌きで飛ばす。適度なカーブが続くため休日にはスポーツカーやらツーリングやらで賑わうこの道路だが、僕には片側が海だというのに乱雑な運転ができる彼らの神経は理解できそうにもない。

 冬季閉鎖中の弥彦スカイラインを寂しげにちらりと見て、吾田は寺泊まで車を走らせた。海鮮で有名だとは聞いていたが、海岸線にずらりと並ぶ露店は、一面海産物で覆い尽くされていた。商店街から道路を挟んだ駐車場で車から降りると、日本海沿岸部特有の強烈な風が吹きすさんでいた。開放されたスプリングのように開こうとするドアを抑え込みながらゆっくりと閉じる。

 暴風を押し返さんばかりの大声が聞こえてくる商店の一つに入り、靴を脱いで小上がりの奥に進むと、季節に合わない桜色の浴衣を着た女性が階段上の居間まで案内してくれた。出されたお茶とメニューを何食わぬ顔で受け取る吾田は、ここに来たのが初めてというわけではなさそうだ。

 メニューには雲丹や蟹を豪胆に乗せた海鮮丼がいくつも並べられていた。軒並み二千円を超え、モノによってはその倍額に到達しようという食事に、思わず指が後ろの方に安いメニューがないか探し出そうとする。

「好きなものを食べなよ。経費じゃなく僕の奢りだ」

 その言葉によって、なおさら高いものを選ぶのは気が引けた。迷った末、二五〇〇円の海鮮丼を頼むと、吾田は同じものを頼んだ。

「遠慮しなくていいのに」

「心苦しくて味がしなくなるより数倍マシですよ。馬鹿舌なので大味しかどうせわかりません」

「店を間違えたかな。ファミレスのほうが気楽だったかい」

 お茶を濁すように「いいえ」と唸る。おもてなしに謙虚を発揮するのは悪癖だ。大学の飲み会も随分と行っていないので、相手を悦ばせる奢られ方など忘れてしまった。二階の小窓が海風に煽られてガタガタと音を立てた。悪天候の騒がしさが、かえって僕たちの間の沈黙を強調した。

「――森崎くん、単刀直入に聞くよ。君は北畝ちゃんの心を開くことができたようだね」

 先に言葉を発した吾田が、湯呑みを弄むようにくるくると回した。視線は彼の手元に注がれているが、チューバの如く刺すような意識だけははっきりとこちらに向けられていた。

「開く、が何を意味しているかにもよりますけど、そんな大層なものじゃありませんよ。ただ、互いの事情を話しあっただけ。こんな過去があって、それ故こんな人間に育ちましたと、紹介し合ったくらいです」

「それを聞けることが、心を開くということだと思うけれど」

「身の上話なら相席した旅客にだって話せるでしょう。無責任かつ無関係だからこそできる話だってあります」

「でも、君はそうじゃない」

 あぁ、きっとそうじゃない。それに感づかないほど僕も馬鹿じゃないつもりだ。北畝は僕を信頼してくれている。同じ穴のムジナが傷を舐め合っているのだとしても、彼女は他人には見せることのない表情、あるいはスタンスを僕には取ってくれるようになった。

 ――――だとしても。

「だとしても、僕が彼女の悩みを解決してあげられるわけじゃない。仮に心を開いたというのなら、僕は爆弾処理班みたいに遠巻きからその中身を眺めているだけに過ぎません。宝箱にしまわれた、大切で、扱いの難しい危険物に触れるほどの勇気はありません」

「宝物に触れて、その宝箱ごとなくしてしまうのが怖いんだろう? それは君に勇気がないからじゃないよ」

「……樋口さんのこと、北畝に話していなかったんですね」

「君と樋口紗枝の関係を考えたら、他人からの不用意な詮索は関係の悪化につながると考えた。よしんば同情が最初にあったとしても、それでは良好な関係は築けなかっただろう」

 否定はできそうになかった。

「それで、その北畝が心を開いていると、なにかありがたいんですか」

 そう尋ねると、吾田は一度小さく言葉を吐き、また息を呑んで、「いや、なんでもない」と漏らした。

「仲良くしてくれているなら、それでいいんだよ」

 彼が息と一緒になにか言葉を飲み込んだということは、容易に察せられた。ただ、運ばれてきた食事がそれを追求することを許さなかった。

 僕たちは食事を終え、その後解散した。帰りの車内は終始無言だった。




「なんか日本海側の冬、って感じですね」

「新潟はやっぱり風強いねぇ。雨は降らないくらいの曇天、時折ちらつくみぞれ、体感気温を五度は下げる強風。北畝ちゃんも森崎くんも、よくこんな所に住んでるもんだ」

 新潟空港のある東区、新日本海フェリー乗り場三階の乗船ゲート。開かれた出口から吹きすさぶ風に髪を押さえた北畝に、深沢が答えた。隣の僕に話しかけていたつもりだったのだろう、北畝は謙遜とも肯定ともいえないむにゃむにゃとした相槌を打った。その服装はすっかり冬季のもので、カーキのショートダウンパーカのフードとジッパーは外界を拒絶するように締め切られていた。新潟は極寒というより強風と小雨のコンビネーションが煩わしい土地柄で、撥水性のないダウンジャケットはすぐダメになるし、小雨用の傘など折れて役に立たないので、自然とフードが必須になる。前髪をすっぽり覆うその陰から、こちらを覗く少女の目が見えた。

