ホットチョコレート*紅に染む(現パロ)

 これは時代も『れいわ』と改められ、とある国のとある首都での物語である。


 とある大学へ通う美冬は同級生でもあり、護衛でもある秋人と一緒に巷で人気だという噂のショコラティエの前にいた。ちなみに、これは情報通が仕入れたもので信憑性は高い。


「お嬢様、ここみたいです」

「そのお嬢様って言うのやめなさいと何度言ったらわかるのかしら。時代錯誤よ」

「お嬢様はお嬢様ですから」

「お前、相変わらず頑固ね」

お前・・も時代錯誤です」


 美冬が生意気ねと鼻白んでも、秋人はぴくりとも表情筋を動かさなかった。


「期間限定の品がなくなりますよ」

「秋人に構っていて買えなかった、なんて笑い事では済まないわ」


 黙りこくった秋人に美冬は睨みをきかす。


「何よ」

「いえ」

「責任転換ではないわよ」


 秋人はわずかに視線をずらした。

 かれこれ十五年の付き合いになる美冬はその動きだけで図星だと読み取る。


「父さんのチョコレートが買えなかったら、稽古が大変なことになるでしょうね」

「行きましょう」


 鬼と謳われる雇用主のことを想像した秋人の変わり身は速く、ガラスでできた扉をすぐさま開けた。すがめた目がじっとりと見てくるが知らぬふりをする。

 美冬はショーウィンドウに並べられたチョコレートを順々に見て、ナッツフレーバーのチョコレートと期間限定の梅酒のショコラボンボン、ビターチョコレートのタブレット、最後に二十個の詰め合わせを店員に頼んだ。期間限定のホットチョコレートも忘れてはいない。


「酒屋に寄って帰るわよ」


 店を出てからの第一声に秋人は目を瞬かせた。

 ちびりちびりとホットチョコレートを楽しんでいた美冬が顔をしかめる。


「ホットチョコレートにブランデーを入れたら美味しいって聞いたのよ。付き合いなさい」


 どこぞの令嬢は、また思い付きを実行しようとしているようだ。『付き合いなさい』をそのままの意味で受け取った秋人は美冬の横に並んだ。

 ほどよく冷めたホットチョコレートをこくりと飲み込んだ美冬は満足げに笑う。


「飛びっきりおいしいのを作ってやるから、楽しみになさい」


 秋人の足が止まり、先を行く美冬は訝しげに振り返る。


「どうしたっていうの」

「いえ……楽しみになさいの意味をはかりかねて」


 秋人の言葉が難解な問題でもあるように美冬は渋面を作った。

 会話の齟齬が互いにわかっていない状態だ。


「ホットチョコレート、飲みたいでしょう」


 美冬の発言に、秋人はさらに混乱した。少し先の信号が赤から青に変わるまで押し黙って、ようやく口を開く。


「作る気ですか」

「それぐらいできるわよ。恐ろしいなら、シェフに頼みなさい」


 顔の中心にこれでもかと皺を集めた美冬は先に歩き始めた。横断歩道にさしかかった所で秋人が追い付く。


「腕は信用しています」

「せっかく作ってあげようと思ったのに、面倒になってきたわ」


 本気な物言いに、秋人は何も言い返せなかった。能面だ人形だ、氷の心だとで言われる男からもの悲しげな空気が漂う。周りに距離を取られるほどで、明らかに落ち込んでいた。

 横目で見た美冬は至極、面倒そうな顔で信号を渡りきる。


「付き合いなさいと言われたら、素直に付き合えばよかったのよ」

「……はい」

「そういうことね」


 鼻を鳴らした美冬は歩をゆるめなかった。秋人が無言で付き従ったのは言うまでもない。


 そしてその晩、秋人はありがたくブランデー入りのホットチョコレートを胃におさめることができた。



『紅に染む』よりhttps://kakuyomu.jp/works/16816700429354337759

美冬と秋人でした。

現パロ風味、いかがだったでしょうか。

秋人は護衛中は決まったものしか食べないようにしていますので、ホットチョコレートなのです。粋なはからいでしょう??


ちなみに、ナッツフレーバーは父に、梅酒のショコラボンボンは梅辻伯父さんに、詰め合わせは静江おばさんと美味しくいただきます。友チョコとかはしないタイプですが、もらうのはもらうので、秋人を巻き込みます。



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