第五話 彼女は今日も「めんどくさい」
高校一年の間だけでも四人には告白されていた。見た目は悪くないし、他とキャラ被りすることもない。唯一無二の魅力があるっちゃある。男子が相手でも女子が相手でも特に緊張することなく話すしな。とげとげしい部分がなくもないが、人格に嫌味がないのだ。
「ねぇねぇ、
俺の数少ない友人、
「いないんじゃないか」
俺はサッカーボールを蹴り返しつつ言う。
「つーか、なんで俺に聞くんだよ」
「だって古津君、那楽さんと仲いいじゃない」
「仲いい……のか?」
「いいでしょ。那楽さんがあんなに長く喋るのって古津君ぐらいじゃないかな」
言われてみれば確かに。
「そんで、那楽に彼女がいないことを知って、お前はどうするんだ?」
「ふふ……決まってるでしょ」
その時、校舎に帰ろうとしている女子二人が「二戸く~ん!」と二戸に手を振った。
二戸は笑顔で手を振り返す。
「いいね……今の二人、そそるよ」
二戸はイケメンで、いつも笑顔で、女子からの人気は絶大。
だがその裏の顔はとんでもない。
「ポニテの子が攻めで、長髪の子が受けだね。お姉さん気質の長髪の子が、あの子供っぽいポニテの子にいいようにやられるんだ……それがベスト」
「また例の妄想か」
「うん! まったく、ウチの高校はキャラのバリエーションが多くて
二戸は百合(女性同士の恋愛)が大好きな百合男子なのである。
二次元だけで飽き足らず、三次元でもこうして妄想するのだ。もちろん、女子の前ではそんな顔は一切見せないけどな。
「那楽さんに彼氏がいなくてよかった。これで思う存分
コイツの本性を知ったら、誰もコイツに甘い声をかけなくなるだろう。
「知るかアホ。まぁなんだ、お前のファンタジーとやらに水を差すようであれだが」
一応、これだけは言っておかないとな。
「那楽は恋愛とか苦手だと思うぞ」
「どうしてそう思うんだい?」
「だって恋愛ってめんどくさいだろ。せっかくの休みにデート行ったり、こまめにメッセージ送ったり……アイツ、女扱いされるのも嫌いだし。恋愛とか、ホント興味ないと思うぞ」
「なるほど。恋愛が苦手な彼女が、直球勝負の吉比さんに攻められる方が、解釈として正しいと言いたいわけ――ぶはっ!」
俺は二戸の顔面にサッカーボールを当てた。
「わりぃ。足が滑った」
「ああっ!? せっかくの
まったく、イケメンの無駄遣いもいいとこだ。
「おい」
後ろから、なじみのある声が聞こえた。
振り返ると、那楽が機嫌悪そうな顔で見上げてきていた。
「先生さっきから集合かけてるぞ。お前らのせいで授業が終わらないじゃないか」
「あ、すまん。いま行く」
今の話、聞かれてたかな。
まぁ聞かれててもいいか。間違ったことは言ってないと思うし。二戸の発言は色々と問題あるがな。
---
ふと、隣の席を見ると、
「……」
那楽がむすっとしていた。もしかして、
「那楽、さっきの二戸との会話、聞いてたのか?」
自分の話を自分がいない場所でされるのは煩わしいものだ。俺と二戸が那楽の噂話をしていたから、それで機嫌を悪くしているんじゃないかと思って聞いてみた。
「ああ。最後の方だけ」
「そっか。悪かったな。別にお前のことを悪く言ってたわけじゃない。お前が恋愛に興味ないって話をしてただけでな」
那楽はまたむすっとする。
「えーっと、アレ? 別に俺、間違ったこと言ってないよな?」
「お前はどうなんだ?」
「へ?」
「恋愛、興味あるのか?」
ふむ、逆に質問されるとはな。
嘘ついても仕方ないし、正直に答えよう。
「あるよ。健全な男子高校生だからな。女性に興味がないと言えばウソになる」
「そういえば、前に
牟頼先生は保健の先生である。めちゃくちゃ美人でめちゃくちゃエロい先生だ。あれこそ、男子高校生の天敵だろう。
「仕方ないだろ。あんな魅力的なボディーの持ち主に誘惑されたら普通の男だったら断れない」
「……変態」
「なんだお前、もしかして嫉妬してるのか?」
と冗談のつもりで聞いてみると、那楽はブチ切れた顔で、
「してるわけないだろ」
「はい。すみません。調子乗りました」
余計に機嫌を損ねてしまった。反省。
「別に、興味なくはない」
那楽はボソッとそう言った。
「なににだ?」
「……恋愛」
「お前が恋愛なんてめんどくさいの塊に、興味あるだと……!?」
「お前な、私だって乙女だぞ」
那楽は前髪を引っ張り、目元を隠す。
「恋愛なんてめんどくさいけど……でも、してやらんことも……ない。めんどくさいけどな」
「なんで上から目線?」
しかし意外だ。あの那楽が恋愛に興味あったとは。
「……つまりだ、私にだって恋愛感情ぐらいはある……ってことだ」
「そっか。それはすまない。勘違いしていた。デマ話を流しちゃったな」
「バツとして、今度私にアイマスク作ってくれ」
「アイマスク!? お前、簡単に言うけどな、修理するのとゼロから作るのじゃ難易度が――」
「ちゃんとこの世で唯一のデザイン性にしてくれよ。あと目元を温める効果もつけてくれ」
「素人の俺に、温暖効果を搭載しろと!?」
那楽は腕枕に頬を押し付けながらこっちを見て、
「くれなかったら、ダル絡みするから覚悟しろ」
不覚にも、いまの彼女の笑顔はどこか色気があって……ドキッとした。
俺の隣人、
――が、めんどくさがり屋のコイツの面倒を見るのは、不思議と嫌いじゃない。
――――――――――
【あとがき】
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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!
怠デレ彼女は今日も「めんどくさい」 空松蓮司 @karakarakara
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