「森崎さんは着ないんですか、ダウン」

「持ってないんだ。今年買うつもりだった」

「よく今まで生きてこれましたね。隔年とはいえ大量の雪も降るのに」

「タートルネックとコートだけで耐えてたよ。元々積極的に外出する方じゃないから」

 実を言えば、防寒性能とブランドの信頼性、なにより価格が釣り合う一着が見つからなかっただけで、いずれ買いたいとは思っていた。冬の本場を乗り切った値下げのタイミングで検討し、喉元を過ぎた寒さを忘れて購入に至らない。その繰り返しだった。

「私は初めてですけど、フェリーの船外って寒いらしいですよ。風邪引かないといいですね」

 この優しさも彼女の素なんだろうなと相槌を返すと、施設職員がゲートの先を指し示した。

 目の前には一九九・九メートル、一八二二九トンの巨体が浮かんでいた。新日本海フェリー小樽発敦賀行き客船、〈らいらっく〉の白壁が夜の闇でもくっきりと浮かんで見えた。秋田・新潟を経由地とするこのフェリーに、僕たちは特別に途中乗車することになったのだ。

 たった一時間の寄港とはいえ、乗船手順は発着時と変わらない。背後の吾田は携帯で船長となにやら挨拶をしているようだ。彼が通話を終えると、船上にいた船員が駆け寄ってきて、チケットの確認を始めた。歓迎の挨拶と誘導に従ってタラップを踏み越える。

「なんか四人で船に乗ろうと並んでると旅行みたいですねぇ」

「そうだね。今まで実地調査なんて横浜任せだったからな。ましてクジラの目視調査なんて、大学ぶりか」

「私もそれくらいになりますねー。調査のために船に乗ってると、研究者になれたんだなって感覚になりませんか」

 海洋学トークに花を咲かせる大人組をよそに、僕と北畝は船上で待機していたクルーにチケットを提示して、船内へと入った。三十分も経たないうちに消灯時間になるためか、船内の人影はずいぶんとまばらだった。大浴場帰りなのだろう浴衣を羽織った乗客たちが、本来いるはずのない突然の来客に奇異の目を向けて通り過ぎていく。左手に見える案内所からも、取り繕ってはいるが同様の視線が僕たちに向けられている。

 フェリーの乗下船口をまたいでエントランスに足を踏み入れる。駅の待合室に入った時のような嗅覚の激変が、潮風に慣れた僕の鼻にカーペットの繊維やアロマフレグランスの人工的な匂いを強烈に与えた。エンジンの振動と波に揺られる感覚が足元にあった海上保安庁の船と違い、フェリーはアスファルトとまるで大差なかった。巨大な鉄の塊が水上に浮かんでいるという事実を、改めて実感する。

 あの日も。

 ――あの日もカーフェリーを選んでいたら、樋口さんは今も隣にいただろうか。

 二年前の事故から何度そう考え、己を責めたか分からないが、こうして乗船してみると、その自責が間違いではなかったと身に染みる。鯨との衝突事故は少なからず起きるものだ。確実に事故を避けられたかは怪しい。しかし、少なくとも二十メートル弱の船体でなければ、破断するなんてことにはならなかったはずだ。

 船旅を楽しんだってよかったのだ。彼女と一緒にいる時間には変わりないのだから。

 そんなことを振り返っても仕方ないし、それが僕の責任でないことは分かっているつもりだ。それでも、樋口さんに降り掛かった悲劇が、たまたま運が悪かっただけだなんて、信じたくなかった。

「森崎くん、気分は悪くない?」吾田がわざとらしく差し出した酔い止めを、苦笑しながら受け取った。

「……はは、まだ港を出てもいないのに、先が思いやられます」

「眠っているといい。気分が優れないようなら、甲板で風にあたってもいいし、それでダメそうならサイドデッキから吐きな」

「そうさせてもらいます」誤魔化すような僕の苦笑を、吾田は追求しないようだった。

「今夜の船室だが、和洋室の二~三名用の和室を二部屋取ってあるんだ。ホントは学生組を一緒にしてあげたいんだけど……さすがに僕と森崎くんがセットかな。それで構わないかい?」

 構わない、というよりむしろ引率者に分けてもらう方が気楽だ。その分け方以外どの組み合わせでも男女同室のギクシャクした空間で過ごすことになる。

 仮に僕と北畝が同室などになれば、いくら多少打ち解けたとはいえ、堪ったものではないだろう。学生組とはいえ、年頃の男女なのだ。同意を求めるようにダウンパーカ姿の少女に目を移すと、しかし彼女は予想外に冷静な目つきで僕の方を見ていた。

