第25話 狩り?

 恭子をカラッサに送り届けた例の白い鳥がまた恭子前に現れた。以前会った時はいきなり野営地に現れては泣き声も出さなかった。しかし今回はいきなり自分をアピールするかの様に泣き始めた。


「恭子さん、この子と会ったことが?」


「え?ああ、まあ……この白いのに乗ってカラッサにきたんだ」


「ええ!?フギンバードに乗ったんですか!?」


「まあおかげで干し肉は全部こいつが食べたけど……今回ももしかしたら腹減りかぁ?」


 ≪ピィッ!≫


 フギンバードは肯定するように鳴くと、恭子の頭をつついてきた。恭子が頭をつついてくるフギンバードを宥めるように頭を撫でると、鳥は気持ちよさそうに鳴いた。


 ≪ピィ!≫


 しかし突然フギンバードは恭子の腕をくちばしでつつき始めた。


「ちょっ!?…わーった!わーったよ!。マリア!ご飯少しこの子にあげたいんだけど!?」


「えっ!?あっ、はい!準備します!」


 マリアは慌てて鳥にご飯を与える準備を始めた。と言っても人用の食事しかもちろんない。食べられるかわからないがマリアはおにぎりを数個用意した。それを見たフギンバードは名の躊躇もなく食べ始めた。マリアが差し出したおにぎりをピィピィと鳴きながら食べる鳥。


「……おにぎり食べるんですね」


「そうらしい……」


 ≪ピィ!≫


 やがておにぎりを食べ終わると、フギンバードはまた鳴いた。だが、鳴き声の質が先ほどよりも変わっている。フギンバードはマリアに何かを訴えるように鳴き始めた。そしてマリアをつつき始めた。どうやらおかわりを要求しているらしい。マリアがそれに答えてまたおにぎりを出すと、フギンバードはまた食べ始めた。


「お前いつも腹減りか?」


 ≪ピィ!≫


 鳥の同意の声は可愛いのだが、鳴き声の質が変わっていない。やがておにぎりを食べ終わったフギンバードは、とまた鳴くとマリアの頬をつつく。 どうやらもっと食べたいらしい。しかしマリアも人間用のご飯しか持ち合わせがない。


「もう無いよ。……腹いっぱい食べたいなら一緒に来るか?……っていってもわかるはず……」


 ≪ピィ!≫


 鳥は元気よく鳴くと、今度は恭子の頭につつき始めた。どうやら一緒に来るみたいだ。これで恭子、マリア、ミラ、フギンバードという珍妙な面子で狩りに行くことになった。


「恭子さん、この子の名前どうしますか?」


「名前?……食いしん坊でいいんじゃ…ぶはっ!」


 フギンバードは恭子の腹部に蹴りを入れた。どうやらお気に召さなかったらしい。


「あの恭子さんがダメージを負っている!?」


 フギンバードは怒って恭子の頭をくちばしでつついた。ミラが止めようとフギンバードと恭子の間に入ると、フギンバードはミラをつつき始めた。


「じゃあピィちゃんで」


 マリアがいきなり命名した。当の白い鳥は気に入ったようだ。それに満足したのかフギンバードは頭の羽で口を隠すと鳴いた。どうやら照れているようだ。そしてなぜかマリアだけピィちゃんの背中に乗る事が許された。


 3人と一匹は当初の予定通り狩りを再開することになった。


 恭子はミラに言われた事を思い出す。各魔獣ごとに素材なるならないが存在する事。しかし恭子は草原で狩りをしたことがない為何となくは魔獣は分かるが細かい種類までは分からない。その為に今回ミラが同行しているのだが。


 恭子は地面に超微弱な電流を広範囲で流す。その範囲は半径300mほど。これにより生命反応を確認する。する数えられないぐらいの反応が恭子に帰ってきた。


(うわぁ、多すぎ……なんかめんどくせぇ)


