【二】さらば現代社会、ようこそ異世界ファンタジー

 トラック業界が稼げる業種と呼ばれていたのは今は昔で、ボクが入社した時には既に低賃金・長時間労働の四天王の一角だった。あれで最弱だったら世の中救いがないね。なぜそんな業界に飛び込んだのかって? そこしか正社員で働けるところがなかったからだ、残念ながら。


 朝は日が出るより前に自宅のアパートを出て、夜は月が真上を指す頃に帰宅する。そして休日出勤。給料も少なくて貯蓄も侭ならないから、退職して次の職を探すことも出来ない。見事にハマった状態だった。


 それでも、結構ボクは幸せだった。なんと、結婚していたのだ。すごいだろう。ボクもスゴいと思う。婚活サイトに登録してもまず書類審査で落とされるのにね。まあ妻となった女性とは幼馴染みで、その流れで結婚出来たんだけどね。


 彼女もブラック業界四天王の一角に勤めていたから、同じアパートの一室に暮らしているのに顔を合わす機会が少なかったりしたんだけどさ。それでもたまには一緒に朝食を食べたり、珍しく半日ほど休暇が重なったりした時は映画を見に行ったりして、それなりに楽しかったんだよ。


 ——あの時までは。


 その日も帰宅は深夜になってからだった。もう寝ているかなーと思ったら電気はついていて、小さなテーブルの上にはコーヒーカップが二つ置いてあった。一つはまだ湯気が立っている。彼女はいない。たぶん近所のコンビニにでも行ったのだろうと思った。とりあえずコーヒーを一杯飲んでからシャワーを浴び、テレビを何となく見ていたら寝落ちしてしまった。


 目が覚めたのは早朝だった。呼鈴がけたたましく鳴っていた。鳴らしていたのは刑事さんだった。警察手帳見せてきたけど、本物見たことないと見分けつかないよね。


 「奥さんが亡くなりました」


 ナクナリマシタ? 何ソレ。キイタコトナイタンゴデスネ。彼女はアパートとコンビニの間の路上で、強盗に襲われたと聞かされた。次に憶えているのは病院の安置室で、変わり果てた姿の彼女を見せられて「本人で間違いありませんか?」と聞かれた。違うといったら、無かったことになるんだろうか。変わり果ててるのに彼女だと分かった。なんでだろうね。不思議だね。


 もうこの時にはボクは壊れていたんだと思う。次の記憶は裁判所だった。犯人はひょろながで青い顔をした若い男だった。その様相はまるで自分を見ているみたいだった。何を聞かれて、何を話していたのかは憶えていない。ただ一言だけ、憶えている。


 「被告人には、懲役五年を言い渡す」


 その瞬間、ボクは隠し持っていた拳銃で犯人を撃ち殺した。銃声は続いて響いて、今度はボクを撃ち抜く。そうしてボクの人生は終了した。





  —— ※ —— ※ ——





 終了しなかった。


 気がつけば、ドデカい業務用デスクに座った女史の前で、背もたれのない椅子に座っていた。女史は眼鏡の下で金色の瞳を忙しなく動かしている。デスクの上には大量の書類が積まれていて、素早い手つきで紙が右から左へと流れていく。


 細かい説明は不要だった。ボクの脳裏には必要最低限の情報がインプットされている。ここは、つまりあの世。転生管理局転生課。人に寄っては閻魔様の前に見える場所だ。なぜそれが女史なんだって? それはつまりボクのイメージに沿った形で彼らは具現化するからだ。良い趣味しているじゃないか、ボク。


 ボクはどう見ても市役所の一角にしか見えないそこで、ぼんやりと周囲を見回していた。なんか実感湧かないけど、つまりボクは転生者に選ばれたらしい。


 「一つ質問いいですか?」

「なんでしょう?」


 女史は書類に目を落としたまま、声を響かせた。竪琴の様な美しい御声。素晴らしい。お嬢さん、どうだいこの後お茶でも? と言ったらスルーされた。しょんぼり。


 「なんで転生者に選ばれたんですか?」

「確率です」


 ……は? 確率? つまり運ってこと? そこはその、ほら、よく漫画だと「神様が間違えて殺してしまったから」とか「不幸だったから」とか言う場面では無いのかな。


 「不幸とかいう主観的理由ですと、大抵の方は自身を不幸だと思われてますので多すぎます」

「ズバッと切りますね」

「なので確率で選抜させていただいております。具体的には年一回、選抜委員会による予備選考ののち、十億面ダイスを一回振ることによって一名選出されます。おめでとうございます」