 二秒ほど沈黙が続いたあと、彼女は視線をすっとそらし、なんでもない顔で「私は森崎さんと同室だと助かります」と口にした。

「吾田さんたちは研究所とのやり取りとか仕事があるでしょうし、私たちは一緒にいた方が鯨王の探知がしやすいですから」

 これには僕の方が面食らった。口から「よくないだろ」と声が出そうになって、それを北畝の一瞥が押し留めた。吾田は「……えっと、北畝ちゃんがそれでいいならそうするけど、深沢さんもそれでいい?」などと呑気に尋ね、同じく性別で分けられると思っていたのだろう深沢が赤面しながら慌てて肯く。

「……ならいいか」と吾田はこともなげに呟いた。

「本航行の目的は鯨王の探索と発見だ。まずは僕たちの目でその存在を確認したい。可能なら対象にマイクを装着して音響バイオロギングを行いたいけれど、まあフェリーでは難しいだろう。まずはこの目で見て、鯨音と鯨王との関係性を確かめる。今日のところはもう遅いし、各自で就寝すること。僕は船尾に搭載してもらったソナーのことで船長と話があるから、深沢さんは部屋に向かっておいてくれ。夜のうちに何もなければ明朝、またロビーに集合しよう」

 キャリーケースを引いてその場を去る吾田と、「私もお話をうかがいますよ」とその後を追う深沢を見送って、僕たちはロビーに二人取り残された。奇妙な沈黙の中、どちらともなく歩き出し、吾田の指示通り客室へと向かうことにした。

「どうして部屋を分けなかったんだ? 吾田さんに殺される」

「……殺されるようなことしなければいいじゃないですか。単純に、私が深沢さんと夜通し話せないからですよ。森崎さんだって、吾田さんと何時間も同室にはいられないんじゃないですか」

「おっしゃる通りだけど。男女のことを考えるなら、それが一番だ」

「いえ、男女の仲を考えるなら、これで正解ですよ。深沢さん、吾田さんのこと好きみたいですし」

 予想だにしていなかった指摘に、北畝の顔を振り返る。まさかと言いたかったが、思い返すと、清二さんと呼ぶときの深沢の表情は若干柔和だ。ただそれは信頼という呼び方でも通じる気がする。

 興味がない振りをして意外に気を配ってるんだろうか。無礼な驚愕に北畝が冷ややかな目で睨み返す。

「別に、興味はないですよ。ただ、分かるんです。森崎さんはまだまだでしょうけど」

「そりゃ僕は二人とそんなに長いこと過ごしてるわけじゃないから」

「そうではなくて。鯨音は感情の波ですから、ずっと聞いていればそれなりに人の感情に対して敏感になるんです。私は生まれたときから聞いていますから、いやでも感情の聴力はよくなります。誰が何を考えているか、関わりのない同級生相手でも大まかに聞き取ることができる。それがあるから、多少なりとも私はクラスメイトとコミュニケーションが取れるんですよ。感情は目であり、耳なんです」

「……テレパシーみたいな?」

「当たらずとも遠からずですね。脳には雑音を自動処理する能力がありますが、あれのちょうど逆みたいな性質です。カクテルパーティー効果が近いでしょうか」

 あぁと、腑に落ちる。感情が音のように頭を突き抜ける感覚は、ここ数ヶ月で幾度かあった。レジの店員に向けられた嫌悪や、強い感情を帯びた視線が、感じるのではなく聞こえる。僕は精神性の疾病だと思っていたけど。

「勘違いじゃなかったんだな」

「鯨音の存在が認識できない以上、気のせいで終わる話かもしれませんけどね」

「いや、僕も最近よく感じるようになったから、気のせいではないと思う」

「というと?」

「聞こえる、という表現はおかしいんだけど。耳に届く感じがするんだ。北畝から顕著で最近特に増えてたけど、視線を深読みしてるだけだと思ってたよ」

 包み隠さず答えると、北畝の顔が一瞬青くなり、つづいてゆっくりと赤くなった。

「え」

 まるで持ってきたお菓子がバレたときのような、包み隠せない驚嘆が漏れた。図星を突かれたとばかりに、弁解になろうとする言葉たちが呼気と消えていく。そこまで狼狽するとは。

「な、なんて聞こえてましたか」

「え、いや、怒ってるときとか、強い感情くらいしか分からなかったから、そんなに心配しなくていいよ」

「……すいません、そうですね。いえ、よかったです」

 何がよいのか、さすがにそこまで尋ねる勇気はなく、僕たちは足枷のような沈黙を保ったまま、客室へと向かった。水族館の一件といい、北畝の刺すような感情が内包するものは分かっているつもりだったが、まだまだツーカーとはいかないようだ。

