第91話 不死鳥の由来


 近くで見たことでようやく理解できた。

 自爆するスキルであり、更にスキルの使用と同時に負っていた自身のダメージが回復するスキル。


 相手にダメージを与えながら、自分も全回復するという無茶苦茶なスキルだが、恐らく連発できるスキルではないはず。

 その証拠に……爆発に耐えた俺を見て、ジュリアンの顔が恐ろしく引き攣っている。


 それにわざわざ自爆なんかしないでも、俺は回復魔法で回復することができるからな。

 近づいたら斬るという強い圧をかけつつ、俺はその隙に自分に回復魔法をかけた。


「うわぁー……。回復魔法も……使えるんですか?」

「あれ、言っていなかったか?」

「あれだけの剣術に攻撃魔法も使えて――回復魔法まで? 本気で何者なのですか?」

「普通のDランク冒険者だ」

「普通が何だか……分からなくなりますね」


 ジュリアンは顔を引きつらせて笑いながら、そう小さく呟いた。


「それでどうする? もう降参するか?」

「降参なんかする訳ないじゃないですか。最後まで全力でやらせてもらいます。だから――本気で殺してください」

「ああ、分かった。全力でやらせてもらう」


 そこから無我夢中といった様子で斬りかかってきたジュリアンに対し、俺は全力で相手をした。

 今日戦った中では一番の強さではあったが、俺を脅かすほどの強さではないと断言できる。


 ――全力で殺す。

 そうジュリアンに頼まれたため、俺は一切の手加減をせずに袈裟斬りにて両断。


 酷い姿になりながらも笑顔を見せたジュリアンは、光の粒子に包まれて消えた。

 歓声がドッと上がり、サリースによって俺の勝利宣言がされた。


「ジュリアン対グレアムのエキシビションマッチ。勝者——グレアム!」


 拍手が巻き起こり、【サクラ・ノストラ】を除く、今日俺が負かしたSランク冒険者達からも拍手された。

 俺はそんな拍手に手を上げて応えながら、ジーニア達の下へと戻る。


「最後も圧巻の勝利でしたね! やっぱりグレアムさんはかっこいいです!」

「俺もグレアムさんが全勝するとは思っていたが……。まさか各街のSランク冒険者相手にここまで圧倒するとは思ってなかった! 久しぶりに興奮させてもらった。本当にありがとう」

「私は圧勝と思ってたけどね! 一回も戦えなかったのは残念だけど、近くでグレアムの試合が見れたのは良かった!」


 各々、手放しで褒め称えてくれて嬉しいのだが……少し恥ずかしさもある。

 面倒ではあったし、注目されるのも嫌ではあったが、こうして三人の喜んでいる姿を見られたなら戦って良かった。


「ギルド長には良い機会をもらって、ジーニアとアオイの二人がいたから、全力で戦うことができた。俺の方こそありがとう」

「私達がいなくても圧勝だったでしょ!」

「いや、どこかでブレーキをかけていたと思う。思いっきり戦えたのは、二人が変わらず接してくれるっていう信頼があったからだ。二人が思っている以上に、俺の中での二人の存在は大きい」

「な、なんか照れてしまいますね!」

「た、確かに! ジーニアは結構信頼されているイメージだったけど、私もそう思われてるとは思ってなくて……ちょっとニヤニヤしちゃう」


 ジーニアもアオイも照れくさそうにしながら、表情をニヤつかせている。

 本気で二人の存在は大きく、おっさんなんかについてきてくれてありがとうという気持ちが大きい。


「微笑ましくていいな。三人を見ていると本当に冒険者に戻りたくなってくる」

「ギルド長も冒険者に戻るか? ギルド長ならパーティ加入を歓迎するぞ」

「……………………めちゃくちゃ魅力的だが、俺は今まで通り別の形でグレアムさんをサポートする。今回の恩は絶対に忘れないし、死ぬまで全力でサポートすると誓う」


 ギルド長の目は本気であり、少し怖いほど。

 帝都に来て、ちょこっと戦っただけだし、そこまで恩を感じなくてもいいんだけどな。

 ……単純に帝都旅行が最高だったし。


「気負わなくていいぞ。普通に良い経験だったし、知り合いも増えて良かったからな」

「グレアムさんがどう思ったかは関係ない。俺はが死ぬまで全力で尽くすと決めたんだ」

「そ、そうか。なら、お願いしようか」

「ああ、何でも言ってくれ!」


 俺がギルド長の熱に押されていると、審判を務めてくれていたサリースがやってきた。

 帝都の代表の【白の不死鳥】が負けたというのにニコニコであり、本当に嬉しそうにしている。


「グレアム、全勝おめでとう。本当に良いものを見させてもらったよ」

「貴重な経験をさせてくれてありがとう。それと、【白の不死鳥】を負かしてしまって住まなかった」

「なに謝ることじゃない。【白の不死鳥】……というよりも、リーダーのジュリアンにとって良い機会だったろうし、完全にプラスでしかない。全力で叩き潰してくれてありがとう」


 皮肉ではない真っ直ぐな言葉。

 敗戦から得られたってことなのだろうか。


「完勝してお礼を言われるって慣れないな」

「自慢じゃないが……私は現役時代負け知らずだったからな。負けることの大切さをよく知っているんだ」

「いや、自慢にしか聞こえないぞ」

「いやいや本当に自慢じゃない。現役時代に負けていればもっと大きくなれたと未だに思っているからな。だから、負けという経験を味わわせてくれたことに感謝してる」


 よく分からないが、心からの感謝だということは伝わる。

 サリースも本当に不思議な人物だ。


「なら、素直にその感謝を受け取っておく」

「ああ。何かお礼がしたいから、また別日にでもギルド長室に来てくれ」

「お礼なんかいらないけどな。既に色々と良くしてもらっているし」

「いいんだ。一つお願いしたいこともあるから、ぜひ来てほしい」

「……分かった。落ち着いたら、ギルド長室に寄らせてもらう」


 サリースとそんな約束を交わした後、俺達は残りの試合を観戦することにした。

 【バッテンベルク】も戻ってきたことで、試合は全試合行うことができた。


 そんな交流戦の最終的な順位は、全勝の俺達が一位。

 一敗の【白の不死鳥】が二位、二敗の【バッテンベルク】が三位、三敗の【サクラ・ノストラ】が四位、全敗の【紅の薔薇】が五位という結果となったのだった。

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