第3話 白銀(しろがね)の惑星

僕たちが乗ったギャラクシーエクスプレスは、星屑の中を走っている。

地球が段々と遠くなるのが見えて、不思議な気分になった。

その時、再びアナウンスが聞こえて来た。


『本日はギャラクシーエクスプレスをご利用いただきましてありがとうございます。この電車は地球発、海王星行きです。終点まで、快適な星空の旅をお楽しみください。この電車は途中火星、木星、土星、天王星、アスボルス小惑星群、並びに各星の衛星に停車いたします。惑星の軌道により止まる順番が変更になる場合があります。終点は海王星・プロテウス国際ステーションです。各到着時間は…』


「あっ、アスボルスって言った」


ジンがアナウンスに反応した。


「アスボルス?」


「うん。小惑星の大群だよ。僕の星がその中にあるんだ」


今日は海王星より先に止まるみたいだ、とジンは嬉しそうに言った。





「僕の星はね、白銀しろがねの惑星って呼ばれているんだ」


電車が走り続ける中、ジンは僕に自分の星の話をしてくれた。


「何で白銀なの?」


「一年中星全体が真っ白なんだよ」


真っ白と聞いて、まず僕が思い浮かべたのは雪だった。

やはりジンは雪の妖精か何かのか、と考えて僕はべしんと頬を叩いた。

妖精なんているか!


「ずっと雪があるの?」


僕の質問にジンは首を横に振る。


「雪じゃないよ。真っ白な砂」


「砂!?」


そこまで聞いて僕は思い出した。

数年前に、当時の担任の教師から聞いた「幻の王国」について。


「前に先生から聞いた事がある…地球からものすごく離れた場所に、「砂の王国」があるって…」


『幻の』と言う単語が付いたのもあり、僕はそれが実在しない架空の場所だと思い込んでいた。


「それ、イクシオンの事だよ」


ジンは笑いながら言った。


「そうなの!?」


「僕の星はね、星自体が丸ごと1つの王国なんだ」


砂の王国は実在した、と言う事に僕は驚いていた。

宇宙には僕がまだ知り得ない事がきっとまだたくさんある。

ジンは他にも色々な星の話をしてくれた。

僕たちは時間が過ぎるのも忘れて、ずっと話し続けた。





『間もなくアスボルス小惑星群です。星群内ではフォルス、ネットス、アスボルス、イクシオン、テュフォンの順に停車いたします』


あっという間に時は流れ、僕たちは木星を出発した。

しばらくすると、車内アナウンスがもうすぐイクシオンに到着すると知らせて来た。


「あ、見えて来た。あれがイクシオンだよ」


ジンが指差した先、まだ少し距離はあったが1つの惑星が見えた。

先程見た木星よりもずっと小さな惑星。

それは銀色に光り輝いているように見えた。


「……、綺麗だ、」


僕は思わず呟いた。

まだ星には着いていないし白い砂も見ていないけど、もう既に今の時点で「白銀の惑星」と呼ばれている事について、充分腑に落ちていた。


「カイトくんの海王星も、とても綺麗な星なんだよ」


窓の外の白銀の惑星に見惚れている僕の横でジンが言った。




『ご乗車ありがとうございました。イクシオン・レオンテウス国際ステーションです』


イクシオンの星内にギャラクシーエクスプレスが到着した時、ジンの言う通り駅の外には真っ白な砂の世界が広がっている様子が見えた。

ここで降りるジンを見送ろうと、僕はプラットホームに降り立った。


「すごいや…本当に砂の王国なんだ!」  


興奮している僕を見て、ジンは嬉しそうにしている。


「喜んでくれて嬉しいよ。あ、そうだ。今日は難しいだろうから今度…」


そこまで言ったジンの声は、僕の後ろから聞こえて来た声に遮られた。


「殿下!!こんな所におりましたか!!」


後ろを振り向くと、黒いスーツを着た大人たちが数人走って来るのが見えた。


「げぇっ、見つかった!!!」


ジンが彼らを見て顔を歪ませる。


「殿下?」


一般的には聞きなれない呼称に僕は首を傾げた。


「あれ程ファーストクラスに乗るようにと申し上げたではありませんか!!国王と王妃がどれだけご心配をされているか…」


「だって友達と一緒がよかったんだもーん!あと殿下って言わないで!古くさい!」


「殿下あああ!!!」


ジンとスーツの大人の1人は僕の目の前で言い争いをしている。

殿下、と呼ばれているジンを見た僕はまさかと思って聞いてみた。


「ジンくん、君って…」


恐る恐る聞いた僕を見たジンは、ヘヘッと笑った。


「あはは、バレちゃった…僕ね、この国の王子なんだ」


「ええええ!!?」


僕の声はその場に響き渡った。

一国の王子様とあんなに喋り続けていたのか。

僕は何か失礼な事をしなかったかとハラハラし始めてたが、ジンは全く気にならなかったらしく話を続けた。


「地球には交換留学で行っているんだ。だから冬になる前にはまた転校するけど…カイトくんとは本当はずっと前から話してみたかったんだよ。一緒に電車に乗れて楽しかった」


そう言って笑ったジンを見た僕は手を差し出した。


「僕もだよ。ありがとう」


ジンはこちらこそ!と言って僕の手を両手で握って来た。





「じゃあまた学校で!海王星の話聞かせてねー!」


ジンは側近の男性たちにズルズルと駅の外に引きずられて行く。

一行がプラットホームから出る時、男性の1人が深々と僕にお辞儀をした。

僕も焦ってバッと頭を下げた。




怒涛のような時間だった。

この宇宙の旅は静かなものになると思っていたけど、ジンのおかげでとても楽しい旅になった。

もしまたこの電車に乗る機会があったら、その時もジンと一緒がいいな、と思った。


『ご乗車ありがとうございました。間もなく終点・海王星に到着いたします』


そのアナウンスを聞いた時、電車の中の乗客から歓声が聞こえた。

窓の外から既に海王星が見えるようだ。

僕も身を乗り出して窓の外を見た。


「…あれが海王星か、」


黒い海に浮かぶ、青く大きな惑星。

ジンの言う通り、綺麗に輝いて見えた。

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星屑の快速特急 遠野みやむ @miya910

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