「それにしても、どうしてまた日本海なんかに移動したんだろうかね。王様は」

 どうにか沈黙を破ろうと、個室の前でポケットの鍵を取り出す北畝に声をかける。彼女もそれを待っていたのだろう、緊張が和らいだような感じがした。

「クジラの回遊となると採餌か繁殖の関係だと思いますけど、太平洋から遥々日本の裏側まで回り込む理由はよくわかりません。よほどの理由があったのかとは思いますが」

「特別栄養価の高いプランクトンが発生していて、それに気づいたとか?」

 ふふっ、と北畝が鼻で笑う。

「陸上にはいまだ知られていない生物が三十パーセント前後いるって話だし、笑うほどじゃないだろ」

「ええ、まして海洋に至っては九十パーセントが未知だと指摘する人もいるくらいです。到達不能極や、人が観測できない領域に未知の生態系が発展している可能性はあります。例えば、富栄養下でありながら鉄のみが不足しているHNLC海域。ここには生態系が確立していないと言われていますが、生物が生きられないような環境ではありません。ニーズを抑えられれば十分に活動できます。クジラはプランクトンに対して鼻が利くとも言われますし、そのような形で原因があるとすれば、あるいはなんですが」

 到達不能極。陸上から最も遠い海上の地点、あるいは海上から最も遠い陸上の地点。実際には人が住んでいる地域もあるため不能とまではいかず、到達困難点などとも呼ばれる。

「ただ、独自の海流が存在し、海域内で完結している場合、ネクトンと呼ばれる遊泳生物――つまりはクジラなど――はともかく、ベントスやプランクトンと呼ばれる漂泳しかできない生物は容易に人間の居住する沿岸部までやってきません。JAMSTECの観測では日本海側の海流に異変が生じているようなデータは出ていませんし、この線は薄いでしょう」

 北畝は個室のドアに鍵を差し込んで、右肩にかけたリュックサックをずるりと足元に下ろした。どうぞ、と指図されるままにドアを開けると、開け放たれた襖の向こうに畳敷きの和室が見えた。右手に三点式のユニットバスがついているのを確認して、靴を脱いで小上がりに上がる。奥の和室に入ると、ちゃぶ台とその両脇に一対の座椅子が並んでいた。木製のクローゼットと液晶テレビも相まって民泊の一室みたいだ。背後の広縁にもチェアが一対ある。

「その戸棚に布団が入ってるみたいです」

 遅れて部屋に入ってきた北畝がリュックを壁に寄せて置き、脱いだダウンパーカをクローゼットのハンガーに掛ける。彼女は「ん」と僕に手を差し出し、受け取ったコートも同様にクローゼットへとしまった。

「お風呂付きの客室を選んでもらったのは幸いでしたね。じきに消灯ですし、早めに入って眠りましょう」

「先に入っててくれ。部屋出てるよ」

「消灯中の船内ってうろついてもいいんでしょうか? 洗面所に鍵をかけますから、余計な気遣いは要りませんよ」

「わかった。なにか、暇でも潰してるよ」

 年上の男が同室にいることへの配慮のつもりだったが、無用だったろうか。大型のリュックサックをごそごそとまさぐった北畝が、袋に詰められた着替えや化粧品なんかを両手に抱えて洗面所へと向かう。

「さておき、お先譲っていただいて、ありがとうございます」すれ違いざまに述べられたお礼に、手のひらを振って返す。浴室の鍵がかけられる音がした。

 手持ち無沙汰になってしまい、自分の荷物をリュックから出して並べていると、暖房をつけ忘れたことに気づいて電源を入れた。お湯でも沸かして待っていようかと思ったが、水を注ぐにも洗面所に向かうしかなく断念する。

 致し方なく、座椅子とちゃぶ台を端に寄せて布団を敷くことにした。地元にいた頃からベッドでばかり寝ていたが、研究所生活で布団にも随分慣れた。あまり寝床を離しすぎるのもかえって意識しているようだなと思って、リュックサックを置いておけるほどのスペースを開けて布団を敷く。

 ……それにしても。部屋の壁にもたれながら、隅に寄せられた北畝のリュックサックを見つめる。

 ほとんど顔を合わせることもなく、入浴時には立て札のかかる研究所と違い、シャワーの流れる音すら聞こえる距離で異性と同室にいるのはどうにも居心地が悪かった。樋口さんが初めて家に泊まりに来たときもそうだったけれど、誰かが入浴しているとその裸体を想像しないわけにもいかず、そんな自分に自己嫌悪が発露する。まして相手は年下の少女だ。

 想像しないように努めるほど聴力が敏感になっていくような感覚に嫌気が差して、静かに部屋を出た。

 鍵を外側からかけて、生暖かい空気の流れる船内をうろつく。

 研究所と似ている。本来であればそこで暮らすことなどない、公共という他者に管理された施設の夜。合理性の垣間見える居住空間特有の、空調設備の低周波を感じとった漂うような温もりだった。目的もなくとぼとぼとと歩いているとうす灯りが見えたので角先を覗いてみる。青い筐体の自動販売機が省エネモードでぼんやりと光っていた。小銭入れにはちょうど二本分の百円玉が入っていたので、あたたかいミルクティーと緑茶を買って、赤色灯だけが光る通路へと戻った。船の自販機は法外に高いかと思いきや、一般のホテル内とほとんど変わらなかった。山に運ぶよりかは幾分か楽だからか。