 ちんちろりんかよ。


 「今回はレベル五、比較的大きな攪拌要因としての転生となりますので、前世の記憶と特殊能力を一つ保持した状態で転生していただきます」


 きたッ、特殊能力! 手元にドデカい図鑑が落ちてくる。パラパラ捲ると何やら能力の説明が載っている。どうやらこれで選ぶらしい。どれにしようかな?


 ——小一時間ほどして、ボクは一つの能力を選択した。女史がゆっくりと頷く。やはり自分に身近な能力の方が分かりやすくていいよね。これで転生無双しちゃるけんなー。


 「これで手続きは終了ですが、何かご質問はありますか?」

「この転生ってやつさ、何か目的があるわけ?」

「と、申しますと?」

「ボクとしちゃ人生やり直しできるから嬉しいんだけどさ、あなた方に何かメリットというか意図することがあるのかなって」


 女史は少し考えてから答えた。


 「そうですね。我々としては世界がより永く続くことを願っております。その為の調整であり、転生だと思っていただければ」

「世界がより良くなる為とか、進化する為とかではなく?」

「もちろんそうです。ただその言い方ですと主観的要素が強すぎます。より永く続くこと、それが『客観的にみて幸せな状態にある』に通じると考えております」


 ほーん。神様の尺度はドデカいんでよくわからんね。


 女史はゆっくりと席から立ち上がり、手を天に示した。するとボクの周りが光に包まれる。


 「それでは、佳き旅を——」


 あー、名前聞き忘れちゃったな。そう思いながら、ボクの意識は遠のいていった。





  —— ※ —— ※ ——





 そうしてボクは転生した。元いた世界とは別の世界だろう。でも結構似ている。ただ時代はずっと戻って、まあ中世から近世の間ぐらいってとこだ。個人的には未来に転生したかったな。その点は残念。


 この世界に生まれたボクは(中略)して、成人した辺りで今は故郷を離れている。ちなみに十六歳で成人だ。成人年齢が早いのよね。


 普段は商人紛いのことをしている。商人とは物を売る商売に携わる人間のこと。商売のことをもっと正確にいえば、商品を時間的・空間的に動かして、その時に発生する価値の差益を得る行為のことだ。何? よく分からない。よろしい。では一つ、実演してみせよう。


 乾いた平原が地平線まで続いている。ボクは街の中心にある高い楼閣の上に登って、その涼やかな風を受けるのが好きだ。じめじめした環境は性に合わない。


 ここは商業都市カンクリ。木造で平屋の建物が薄く広がっている。東の平原と北の高原、そして西の砂漠を結ぶ交易路上に位置していて、主に穀物の交易が盛んだ。東からは米、西からはナジ麦がやってくる。


 米はボクが元いた世界のものとさして変わらない。長粒も短粒もあるが、ここで主流なのは短粒だ。ナジ麦は乾いた土地でもよく育つ麦の一種で、形状は平べったく味は蕎麦に近い。ただ麺状にするには結構大変で、つなぎをいろいろ試してはいるが中々上手くこねることが出来ない。今も試行錯誤を続けている。出来れば麺にして食べたいよね。立ち食い蕎麦屋。この世界でも流行ると思うんだけどなあ。


 脱線した。そんな訳で、ここカンクリでは多くの商人たちが荷馬車を引き連れて往来する。ボクの仕事は、まずここで一日中ぼんやりと眺めることから始まる。荷馬車が行き交うのをみると、どうしても昔を思い出すね。荷馬車がトラックだと思えば、今も昔もさして変わりない。


