第2話 宇宙への旅

僕とジンが乗り込んだギャラクシーエクスプレスは、走る音は静かだけどかなり早いスピードで走っているようだ。

東京を出てからもうすぐ1時間。

次に到着するのは「ハノイ」だと先程アナウンスが入った。



自分の星に帰る時はいつもこの電車に乗るんだ、とジンが教えてくれた。

彼の星、とふと考えた僕は質問をする。


「イクシオンってどこにあるの?」 


ジンが転校して来た日、担任は彼が「イクシオンから来た」と言っていた。

僕は太陽系の惑星は全部分かるが、それ以外はあまり詳しくない。

なので隣に腰掛けて足をぷらぷらさせているジンに聞いてみたら、彼はジュースをぷはあ、と飲んだ後に答えた。


「海王星の近くをくるくる回っているんだ。海王星よりも太陽から離れている星たちの事を「太陽系外縁天体」って言うんだけど、その1つだよ」


太陽系には8つの惑星がある。

水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、そして僕の母の故郷である海王星。

中でも海王星は、8つの惑星の中で最も太陽から離れていると以前聞いた事があった。

それよりも離れているのが、ジンの星を始めとする「太陽系外縁天体」と呼ばれている星たちらしい。


「ずっとくるくる回っててじっとしてないからいつも着く時間がバラバラなんだよね」


ジンは不満そうに口を尖らせる。


「もしかしたら、海王星より先に着くかも」


だとしたら君に僕の星を見せられるからいいか!とジンは言った。

少し機嫌が戻ったようだ。


海王星の近くにいるイクシオンか。

地球で言う月のようなものかな。


僕は小さな惑星が海王星の周りをくるくる回っている様子を頭に思い浮かべた。


「カイトくんは海王星の人なの?」


今度はジンが僕に聞いて来た。


「僕のお母さんが海王星出身なんだ。行くのは久しぶりだよ」

 

「そっかあ」


だから君の髪の色は海王星と同じ色なんだね、とジンはニコッと笑った。


僕の髪の色は深い青色だ。

小さい頃に行ったきりの海王星の事はあまり覚えていない。写真でしか見た事がないけれど、星の色は知っていた。

これから久しぶりに見られる、青い惑星。

僕は早く海王星が見たくなって来た。




東京から出発して3時間が経った頃、ギャラクシーエクスプレスはロンドンのグリニッジ国際天文ブリッジに到着した。


『これより宇宙空間へと移動を開始いたします』


アナウンスの後、ギャラクシーエクスプレスは空へ向けて軌道を変え始めた。


ブリッジは言うなれば宇宙への玄関口である。

現在ブリッジがあるのはロンドンのグリニッジ国際天文ブリッジと、テキサスにあるリンドン・B・ジョンソン国際宇宙ブリッジの2ヶ所だけだ。

アジア経路からだとロンドン行きのみしか電車は出ていなかった。


「ブリッジって東京にも出来ないのかなあ」


ジンは窓の外を見ながら呟いた。



遙か昔。

東京からロンドンに行くまでは飛行機か船でしか方法がなく、飛行機は直行便でも15時間以上?はかかっていたらしい。

船に関しては一般的ではなかったようでほぼ記録がないと先生が言っていた。

その時代に比べたらかなり進歩したんだろうとは思うが、現状世界にブリッジは2つだけしかない。


「東京に作るとしたらどこかな?」


ジンは腕を組んで考えている。

僕も唸りながら考えていると、再びアナウンスが入った。


『間もなく発車いたします。揺れが続きますので着席の上、シートベルトの着用をお願いいたします』


ついにギャラクシーエクスプレスは宇宙へと旅立つようだ。

僕とジンはシートベルトを元々着けていたが、しっかり着いているかお互いに引っ張って確認をした。

英語でもアナウンスが入った後、僕たちは宇宙へ向けて出発した。


走っている間、外を見ていた。

下には段々と遠くなる大地が見える。やがて電車は雲の中に飛び込んだ。

雄大に広がる雲の上に、澄んだ青い空が広がっている。


「うわあ…!」


僕は感動して思わず声を上げた。


「きっともっとびっくりするよ」


「もっと?」


振り返った僕を見てジンは頷く。


「もうすぐ星の海が見える」


ジンがそう言った後、青空が段々濃くなって来た。

そしてギャラクシーエクスプレスは減速を始める。


『間もなく宇宙空間です』


そのアナウンスの後、目の前に漆黒の空間が広がった。

黒い空には、今までに見た事がないくらいたくさんの星が散りばめられている。

下の方には今までいた水の惑星…地球が見えた。

僕は思わず身を乗り出して外を見た。


「本当に星の海だよ!ジンくん!」


目を輝かせる僕を見たジンも心なしか嬉しそうに見えた。

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