 そういえば、もう吾田は挨拶を終えただろうか。彼と二人きりにさせられた深沢はどんな風に過ごしているのだろうか。片思いの相手といきなり同室で一晩過ごすという展開は、かなり無理難題のように思えた。

 買った飲料が冷めないうちにと部屋へ戻ると、ちょうど北畝がユニットから出てくるところだった。オフホワイトの長袖トレーナーにグレーのハーフパンツ姿の彼女は濡れた髪にタオルを掛けながら「慣れてますね」とぼやいた。

「えっと、温かい飲み物買ってきたけど、いる?」意図がわからず、尋ねる。「では、お茶を」北畝が受け取る。

 備え付けの茶菓子で一息ついた後、髪を乾かし終えた北畝に替わってシャワーを浴びることにした。

 シャワーカーテンを浴槽に入れ、水滴一つない洗面所は、前に使った少女の几帳面さを表しているようだった。ピタピタと濡れたダイヤルをひねってお湯を出した。フェリーのお湯はドロドロしていると聞いていたが、アパートのお湯と触感はさほど変わらない。髪から頭皮までしみ込んだ潮気を洗い流すよう丁寧に髪を洗った。

 やたらと熱い熱湯は北畝が調整したものだろうか。彼女の私生活に意識が及びそうになって、一度シャワーを冷水に変える。

 ――事故の直後はシャワーなんて浴びれなかったな。冷水を浴びると、そんなことを思いだす。鋼板につかまって浮いていた時、暗闇でうねる波が顔にかかって息が覚束なくなって以降、シャワーの水が鼻にかかると動悸がするようになった。温かいお湯を浴びている時だけ、あの海ではないのだと思えて落ち着く。

 鯨音を解明すれば、この傷も忘れられるだろうか。治るという未来の具体的な中身を、そういえばよく考えていなかったなと思った。

 お風呂から上がると、座椅子にもたれかかりながら携帯を打ちこむ北畝が見えた。横から覗くと、どうやらメッセージに返信しているようだ。

「叔母さんに連絡してるんです。もうすぐ日付変わっちゃいますけど、今日が誕生日だった、はず、なので」

「北畝は、意外に人の誕生日を覚えるのが苦手な方?」

「意外でもないでしょう。あまり人と関わりませんから」

「僕もだ」

 就寝の準備をして、日を跨ぐ頃に床についた。真っ暗闇の室内で横並びに敷いた布団に少女がいるという事実は、どうにも僕を緊張させた。目をつぶって眠ればいいなんて分かりきっていたが、布団のなかは袋小路で思考ばかりを強制される。

「森崎さん、緊張してますか」笑みを含んだ口調だった。暗闇のなかで弾む北畝の声が、くすぐるように鼓膜に響く。

「緊張してない、といえばうそになるよ。北畝も不安なら言ってくれ。いつでも室外に出るか――」

「森崎さんのこと信頼してるので、大丈夫ですよ。そんな過剰に配慮していただかなくて結構です。……楽しいですから」

 楽しい? 変なことを言う。背を向けあって眠る少女の表情は読めない。

「森崎さん、まだ起きてますか」

「起きてるよ。すぐ今まで会話してただろ」

「森崎さんは好きな人とかいるんですか」

「え」疑問符が口をついて出るのと、脳裏に樋口さんの顔が浮かぶのは同時だった。まさか北畝の口からそんな浮ついたワードが出てくるとは予想だにしなかった。いや、年頃の少女が何を口にしようが一向にかまわないのだけど。

「藪から棒に、なに」

「いえ、高校の修学旅行でこういう話題とか話さなかったものなので、試したくなりました」

「お茶目だな」

「ふふ、おやすみなさい」

 無邪気に笑う北畝は、しばらくした後眠りについたようだった。細い気管を通るスー、という息が少女の華奢を表しているようだった。僕は重たくもない瞼を開いて、眠気が去来するまで暗闇を見つめることにした。

 好きな人。樋口紗枝さん。僕の初恋にして、最後の恋人。僕は彼女がずっと好きで、多分きっと、これからも好きなままだ。

 ――それでも、傷を治すためには、いつか彼女のことを忘れなくてはならない。あの事故も、出会いも、全てなかった事にしなければ、ずっと過去に縛られたままなのだ。先輩はきっとそんな風に立ち止まっている僕に愚かだと呆れるだろう。「君は義理堅いねぇ」と微笑を浮かべる様子が容易に想像できる。

 そうだ。この痛みを乗り越えるには、きっと思い出すことのないよう努めなければならない。彼女との時間を思い返すほどに頭が痛むのであれば、彼女との最期で刻まれた傷を癒すためには。

 彼女のことを忘れなければならない。

 きっと、きっと。

 ――――そうすれば、前に進めるはずだ。



 それは眠りについてから六時間ほどのことだった。寸前まで気絶でもしていたかのような、明瞭な目覚めだった。冴えている頭と、裏腹に渦巻く胸騒ぎを覚えて起き上がると、隣の布団でも同様の物音がした。おはようの挨拶を交わす代わりに目を向けると、暗闇の中でも北畝と目が合うのを感じた。