 ボクが元いた世界は、もっと文明が発達した世界だった。鋼鉄文明とでも言うのだろうか。鉄の塊が空を飛び、海を往き、そして地を這う。宇宙と書いてソラまで行っていた(ボクは行ったことは無いが)。なんでも金属で作る世界だった。


 そこでトラック運転手をしていた。いわゆる物流業界ってヤツだな。トラック運転手の朝は早い。日が変わる頃には起床、会社に出社してそのまま中型トラックで運ぶ荷を受け取る倉庫へと向かう。そして倉庫が開くのを待つ。これはまあ、それほど待たない。元々時間が決まっているしな。


 問題は荷物を積んで、それを届ける先でのことだ。長距離だと道路の混み具合なんかで到着時間がブレる。だから出来るだけ余裕を持って計画を立てるんだが、あまり余裕がありすぎると相手先へ早く到着してしまう。


 良いことだって? これが全然良くない。基本、倉庫に入庫できる時間や順番ってのは決まっているんだ。だから早く着いたからといって、先に荷が下ろせるわけではない。テトリスやったことあるかな? 形に合わせて順番通りに積まないとダメだろう? あれと一緒だ。


 だから大抵の場合は、相手先の倉庫前で待つ。最長半日ぐらい待ったことあったかな。暇だぞ。当然トラックからは基本離れられないし。スマホが一般的になってからは随分と暇つぶしのバリエーションも増えたけどね。


 そんな訳で、ボクは暇つぶしのプロでもある。風の音をラジオ代わりに、眼下の騒がしい交易路の往来を眺めるだけで三日は過ごせる。結構ね、人の行動って規則性があるのよね。丁度いまお昼頃だが、この時間になると宿酒場の女主人が裏口から出て行く。そのまま市場へ行くんだが、なぜか遠回りをする。道順が四パターンぐらいあるので、きっと気晴らしなのだろう。市場で買い物をし、そして戻る。夕方の外出は役所へのお出掛け。調べてみたら旦那が役所勤めなのよね。どうも出迎えにいっているらしい。いいねえ、仲睦まじいこと。


 どうよ? そんな感じで眺めていると、一日なんてあっという間に終わる。この世界に転生する時に特殊なスキル貰ったけど、実際トラック運転手時代に会得したこのスキルの方が重宝しているまであるね。


 「おーい、腹減った」


 少し低めの、でも明らかに少女の声がした。ボクは今、楼閣の屋根の上に座っている。ここまでは梯子で登ったが、その少女は壁を直接よじ登って姿を現した。猫だ、ここに猫がおる。


 少女は四つん這いで屋根の上を疾走し、がしっとボクの背に貼り付く。うん、出るものは出ている。小麦色ですらりと伸びた健康的に足が腰に腰に巻き付く。背が低い割りに足は長い。先日新しい靴を買ってやったが、もう爪先が無い。たぶん自分で切ったんだろうな。思わずボクは口元をへの字に曲げる。かなり高かったんだぞ、それ。


 「腹減った腹減った腹減ったー。にくにくにくにく」

「あーあー、分かったから耳元で囁くな!」


 少女の名前はササン。我が商会の一員であり、家族だ。この場合の家族とは血縁関係のものではない。一種の信頼関係の元、家族同然だという意味だ。ササンは末妹的存在で、ちょっと甘やかされている。具体的には食事は誰かに必ずたかる。商会メンバーの懐は給与・独立制であり、ササンは上の兄姉に食事をたかっては、日々蓄財に励んでいる。塵も積もればという言葉通り、結構な金額になっているはずだ。そういうトコロは商人向きだな。


 「ペチェネグの様子はちゃんと見てきただろうな?」

「うん。ハフムードの言った通り、倉庫はかなりパンパンだね」

「よしよし、予定通りだな」


 ボクはササンの顎下を撫でてやる。さすがは猫。眼細めて鳴く。たまに少年と見間違えられるササンではあるが、これでもほんのり香水の香りがするっていうんだから、女というものは分からない。あー、良い香りだ。


