問うに落ちず、語るに落ちる、騙り尽くして落とし込む

「――――――怪奇日食クロスオーバーの能力は知っているわね?後輩」


倒れたビルが一望できる屋上で唐突に、品内先輩は質問した。

僕はそれにすこし戸惑いつつも、返答を返す。


「⋯⋯えぇ、まぁ」


怪奇日食クロスオーバーの能力は、侵食と混合ではある。

こう書けばそんなに大したことができなさそうにも思えるが、上記二つはあくまでも基礎的な部分であり、本質的な部分はまた別にあると思われる。

なにしろあの口ぶりで、あの自信ぶりだ。もしかしたら基本的な能力ではなくて副産物なのかもしれない。


「少なくとも僕はそう推測しているけれど、実際のところはどうなんだい先輩」


「察しが良いわね後輩、彼女が語っていたはあくまでも基礎よ」


「へぇ、それじゃあ本領があるってことかい」


かつて孔空 空鳴あなぞら からなき怪奇日食クロスオーバーと呼ばれて、尚且つ恐怖と畏怖の対象になっていたのは理由がある。

それがどのようなものかは僕は聞いたことはないけれど、少なくともそれ相応の理由があるだろうし、それとなく推理ができる。

方万 刀刃ほうよろず とうはのように本当の能力が隠されており、正しい正解があると、推理できる。


「いい推理ね、悪くないしむしろ好ましくさえある推理よ。まぁ彼女の場合は意図的に隠していて、言ってみればジョーカー切り札のような扱い方をしているのよ。まぁ初見殺しってわけでもないから、多分必殺技は取っておくタイプなんでしょう」


「なるほど、切り札ジョーカーは適切な時に扱うべきだしね」


「俗に言うエリクサー症候群みたいなものね」


「一気に俗っぽくなっちゃった」


まぁ、僕はゲームを趣味としているから伝わるには伝わるが。


「しかし随分と勿体ぶるんだね先輩、無知蒙昧な僕はそろそろあの戦場にいかなければならないし僕に教えてくれたっていいんじゃないかい?」


「えぇそうね、でも今回は実例を見せながら教えてあげるわ」


傾聴なさい、と言ってから品内先輩はビルを指さした。

方万 刀刃ほうよろず とうはの、脅威の斬撃により真っ二つに切断されて倒れたビルを、その永劫不変の身体で指さした。


怪奇日食クロスオーバーの本領はってことを、ね」


――――――――――――――――――――


「――――――さぁさぁいざいざご笑覧あれ!」


怪奇日食クロスオーバーの担い手、孔空 空鳴あなぞら からなきは少し目を離した瞬間に、いつの間にか倒れたビルの上に立っていた。


「是なるは怪奇日食クロスオーバーの本領にして本性!玉石混交にして渾然一体の異能力者が跳梁跋扈する学園であれど唯一無二のオリジナル!」



――――――ずるり



その姿を見た方万 刀刃ほうよろず とうはは無論、臨戦態勢を取る。

すこしばかり眉を動かしたようにも見えて、その表情の動きは彼女の数少ない人間性が読み取れた。


だが彼女は直ぐに機械のような無表情に戻り、カチリと鯉口を鳴らしてから、両手を交差させて



ぬるり――――――



只、全力で振るった



空鳴に向けられて放たれたようとされた、その一撃は

抜こうとしても見えない縄に縫い付けられたかのごとく、動きが止まっているのだ。

その光景に僕が息を呑んだのは言うまでもない。


「いやぁ、馬鹿正直に私を狙ってくれてご苦労!褒美に私を狙ったことを後悔させてあげるよっ!」


これには方万 刀刃ほうよろず とうはの凝り固まった表情が少しばかり緩む。

鉄面皮とも称されるほどに動かなかった顔に、驚愕の感情が少しだけとはいえ浮かんだのだ。

しかしその驚愕は一瞬、時間にしてみれば一秒にも満たない極小の時間だろう。


だが、


方万 刀刃の真隣から突如として、地面から風紀委員長が現れる。

というよりも、這い出ずる。

真っ黒な液体を付着させつつ、巨大な十字架を振りかぶった状態で現れたのだ。

そのような状況で現れた彼の一撃を、一体どうやって避けられるのだろうか?


「っ!?」


しかし十字架に叩かれて吹き飛ばされた彼女が驚いたのは、万くんがいきなり現れたことではなく、である。

なにしろ我が身を叩いた十字架が棺のように開き、その中から無数の鎖が伸びてきたのだ。

蛇のように狡猾なうねりを見せながら、明らかに物理学的事象から外れた、自身の身体を縛り付けようと動いてくるのだから、その光景を見て驚くなという方が無理だろう。


しかしそこは特定監視対象生徒と言うべきか、直ぐに彼女は思考を切り替えてその鎖をはたき落とそうと両手に握った野太刀を振り回そうとした。


ただし、振り回そうとしただけである。

不思議なことに振り抜こうとする瞬間に、その動きは止まったのだ。


「おいおい、折角のチャンスを逃すわけないじゃん?せっかくの初見殺しなのにさ」


無数の鎖が鍛えられてなお細い五体を持つ彼女に纏わりつく。

そうして、方万 刀刃ほうよろず とうはの身体を見事に拘束した風紀委員長は、冷静な声で口を開いた。


清々しい判決ジャッジメントール


「普段だったら止まり処のない後悔スタジオクローズドを詳しく話すんだけどねっ!残念ながら今回は慢心しないよ、全力でやらなきゃこっちがやられそうだからねぇ?」


「早くしてくれてめえら!いくら俺でもこいつは長く拘束できねぇからなぁ!!」


「だからこそ、俺ちゃんがいる」


外々 夕卜そとがい ゆうぼくが、例外処理ゲームクラッシャー

全身に巻き付けたKEEP OUTのテープを巧みに操って、彼女の両腕に絡ませるように巻き付ける。


「鎖とテープによる二重拘束に風紀委員長のだぁ!いくらお前といえどこれは破れねぇよなぁ!」


「今だけはお前に感謝してやるぜ特定監視対象の馬鹿二人ぃ!後は任せた!舌先三寸で語り尽くすのはてめえの仕事だぁ!」




僕は、方万 刀刃ほうよろず とうはの前に現れた。


――――――――――――――――――――

あとがき

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