「悪い、起こした」

「いえ、いま急に目が覚めてしまって」

 どうやら同様らしかった。アクリル製の障子窓から差し込む萱草色の朝日を頼りに頭上におかれた行灯型のヘッドライトを薄く灯すと、橙色の柔らかい光の中に北畝の首筋が浮き上がって見えた。一瞬の動揺を隠すように光量を強くすると、「眩しいです」と北畝が抗議する。そこに熱はなくとも普段はぱっちりと開かれている北畝の目が、今は若干しょぼついている。珍しい光景だった。

 まだ朝食の時間には早かったが、お互い二度寝することも出来なそうだ。

「すこしぶらつこうか」

「そうですね。こんな大きな船に乗る機会もそうそうありませんし、船内施設は見ておきたいです」

「手早く準備しよう」

 さすがに同じ部屋で着替えるわけにはいかず、僕はユニットでオフホワイトのタートルネックに着替えた。髪型を整えにやってきた北畝と一緒にうがいをし、十五分ほどの準備を終えて室外へ出るころには、時刻は六時半を回っていた。部屋のすぐ前のエレベーターは早朝からレストランや大浴場に向かう乗客で渋滞しており、そちらとは反対方向の階段を降りる。朝早くから活動的なことだ。大学生活でずれ切った生活リズムからすると、素直に感心する。

 階段を降りると案内所の常夜灯が目についた。小さく「おはようございます」と声をかけてくる船員にお辞儀で返して、船舶電話を横目に船外通路へと出た。途端に切り裂くような風が吹き込む。まだ水平線が空と混じり合った早朝では、さすがに外に出ている人間はほとんどいなかった。開けた視界と空を落とし込んだ海の明るさにぐぐぐ、っと身体を伸ばす。澄みきった空気が肌に浸透するようだ。

「それにしても、寒いな」

 沖合に出てから風は弱まった気がしていたが、船の押しのけた風と放射冷却で冷やされきった潮風は身に堪える。タートルネックの首元をぐいと上げると、隣でダウンジャケットに身を包んだ北畝も同様の仕草をした。彼女は冴えた空気を吸い込みながら体を伸ばすと、ふとぴたりと止まって僕をじっと見つめた。

「森崎さん、なぜサイドデッキに出たんですか?」

「なんで、って、あれ」

「いえ、理由があるのであれば、かまわないのですが」

 逃げ道を残してくれる北畝に、しかし僕が困惑していた。まったく意識していなかった。先ほどまで船内施設を見て回ろうという話をしていたのは覚えていたし、美味しい空気を吸おうなんて思うほど、僕は殊勝な人間ではない。船外に出る必要などなく、ほとんど無意識に足が進んでいた。

「海は嫌いなんじゃなかったですか」

「あれ、いや、なんだろうな。なんとなく来てしまって」

 朝起きて顔を洗う。そんなルーティンのごとく自然に、僕は海に出ていた。「寄生虫にでも取りつかれているんじゃないですか」と呆れた顔を浮かぶ北畝に反論もできない。まるで誰かに呼ばれたようだ。

 ――そしてそれは、ある意味では間違いではなかった。

「これ、鯨音じゃないか……?」

 覚えのある波長がフェリーの機関と波音の中に混じっていた。がやがや騒がしい家電量販店で自分の見ているテレビ番組の音だけを拾えるような、聴覚のみに依存しない、意識が拾う音。間違いない。運動会の徒競走だとか、合唱祭のビデオを見ているときのような、懐古感情を揺さぶる音階。鯨音だ。

 そしてこの懐かしさは、やはり――――。

 ただ、真に僕が驚いたのはそれを捉えたらしい北畝の反応だった。彼女は動物園を初めて訪れた子供のようにばっとデッキ端の柵に飛びのると、見渡す限りの青へと目を凝らした。

 北畝、と声をかける僕にも構うことなく彼女は海面を一心不乱に見つめていた。その表情に鬼気迫るものを感じて、危ないから降りろなどとは口にできなくなってしまう。北畝が鯨王に並々ならぬ執着を抱いていることは薄々感じていた。それは彼女と古染の過去に由来するのかもしれないし、彼女と鯨王の間だけで完結しているのかもしれない。空港のロビーに屯う群衆から両親を探し出すときのように、北畝は柔らかさと真剣さをたたえた眼で海を見る。

「北せ――――」

「来ます」

 その視線の先、青の床から突如として白い飛沫が立ち上がった。

 クジラのブリーチングだった。曲線で描かれた三角形の頭部が浮き上がったかと思うと、重力に引かれて水面へと落ちていく。随分と距離はあるが、音すら聞こえてきそうな躍動感だった。

