【24話:開幕】

「フレルタル・ヘレングルート……!」


「ウオオオオォォオォォ………」


数メートル先の熊のような魔物は力なく倒れ、光となって消える。


「おぉ…!さすがですアセルベさん!」


「…やりすぎじゃね?」


「練習でできないことは、本番でもできませんよ」


私は杖をしまい、一息つく。


「……森が燃えてるよ…」


「………」


火の魔法はまずかったかな……


「ちょ、ちょっと!ぼーっとしてる暇はないですって!」


ミオさんが慌てて言った。

気づくと火は瞬く間に広がっている。


「あ、でもここって、王様の管轄下ですよね。それなら多分…」


「――絶対零度・アインハイト」


目の前は瞬時に、純白に包まれた。

ついさっきまで目の前で燃えていた木々、辺りの地面さえも全て真っ白に凍っていた。


「え……えぇ?んえぇ…?」


ミオさんは混乱し、あたふたしている。

もう夜だけど、こんな時間まで仕事してるんだな…


「何者だ」


「…こんばんは、エイスさん」


「………」


別名、戦場の支配者。その力は本物で、多くの人々を救ってきたルーエ騎士団の団長。女騎士だ。

話したことはない。


「何者だ」


「アセルベと申します。明日の大会に向けて、戦闘の練習をしていました」


「………」


その目はまさに氷のように冷たかった。

私は思わず固唾を飲む。


「何者だ」


「……?」


エイスさんの視線は勇者様の方に向いていた。


「…あ、勇者のフィデル様です。それと、こっちはミオさん」


「そうか………」


……反応薄いな…


「えっと……すみません。森を燃やしてしまって」


「…………問題ない」


「……」


怒ってるでしょこれ……怖…


「…こんな時間まで、大変だな。迷惑をかけてすまない、エイスさん」


「……お気遣い、感謝する…」


「……」


エイスさんは背を向けて静かに去っていった。

ミオさんは未だに困惑していた。


「木がパリパリだ……どうなってるんですかこれぇ…」


「…ミオさん、エイスさんを知らないんですか?」


「し、知ってますよ…!知らないわけないじゃないですか!でもこんなすごいなんて……」


まあ確かに、今のは最上位凍結魔法だから驚くのも無理はない。

なによりそれを剣技と融合させ、完璧に支配し、場を圧倒する。

戦場の支配者とも言われる所以ゆえんだ。


「…練習もかなりしたし、そろそろ終わろうか」


「だ、大丈夫ですかね……もう少し息を合わせておいた方が…」


「やりすぎは本番に支障をきたします。それに、一日だけの練習にしてはかなり良くなったと思いますよ」


「…確かにそうですね!じゃあ帰りましょう!」


休憩なしの八時間。それでもミオさんは元気だった。



雲ひとつない晴天。私たちは観客席に座っていた。


「――皆様、お待たせ致しました…第一回、最強パーティ選抜大会の開催ですっ!!」


「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」


周りの観客は立ち上がり、拍手とともに声を上げた。

ちなみに勇者様も、ミオさんも、ロナリー様もダム様も、ペトスさんも立ち上がっていた。耳が痛い……


「どうしたアセルベ。元気ないのか?」


唯一立ち上がってない私に気づいた勇者様が言ってきた。


「………眠い」


「……」


はぁ、と勇者様は軽くため息をついた。


「本日の司会を務めさせていただきます、ソニアでございます!どうぞ、よろしくお願い致します!!」


「うおおおおおぉぉぉおおおおぉぉぉぉ!!」

「可愛いよおおおおおおおおぉぉぉ!!!」


ソニア……王様の娘か…

その美貌と明るい性格で多くの人に人気がある。


「さて、出場する方も楽しみにしていたことでしょう…いつ、どこのグループが対戦するのか。今ここで発表したいと思います!レパルティール!」


手元に対戦表が生成された。私だけではなく、観客全員に対戦表が配布されている。

私たちの初戦の相手は…Fグループ。……誰?何のパーティ?


