第二十二話 初恋

 私の人生は順風満帆『だった』。

 運動も人並みにできたし、勉強もできた。いじめられることもいじめることもなく、順当に小中高と進学した。高校の偏差値も60はあったし、大学も上位の方を狙えただろう。


 私の人生が乱れたのはアニメに嵌ってからだ。高一で友達の勧めからアニメ鑑賞をはじめ、ド嵌り。ライトノベル、漫画にも手が伸びていった。そしてあの漫画……『銀箔の神威』に出会った。


 この漫画に関わりたい。そう思わせるほど、その漫画は魅力的だった。次に考えたのはどうやって関わるかだ。色々考えたが、一番私が憧れたのは……この漫画のヒロインの声を演じることだった。私は順風満帆ルートを外れ、声優への道を歩き出した。


 両親は私のやりたいようにやらせてくれた。

 声優の道は険しく、人生で一番挫折した。失敗続きだった。でも人生で一番、充実した日々だった。だけど……。


「……」


 敷布団の上で、布団をかぶって、私はヒラ君から受け取った封筒を眺めていた。


「『俺がお前の新しい目標になってやる』、か。カッコいいな、ヒラ君」


 でもごめんね。それは無理だよ。

 あれほどに感動する漫画にこの先会える気がしないもん。それもたかが読み切りで、あれだけの感動を得られるわけがない。


「期待はしてないけど……」


 やることもないので、封筒から原稿を出す。

 そして私は、ヒラ君の読み切りを読み始めた。

 主人公は声優志望の女の子。何度も挫折して、それでもめげずに声優を目指すという……綺麗ごとばかりのストーリー。


 声優を目指している身から言わせてもらうと、リアリティに欠ける。構成も悪い……だけど、


「あれ……?」


 なぜか、私は読み進める内に泣いていた。

 ひたむきに頑張る主人公に自分の姿が重なった。それだけじゃない。この作品に……どれだけヒラ君が向き合ったか、ヒラ君がどれだけ努力したかが、原稿から伝わってきた。


 明らかに、私に向けた作品だ。


 見ていてわかる。ヒラ君が私に伝えたいことが。

 彼はきっと、物凄く感情表現が苦手なんだ。普段の彼は落ち着いていて、どこか壁を感じる……だけど漫画だと、凄く真っすぐに気持ちを伝えてくる。


 多分、私以外読めばこの読み切りは凡作だ。

 けれども、私に限って言えば……この作品は、この作品は……!


「……こんなの、ズルいよ……!」


 封筒の中には原稿以外なにも入っていなかった。書き置きも、なにも。

 この漫画に、私に言いたいことがすべて詰まっていた。

 壁に背中を預ける。

 この壁の向こうにはヒラ君が暮らしている。


 ……なぜだかその事実が、今になって、とても嬉しくて、恥ずかしくなってきた。




 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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