 手すりに足をかけた北畝は、海に消えるハンバーグ大の巨体を見つめながら「オゼビです」と口にした。

「この距離でも同定できるものなのか」

「当然です。そんなことより、すぐに船を止めてください。鯨王が浮上してくるかもしれません。この海域を抜けるわけにはいかないです。吾田さんを起こしましょう」

 取り繕った焦り声だった。柵に身体を預け、視線を向けようともしない北畝に、どこか違和感を覚える。

 いかに鯨王を目視するためといえど、船を止めていいはずがない。鯨音が聞こえるということは乗客にも影響が及びうる可能性を示唆している。僕たちは問題ないけれど、大融解を引き起こした代物なのだ。この場にとどまり、長時間鯨音にさらされた人間がどうなるか。彼女がそこに気づいていないはずもないのに。

「……どうかされましたか? 吾田さんに連絡してください。このままだと回遊域を抜けてしまいます」

 しかし北畝は差し迫った危険など思い至ってもいないようだった。疑問と叱責を交えた少女の瞳が僕へと据えられた。

「鯨王を見ることのできる機会をみすみす見逃すわけにはいきません。すぐに船を止めましょう。機関を停止させずとも、周回くらいはできるはずです」

「それは、無理だ」

「なぜですか?」

「新日本海フェリーに、僕たちの研究に付き合う義務はない。音響探知機器を搭載しているのだって厚意でしかないだろう。彼らにも到着予定時刻というものがあるし、ましてや勝手な進路の変更は危険を伴う。北畝もそれくらいわかっているだろう?」

「ですが、鯨王を放っておけば大勢の人が危険にさらされます。人類の未来のために、私たちはここで鯨王に会うべきです」

 私たち、ではないだろう。彼女の無自覚な正当化に歯噛みするが、言い返す言葉が出てこない。

 違うよ、それは君の、君自身の願いだろうと、ずけずけと言い放つことは、彼女を知った今の僕には、到底できそうにもなかった。

「それなら、まずは吾田さんに判断を仰ごう。北畝もそこから降りて――――」

 北畝の瞳が僕からそれた。その目線を追った先、船の右斜め手前でオゼビの巨体が水面から姿を現した。白い水柱が、まるで機雷が爆発したかのように立ち昇り、雹のような水しぶきが跳ね上がる。

 振動が足元を揺らしたのは、その瞬間だった。ぐっ、と体が船外へと放り出されるような力で押しのけられる。突如、針路上に現れた鯨に操舵手が舵を切ったのであろうことは、容易に想像できた。とっさに踏ん張ろうとした僕の足は、とあることに気づき遠心力に任せて動き出していた。

「北畝!」

 目の前で、北畝の華奢な体が船外へと舞った。

 時間が止まった気がした。やけに重い手足とコマ送りにも見える視界が、身体が最高出力を出し切っている証明だった。小学生のとき、体力テストの五十メートル走でも同じことを思ったな。ジャングルジムで足場を踏み誤って落ちたこと、デパートの階段で胸ポケットに入れていたおもちゃを落としたこと、そんな経験が走馬灯のように脳内にフラッシュバックする。

 ゆっくり流れる時間が目前の絶望を強調する。落ちる。少女の体がバランスを崩し、一回転して転がろり落ちようとする様子が、鮮明に見えた。

 ただ、スローモーションに見える世界は、北畝の体勢を予測する時間を僕に与えてくれた。服じゃだめだ。ダウンジャケットを掴んだところですり抜けるのがオチだ。無限にも流れる時間の中で、僕はこちらを振り向く北畝の目から、その左手へと照準を合わせた。

 ――――間に合え。

 脇下が鉄柵と重力の間で軋み、左腕の筋がちぎれるように張り詰めた痛みで、僕の左手がどうにか北畝の手首を掴むことに成功したのだと気づいた。落下を続けていた北畝の身体が、びたりと止まる。僕の左手は北畝の腕をきちんと掴みとっていた。腕一本で支えられているのは、火事場のなんやらというやつか。自覚した瞬間、世界が元の形へと復号していく。倍速に引き伸ばされていた世界が、段々とフレーム間隔を縮めていき、一秒へと到達する。

 そしてそれを自覚した瞬間、すべての知覚が僕の背筋をはい回るように激流となって遡った。壊れたビデオデッキがくるくると回りだして、同じ記憶を何度も逆再生する。海洋。左手。アドレナリン。少女の体温。何もかもが、あの日の再来だった。

 蠱毒の壺に手を漬け込んだかのように、実体のない毒虫が身体中を這い回り、肉を食み、針を刺す。無数の蝿に集られるような不快感が全身を刺激して、冷や汗が心臓から噴き出るような嫌悪感だった。手を離してはならないと、そう思えば思うほど、痺れた足に力を入れた時のような脱力感が心臓から血流にのって左指の先まで滲みるようだった。

 少しずつ、力が抜けていく。

 金縛りにでもあったように、力みと感覚が乖離していく。

 ゆっくり、ゆっくり。北畝の手首がすべっていく。〈らいらっく〉の巨体に押しのけられた白波が、獲物をよこせとまき散らされる唾液のようだった。その白波が、僕を飲み込もうとしたあの日の海のようで、余計に思考がまとまらない。

 左手の温かさが、感じられなくなる。これは僕の腕なのか? それとも、北畝の熱? あるいは、あの日のように冷たくなっていくのか。考えるなと思うほど、記憶が知覚を上書きしていく。