「もし気になるグループがありましたら、その場所をタッチしてみてください。パーティメンバーが表示されますよ!」


私は指示通りにFグループと書かれている場所に触れた。

するとそのパーティメンバー三人の顔と、その下に名前が宙に浮いて表示される。


〈リハス〉〈スヴァル〉〈スピール〉


………いや誰ですか。めっちゃムキムキだし…


「それでは、今回の大会の概要とルールを説明させていただきます。レパルティール!」


今度はルールブック的なものが配布された。


「最強パーティ選抜大会とは!その名の通り、最強のパーティを決める大会です!優勝者には、なんと!!……え?何?これ、え?」


ソニアさんは台本らしきものを近くの兵士に見せ、本当に合っているのかと何度も確認を取っている。


「失礼致しました。優勝者には、なんとソニアが!!……ねぇホントに合ってるこれ?」


「……」


会場がどよめく。


「……はい、それと上位二グループには王様から、そのパーティに相応しいものを用意するとのことです!」


切り替えすごいな……

あ、そういえばスカム様の対戦相手は誰だろ。

そう思って私はCグループの文字に触れた。


〈ソニア〉〈×××〉〈×××〉


「…え?」


一人?というか、司会が試合に出るとは?


「続いてルールを説明を行います!一パーティ三名までで、勝利のためなら何をしても構いません!しかし、観客への被害、フィールドの破壊等迷惑になるような行為が発見された場合は即敗退となりますのでご注意ください!」


あの女の子一人だけで戦えるのかな…

それとも数合わせのために出場させられたのか。


「どちらかが降参するか、パーティ全員が戦闘不能になった時点で勝敗が決まります!またフィールド効果により、絶対に死亡することはありませんのでご安心ください!」


すご?!そんな魔法あるんだ…さすが王族…

代わりに気絶するとかにはなりそうだけど。


「それでは早速、試合の方に移りたいと思います。初戦はAグループ対Cグループです!メンバーは各自でご覧下さい!準備ができましたら、再度お知らせ致します!」


そう言うとソニアさんは駆け足で、奥の方に消えていった。

まあ、さすがにスカム様が勝つかなー…

だって、あの司会の子が一人だけでしょ?


「楽しみだねダムっち!」


「お、おう。そうだな」


ロナリー様は足をパタパタさせている。ダム様は照れている。


「……」


好きならもうちょっと話せばいいのに……


「あ、フィデっちはいつ出るのー?」


「俺たちは…六番目だな。相手は謎の筋肉集団っぽい」


「だったら余裕そうだね!頑張って!」


…まあ、初戦の相手は勝てそうではある。

ついさっき気づいたが、名前の隣に職業のマークがついている。

相手は全員武闘家だ。バランスが悪いし、勇者様が盾になって私が遠距離から攻撃すれば完封できるだろう。

それがパーティというもの。だからソニアさんみたいな魔法使い一人っていうのも、バランスのとれたスカム様のパーティ相手に勝てるはずがない。


「…さあお待たせ致しました。これより、Aグループ対Cグループの試合を始めたいと思いますよ!」


手前側から、スカム様率いるパーティがフィールドに出てきた。

パーティメンバーの名前は聞いていないが、勇者のスカム様と、僧侶、盗賊の三人パーティだ。

対してソニアさんは一人で、奥側の穴から歩いてくる。

その足取りは王族らしい気高さと揺るぎない自信を感じさせる。

一歩一歩が王族としての威厳と気品を漂わせており、まるで別人かのように思えた。


「………」


会場は静まり返り、全員がその様子を見守っていた。

さっきまでの明るい声とは異なり、ソニアさんは低く落ち着いた声で一言を放つ。それを合図に、第一戦の幕が切って落とされた。


「試合開始」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イデアール・ワールド LALS @LALS

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