第二十三話 ゴールデンウィーク

 5月6日。

 ゴールデンウィークが原稿用紙一枚で収まる密度で終わり、迎えたこの日。4月の月間課題の評価が返ってきた。

 評価は『可』。ギリギリOKってやつだ。不合格すれすれとも言う。

 評価シートのボロクソ具合を食堂で笑い飛ばしていると、隣に彼女がやってきた。


「おっはよ~!」


 咲良亜金だ。


「おはよ」


 咲良は元気そうだ。初めて出会った頃みたいに向日葵のような笑顔を浮かべている。


「どうしたの? 元気ないね」

「……例の漫画、あんまし評価が良くなくてな」

「そりゃそうでしょ。あんなの、私特効特化クリティカルバーストじゃん。他の人が読んで面白いとは思えないよ」

「適当に言葉並べんな。ま、一番の不得意分野で可を取れたんだから良しとしよう」


 咲良は食堂で買ったであろうパフェを、俺の前に置く。


「あげる」

「いいのか?」

「うん! お礼だよ。君のおかげで、元気になれたから」


 ゾク。と胸の奥から喜びが込みあがってくる。

 なんか、わかってきたな。俺の原動力的なやつが。


「そんじゃありがたく、いただきます」

「ヒラ君」

「ん? なんだよ」

「前にも言ったけど、改めてもう一回言うね」

「?」


 咲良は真剣な顔で、


「いつかヒラ君がアニメ化作家になったら、ヒロイン役は絶対に私がやるから」


 前に咲良に寮を案内してもらっている時に言われた言葉……いや、あの時とはちょっと違う。あの時は『ヒロイン役に』と言っていた。でも今は『してね』ではなく『やる』と言っている。

 今の咲良は冗談ではなく、本気で、実力で俺の作品の声優をもぎ取ろうとしている。


「って、ちょっとかっこつけすぎかな?」


 咲良は照れくさくなったのか、顔を赤くして頬を掻いた。俺と咲良にちょっぴり甘い空気が流れた時だった。

 正面と左隣の席にガタン! と勢いよくトレイが置かれた。


「「ここ空いてます?」」


 正面に来たのは銀髪の美少女、芥屋。隣に来たのは水色髪の美少女、彩海だ。


「……置いてから聞くなよ」


 二人は不機嫌オーラ全開だ。彩海はわかる。コイツは寮生である咲良が大好きだから、俺と咲良がちょっとイイ感じになったから邪魔しに来たんだろう。だが芥屋、お前はなぜ怒っている?


「ちょっと待ってよ水希! もう、そっちから誘ったくせに先に行かないで――って」


 飛花までやってきやがった。おいおい、なんとなくこの後の流れが読めてきたぞ……。


「あれ? みんな一緒でどうしたの?」

「おやおや。あたしを差し置いて集会かい?」


 佐藤と日彩もやってくる。そして自然と、みんな同じテーブルについた。天使たち大集合だ。


(これは……まずいな)


 全方位から殺気が感じる。

 彩海、芥屋はもちろん、男たち……いや、女子たちまで!? 俺を睨みつけている。


「……なんだアイツ、一年か? 見かけねぇ顔だな」

「……俺たちの天使たちを囲いやがって……! 羨ましい! 殺してやる!」

「……次の漫画の構想が固まった。黒髪のひょろいやつが拷問されまくる話にしよう」

「……いいなそれ。俺も手伝うぜ。アイツの顔しっかり覚えて模写しないとなぁ……!」


 そんな陰口など耳に届かない天使たちは……、


「あ! いつの間にか私のケーキのイチゴが無くなってます! 誰かつまみ食いしましたね!」

「サスペンス発生ね! この謎、私が解いてみせるわ!」

「犯人は飛花と日彩の二択でしょ」

「決めつけは良くないよ。まずは状況を整理して……」

「日彩ちゃん。鼻にクリーム付いてるよ」

「そのやり口は古いぜあかねる。それであたしが疑いなく鼻を触ったらあたしが犯人ってなるわけだ。古い古い。まぁでもわかった上で触ってやろう……ありゃ、ホントだ」


 ワーギャーと騒ぐ天使たちを他所に、俺は固まっていた。

 四方八方美少女祭り……俺の美少女恐怖症が発動してしまったのだ。


(もう、勘弁してくれ……)



 ――――――――――

【あとがき】

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