 駄目だ。力が抜ける。掴んだはずのものが、ゆっくりとずり落ちていく。また、また僕は――――、

「――森崎さん!」

 白波しか見えなかった視界に、少女の顔が重なる。

「やっと目が合いました」暢気なことをのたまう薄桃色の口元が、僕の中で急速に有彩色として認識される。北畝遥はいたって沈着冷静な態度で、その丸い瞳を僕へとむけた。

「この手を、放さないでください。あなたには二度と、掴んだものを放すようなことはさせません」

「――――っ。わかってる、よ!」

 あぁそうだ、もう同じ失敗はしない。

 ぐっ、と柔らかい腕を折ってしまいそうなほどの力を込める。僕の左手はどうなってもいい。ただ全力を注いだ。左腕が胸のあたりまで持ち上がったところで、すかさず右手で彼女の腕をつかんだ。背中の筋肉を振り絞って彼女を持ち上げ、そのまま北畝の足が柵にかかるまで抱え、うまく跨げずに転がり込んできた北畝を抱きとめた。外壁に強かに背中を打ち付けるが、不思議と痛くはなかった。外面的な痛みよりも、筋肉の断裂した悲鳴の方がより苦痛に感じる。

 なにより、もつれあった肢体の感覚と、わずか二センチにまで近づいた少女の瞳の方が、よほど関心ごとの中心だった。

 お互いの吐息すら聞こえる距離で、僕たちは静止する。柔らかな緊張が指先一つ分を満たして、僕たちは互いに見つめ合ったまま無言だった。白い息が混じり合って流れていく。北畝の真っ黒な瞳が、ゆっくりと僕の内面を探るように据えられる。無限にも感じられる一秒の中で、僕と彼女の意識が協奏曲のように交じり合って一つの音となるような感覚を覚えた。もはや官能的ともいえる穏やかな快感がカフェテリアのラジオみたいに浸透してくる。

「――――――――森崎さ」

「はぁ、まったく、死ぬかと思った」少女が口を開いたのを契機に、僕は話題をそらした。なぜそうしたのかは分からない。ただ、僕がここで一歩下がらなければ、どこまでも意識が溶け合って戻れなくなってしまうような、自己喪失にも似た原始的な恐怖を感じた。他者に理解されたいと思う人間だって、この溶け合うような感覚は拒絶するだろう。

 拒絶。北畝にも、今の僕はそう映っただろうか。

「……それ私のセリフでしょう」

 呆れたように笑う北畝はゆっくり起き上がると、はるか後方に遠ざかっていくオゼビの群れを見つめていた。表情は見えない。ただ、苦笑を交えてもなお声音では隠し切れない寂しさが、白い息に紛れていた。

「どうして、会いに来てくれないんですか」その呟きに、聞こえなかったふりをした。

「森崎さん、今の揺れなら吾田さんも起きたことでしょうし、朝食にしましょう。船から落ちかけたことは内緒にしておいてください」

「大丈夫か」

「ええ、大丈夫ですよ。全然、いたって平気です」

「……ならいいんだけど」

 安全確認に現れた船員と入れ違うようにして船内へ戻る北畝が、たった一度も振り返らないのは、彼女が何か考えごとをしている証左だった。中身も聞かずに「大丈夫」と答える人間が正常な状態でないことを、僕はよく理解していた。先ほどの視線の行く末を思案しながら、彼女が何を考えていたのか、想像してみる。その答えは比較的すぐ見つかった。

 船内に戻りフロントで怪我の有無を確認されていると、吾田と深沢がやってきた。僕たちが部屋にいないことを確認して慌ててやってきたらしい。「大丈夫だったかい」との心配に、北畝からの目配せを受けて、「何も問題はありませんでした」と返答する。虚偽報告には、自然と罪悪感はなかった。

「……北畝ちゃんも、特に変わったことはないか」

「はい、大丈夫です。――朝食を食べに行くので、これで失礼します」

「あ、私も!」

 すたすたと歩いていく北畝とその背を追う深沢を見送ると、吾田が「ソナーの収音を確認しに、僕も船長室へ行ってくるよ」と踵を返した。

「吾田さん」その背を呼び止める。吾田がわざとらしく大仰に振り向く。彼が僕に求めているものを、直感的に理解できた気がした。

「僕は、鯨王の代わりにはなれませんよ」

「……お見通しか」

 弁護も反論もなく、「まあ、そういうことさ」と告げて吾田は歩き去ってしまう。それは間違いなく、肯定の仕草だった。

 彼は僕に、北畝が次に依存するための巣穴となってほしいのだ。親を知らず、信頼できる大人を喪った北畝に代替品を充てがってあげたいのだと思う。

「……勝手なもんだ」僕はつぶやく。

 船が敦賀港に到着する最後まで、鯨王はついぞ姿を現さなかった。北畝はよく一人で海を見ていた。近づいても行儀のいい回答と表情が返ってくるだけだった。

 彼女が連絡を途絶したのは、新潟に帰ってからすぐのことだった。

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