「ミラさん、とりあえずどれからでもいいの?」


「はい、討伐したらその魔獣について説明できると思いますので。まあ理想は素材の為に綺麗な状態で討伐したいところですけど最初は難しいと思います」


「じゃあ可能な限り綺麗な状態ってことね」


「ええ」


(じゃあやる事は簡単かなぁ)


 ミラ達は恭子がやろうとしている事を静観している。恭子は右手のひらに魔力を集中する。やがて電撃が帯びた小さい球体が出来上がる。恭子は出来上がった球体を空に向かって思いっきり投げた。


「散雷!」


 恭子の掛け声と同時に右手を握り占めた。すると超極小の電撃が大地に降り注いだ。ぱっと見て何が起きたか恭子以外は分かっていない。しかし周りには魔獣たちの悲鳴とも呼べる泣き声が至る所から聞こえる。その光景を呆然と見つめるミラとマリア。そしてピィちゃんは「ピィ!」と鳴いていた。


「あの……これは……」


「ああ、周囲300m以内の魔獣に死なない程度の電気ショックを放っただけよ」


「で、電気ショック……」


「もちろん食らった魔獣は動けないわよ」


 ミラはとりあえず周囲を探索した。すると確かに魔獣たちは動かないでいた。もちろん死んでもいない、痙攣しているだけだ。


「これで生け捕りできるよ。『新鮮な状態』で」


「し、新鮮って、小さくても魔獣ですよ!」


「うん」


「……」


 恭子はにっこり笑った。恭子の考えは狩りすること自体は問題なかった。しかし数が多すぎた。可能限り狩りをしたところで解体には時間が掛かってしまう為そのうちに素材が傷んでしまう可能性があった。特に斬撃や突撃等の傷から出る血液は白い魔獣の毛並みを血で染めてしまう為価値が下がる。他にも打撃で牙等の骨を破壊してしまえば価値が落ちる。それらを総合するとスタンガン並みの電気ショックで行動不能にし生け捕りにすることによってゆっくり解体ができる。


 問題は『誰が』解体するかだ。今恭子が放った魔術でざっと50匹は行動不能になっている。


「……恭子さん、とりあえずこの魔獣達を一か所に集めませんか?」


「そうだね」


 恭子たちは手分けして動かなくなった魔獣達を一か所に集める作業を始めた。≪ピィ!≫ フギンバードも手伝うように鳴いた。それから1時間ほどかけて、集めた思った以上に多く魔獣たちはおよそ100匹ほど。


「恭子さん、とりあえず集めたはいいですけどこんな数、運搬できませんよ……」


 ミラは地面に腰を下ろしながら言った。マリアも座り込み水を飲んでいる。ピィちゃんも水を飲んで満足そうだ。フギンバードも木にとまって水を飲んでいる。恭子も喉が渇いたのか水を飲むようだ。


「運搬は何とかなるけど、こんな数解体めんどくさいな」


「えぇ……」


 そう言いながら恭子は自分のマジックバックに収納していく。その様子をミラはあんぐりと口を開けてみている。


 本来マジックバッグには生きている物は収納できない。ではなぜ恭子は収納できるか?魔獣や魔物は魔素を基礎エネルギー源としている為魔素が満ちていれば死ぬ事は無い。そして恭子のマジックバッグにはサーベルウルフの魔石が大量に入っている。その為、魔素で満ちている状態なのだ。


 余談として人間を収納した場合魔素酔いを起こし最終的に死ぬ可能性が高い。人は魔素を体内で分解する能力が極端に低い。その為、体内の魔素濃度が極端に高くなり、最悪死に至る。恭子は1分と掛らず100匹の魔獣を収納し終えた。ミラは顎が外れそうなほど口を開いている。マリアは頬を赤く染めながら羨ましそうに見ている。フギンバードは相変わらず鳴き声をあげている。


(このペースでやり続けると解体が追い付かないわ。いずれなんとかしたいわ)


 狩りという名の蹂躙は問題なく終わったが解体という新たな課題が生まれたのだった。

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雷撃の魔女 @makoto1943

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