 視界の隅、遠く平原へと続いていく交易路上を、隊商が進んでくるのが見える。隊商、つまり荷馬車の群れだ。東の平原の向こうには大国「戒」がある。季節は秋。収穫された米を運んでいる途中だろう。こちらも予想通りだ。


 「それじゃ市場で飯食ってから、ペチェネグ商会へと顔を出しますか」

「わーい、にくにくにく」


 しこたまササンに昼飯をたかられた後、ボクは街の北東側にあるペチェネグ商会へと足を向けた。





  —— ※ —— ※ ——





 商業都市カンクリを正方形に見立てた場合、北と東方向に交易路が伸びている。カンクリは東の大国「戒」が建設した国境の街でもある。商人たちは戒の役人たちの検閲を受け、通常は税を支払う。検閲は時間がかかる場合もあり、大きな商人であればカンクリに倉庫や蔵を建てて、そこに荷物を一時的に保管する。検閲が終わるまで、ずっと荷馬車に積んでおくのは不経済だからね。だから大抵の倉庫や蔵は、交易路に近い街の北東側に造るのがベターである。


 ペチェネグ商会といえば、この辺りでは名の知られた大商会である。東は戒、西はエフタルまで、国境を越えた大商いをしている。米も麦も大陸全土で消費されている主要穀物である。生産地から消費地へ。それが商人の商いとなる。


 商売の基本は「商品を動かして利益を出す」である。生産地から消費地へ、農村から都市へ商品を輸送し、都市の商人に卸す。又は市場で直接売る。その際、買い取った金額より高く売ることで、利益を得るのだ。単純だろ?


 農民や職人が物を拵えることによって価値を創造するとしたら、ボクたち商人はそれを適切な消費地に送り届けることで利益を得る。人の身体に例えれば、商人は血流だ。肺や胃袋でどんなに酸素や栄養を取り込んでも、それを全身に運ぶ血の巡りが悪くなれば病気になるし最悪死ぬ。


 今回ボクは「米」を商う品と見定めた。これを、今ある場所よりもっと求められる場所へと運ぶことが出来れば、商人として利益を得られるという訳だ。


 「おお、ハフムードじゃないか。久しぶりじゃな」


 蔵の建ち並ぶ一角にやってくると、早速声を掛けられた。小太りのちょび髭の中年男性。髭の毛が頭髪になれば良いのにといつも笑っているこの人物が、ペチェネグ商会の長であるペチェネグご本人だ。


 蔵の前には荷馬車が次々と到着し、荷役の逞しい男たちが荷を運んでいる。そんな忙しい中話しかけてくれるのも、常日頃の良好な付き合いの賜物である。じゃなきゃ、ボクみたいな小商人と大商会の主とが直接話すこと自体あり得ないことだ。


 「今日はササンも一緒か。ほら、飴チャン上げようか」

「わーい」


 ササンが満面の笑みを浮かべて飴玉の入った袋を受け取る。中から一つ取り出し、口の中で転がして舐め始める。さっきまで鹿肉を同じ様な笑顔で食べていたのを思い出す。もしかして口の中に入るものであれば何でも良いのだろうか。


 しかしその飴玉、この世界だと結構お高いんだぞ。ペチェネグは良い人だがそこは商人にして大組織の長。まさかササンに対する賄賂ではあるまいな? それともロリコン? どちらにしろ、次回は相当品のお土産を持参せねばな。そういうの大事よ?


 「お主が顔を出したということは、何か嗅ぎつけたということかな」


 ササンの笑顔を堪能してから、ペチェネグがニヤリと口元を揺らしてボクを見る。この分だとササンが偵察していたのもお見通しか。


 「ペチェネグさんには敵わないな。今日は米の買い付けに来たんだ」

「ほう、米か。どこぞの部族にでも頼まれたか」

「まあそんなところかな。ちょっと恩を売っておこうと思ってね」

「しかし米の値段は高止まりしているぞ。あまり旨味はないんじゃないのか?」

「でも今年はナジ麦が不作だという噂を聞きました。連中も肉ばっかり食っている訳にはいかないでしょう」


 ペチェネグがうーむと唸る。腹の探り合いと情報の擦り合わせである。ペチェネグが反論しないところを見ると、ナジ麦不作の情報は確からしいな。先日初顔合わせした旅商人からの情報だったが、どうやら有能な旅商人の様だ。今後贔屓にしよう。


