第90話 紅炎槍


 使う魔法はシンプルなものでいいだろう。

 【浄火】が一番効果的ではあるのだが、人間相手には効かない。

 そのため、普通の火属性魔法で攻めるとしよう。


「【魔法二重化ツインマジック紅炎槍プロミネンスランス】」


 燃え盛る豪火の槍が二本、俺の頭上に現れた。

 まさか魔法を使うとは想定していなかったようで、タンクの表情は明らかに引きつっている。


 俺はそんなタンクに対して待つことはせず、片手を突き出して魔法を放つ。

 二本の【紅炎槍プロミネンスランス】が、大盾を構えているタンクの下に轟音と共に飛んでいった。


 【紅炎槍プロミネンスランス】ぐらいなら、楽々対応してくるかと思ったのだが……。

 一本目の【紅炎槍プロミネンスランス】は受け止められたものの、質の高そうな大盾を溶かしており、二本目の【紅炎槍プロミネンスランス】で完璧に大穴を空けた。


 大盾に穴が空いたということは、俺の放った【紅炎槍プロミネンスランス】はタンクにも届いており――。

 豪火の槍に貫かれたタンクは、あまりにもあっさりと光の粒子に包まれて消えた。


「えっ!? あれだけバフをかけたのに、マーモンの奴あっさりとやられたんだけど!」

「マーモンが死んだことより、盾を壊されたことのが痛い。魔法を防ぐ魔法の大盾って触れ込みだったはずだけど……あのおっさん本当に何者?」

「分からないけど、本当にただ者ではなさそうだですね。マーモンを強化して全ての攻撃を防いでもらうっていう作戦も失敗しちゃいましたし、かなりまずいかもしれません」


 あまりにも予想外の展開のようで、三人の声量が上がって会話が聞こえてくる。

 俺ももう少し手こずると思っていたから、ここまであっさりとタンクを殺せたのは意外だった。


「てか、剣だけじゃなくて魔法も使えるって聞いてないんだけど! 魔防を上昇させる魔法は使ってなかったし、無意味だったってことじゃん」

「降参するのが賢い。防具を破壊されたら大赤字」

「降参したいのは山々ですが……これだけの相手と戦えるのは防具よりも貴重ですよ。それに――私の攻撃が通用するのか試したいです」


 三人は完全に戦闘を放棄して会話を行っており、攻撃していいのか非常に迷う。

 せっかく魔法を見せたことだし、シルバーゴーレムに使った氷魔法も使いたいんだけどな。


「でた。ジュリアンの我が儘」

「なら、ジュリアン一人で戦えばいいじゃん! 私達は降参するから!」

「……随分と寂しいことを言いますね」

「マーモンがやられた時点で勝ち目ゼロだし!」

「分かりました。……グレアムさん、聞いていましたか? 私以外の二人は降参したいらしいのですがよろしいでしょうか?」


 そう俺に話を振ってきたジュリアン。

 ということは、戦わずしてジュリアン一人だけとなったのか?


「俺としてはありがたいが、三対一じゃ勝ち目がないだろ?」

「勝ち目はありませんが……やらせていただけると助かります」

「なら、俺とジュリアンの一対一で戦おう。それと……俺は魔法を使わない」


 話を勝手に変えてしまっているが、交流が目的なら問題ないだろう。

 【白の不死鳥】とは特に因縁もないし、ジュリアンと剣での戦いを行いたい。


「いいのですか? 大分ハンデを頂いておりますが」

「構わない。魔法を使わずとも――負ける気は一切しないからな」


 俺はニヤリと笑って、そう言いきった。


「これはこれは……絶対に負かせたいですね」

「ふむ、両者合意ってことだな。交流戦はグレアム、ジーニア、アオイの勝利。エキシビションマッチとして、ジュリアン対グレアムの試合ってことでいいか?」

「ああ、大丈夫だ」

「私も大丈夫です」


 サリースに返事をすると、【白の不死鳥】の魔法使いと回復術師は外へと捌け、ジーニアとアオイも外に出た。

 予想していなかった展開だが、ジュリアンとの一騎討ち。


 【サクラ・ノストラ】に使っていたスキルが気になっていため、俺にとっても願ってもない展開。

 単純な剣術では負けないだろうから、あのスキルだか魔法だかを見極められるかが勝敗を分けるだろう。


「それでは両者位置についてくれ。準備はいいな。――始め!」


 二度目となるサリースの合図で、ジュリアンとのエキジビションマッチが始まった。

 あの必殺技は気になるものの、俺も手加減するつもりはない。


 飛ばす斬撃を放って牽制をしながら、一気に距離を詰めていく。

 静かに様子を窺っていただけあり、ジュリアンは飛ばす斬撃を難なく対処した後、距離を詰めた俺に対しても余裕の対応を見せてきた。


「本当に速いですね。動きを観察していなければ対応出来ていませんでした」

「今の攻撃だけで対応できたと思われているのが少し悲しいな。――まだまだ速くできるぞ」


 俺は一振りごとに速度を上げていき、かろうじてガードしているジュリアンを攻め立てる。

 振る速度が上がるごとに威力も増していくため、数回振っただけでジュリアンのガードが間に合わなくなり始めた。


「ちょ、ちょっと――待ってください! 速すぎ――ます!」

「必殺技があるなら温存しない方がいいぞ。後三回で仕留める」


 一振り目で指を斬り、二振り目で腕を深く斬り裂いた後、口約通り三振り目で首を落としにいった瞬間――ジュリアンの体は光り輝き出した。

 【サクラ・ノストラ】相手に使っていた技であり、この距離からなら何をしているのか分かる。


 どうやら自らを爆発させるスキルのようであり――俺は刀を盾のようにすることで爆発から体を守った。

 至近距離からの大爆発。


 流石の俺でもダメージを負ったが……まだ体は動かせる程度のダメージ。

 対するジュリアンだが、斬り飛ばした指や深い腕の傷は回復した状態となっており、爆発なんてなかったかのように先ほど同じ位置に立ち尽くしていた。





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