 「まあいいじゃろ。で、どの程度欲しいんじゃ?」

「三百石ぐらい欲しいんだけど」

「ほほう、そういうことか」


 あ、しまったかな。これでボクのスポンサーが割れてしまったかも。まあいいや。今ならもうバレても問題ないだろう。


 「それで値段の方だけど、一石金貨三枚でどうです?」

「ふむ? まあわしの方はそれで問題ないが、主は大丈夫なのかな?」

「それはそれ。そこはボクらハフムード商会に手に掛かれば」


 ぐふふっと悪い笑みを浮かべる。それを呆れ顔でペチェネグは見つめ、ゆっくりと手を差し出す。それをボクは親指以外の指に指輪を塡めた右手でがしっと握る。商談成立だ。


 「正直にいえば助かったよ。麦は不作らしいが米は豊作でね。そろそろ蔵が満杯になりそうなんだよ」

「そうだと思いました」
「もう少し、値下げしてもいいんじゃぞ?」

「いえいえ。その代わりといっちゃなんですが、そのうちご相談したいことが出来ると思いますので」

「なるほどな。商売に関わることなら大歓迎じゃぞ」

「もちろん。これでも商人の端くれですから」





  —— ※ —— ※ ——



 


 さて、ここで計算してみよう。


 ペチェネグ商会は大商会だ。米は「戒」の国の租税の一つであり、政府はそれを換金する為に中央市場で売る。ペチェネグ商会はそれを一石(約百八十キロ、米を主食とする大人一人の年間消費量である)で金貨一枚で買い付ける。そしてこれを店頭では金貨三枚で販売する。すごい、ぼったくり商会と思えるだろう?


 でも違うんだな。米は遠い東国「戒」にて生産されているから、それをここカンクリまで運搬するコストが掛かる。大体一週間ぐらいの行程だな。貴方なら幾らで引き受ける? 金貨一枚?(ちなみに金貨一枚は約五十万円相当だ) ちなみに運搬には旅費も掛かるし、百八十キロを一人で抱えられる巨人でもなければ荷馬車が必要だ。仮にトラックを一日チャーターしたとして、安く見積もっても一日一万円はかかるだろうな。それが七日間。おっと復路を計算すると十四日だな。それと税金。関所でどの程度とられるのかな? 段々と手取りが減ってきたが、まあ金貨一枚で引き受けても良いかも知れない。


 そうしてペチェネグ商会のカンクリの蔵に米が収まる。ここまで掛かった費用は金貨二枚。金貨三枚で売れれば利益率三十三パーセントだ。でもまだ費用は掛かる。運んできた米を、売れるまでの間納めておく倉庫、蔵の費用だ。蔵は自前だとしても維持修繕費はかかるし、蔵で働く人員の人件費だってかかる。そして税金。


 更に、店頭で売るのであれば市場に出店する費用が当然掛かるし。そして当然の如くここでも税金。そして最後に保険だ。盗賊に襲われたり、何か不慮の事故で米が喪失すれば、全く資金を回収出来ないことになる。まあこの世界では保険自体なんてものはないから、日々の売上げから少しずつ自前でその分を備えておくという形だが。


 さて、ペチェネグ商会が最終的に手にする利益は幾らぐらいでしょう? こう説明すると、結構良心的で腕の良い商人だってことが分かるかと思う。物を動かすっていうのは、それだけで随分費用がかかるもんなのよ。特に穀物は人々の主食でもある。安全、確実、適切に扱う能力が求められるのさ。だからペチェネグは大商人なのである。





 ……あれ? 店頭で金貨三枚で売る物を、金貨三枚で買ったら利益ゼロだし、実質赤字じゃん? とか気づいた人は商人に向いている。この状態から出せる利益があるんですか? ありますよー。その為のハフムード商会、そしてボクが神様から授かった特殊能力なのである。


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