第三章
【23話:グループH】
◇◇◇
「はい、これで登録完了です!大会当日になりましたら、またこの闘技場へお越しください!」
「あぁ、ありがとう。よしじゃあ帰ろうかアセルベ、ミオも」
「は、はい……」
あれから私は何事もなく解放され、なぜか勇者様とミオさんと私の三人で大会に出ることになった。
「あの、本当に大会に出るんですか?せっかく魔王城の位置まで分かったのに、こんなことをしている暇なんて…」
「アセルベ、自分で気付いてないのか?お前は未だに魅了状態だ。しかも解除不可。だからこの大会で優勝して、あの勇者に解除してもらわないといけない。…あと、今のまま魔王城に行っても勝てない」
「……」
この大会の優勝賞品は、冒険にとても役立つ
唯一気がかりなのは、一パーティにつき三人までという制約があること。最強パーティを決めるだけの大会なら、人数制限は要らないと思うけど…
ま、主催はあの王様らしいし、何か変なこだわりがあるのだろう。
でも、ロナリー様とダム様、あとペトスさんとも一緒に出たかったな…
「よおフィデル、エントリーは済んだか?」
突然後ろから声がした。
「ス、スカム様…」
「お前か…ちゃんと済ませたよ。どうやら俺らは、Hグループらしい」
「俺のとこはAグループだから、お互い決勝まで戦うことはなさそうだな。途中で負けたら殺すぞ」
「それはこっちのセリフだ」
スカム様はそれ以外何も話すことなく、その場を去ってしまった。
「…なんで私なんかが」
ミオさんが呟く。
たしかに、ミオさんは戦闘になれていない。私と勇者様だけでなんとかなりそうではあるが…
「ま、練習だな。確か、大会は二日後だろ?明日でなんとかするしかない」
「でも私、お花屋さんが…」
「…となると、夜か、試合の直前だけですかね」
エントリー締切ギリギリだったから仕方ないが…
ミオさんはかなり忙しくなりそうで、心配だ。
「とりあえず、私は今からお店に戻ります。後片付けをしないといけないので」
「あ、じゃあ俺らも手伝うよ。そこでどうするか、簡単に話し合おう」
「そうですね。迷惑かけたのは私ですし…」
「まあ、お二人が良いのであれば…」
「――それはそこに置いといてください!あぁ、それは捨てないで!」
夜の九時。ミオさんのお店の中は未だに騒がしかった。
ちなみに私はスカム様からもらったペンダントを眺めて、一人外でサボっていた。
…いや、これでも私が任された仕事は終わらせている。どちらかと言うと休憩中だ。
「スカム様……私は………」
私は純粋無垢な光を放つダイヤモンドに目を奪われる。
このまま吸い込まれてしまうような不思議な感覚に襲われ、ただひたすらにペンダントに施されたダイヤモンドだけを見つめる。
「綺麗だな…………」
「はぁ…はぁ……ちょっと…はぁ……アセルベさん!な、何…やって……るんですか!」
息切れしたミオさんが外に出てきて私に言った。
「………休憩中です」
「そ、そんな当たり前みたいな顔して…はぁ……言わないでくださいよ!あともうちょっとですから、手伝ってください!」
「仕方ないですね…」
私はペンダントを胸ポケットにしまい、店の中に戻った。
そんなに片付けるものは多いのか、と内心思っていたが、どうやら明日はお花屋を一日休みにするらしい。
「あとは掃除をするだけです!ピカピカにしちゃいましょう!」
そう言ってミオさんは雑巾を渡してきた。
「……床全部拭くのか…?」
勇者様の声はか細かった。完全に疲れ果てている。
一方でミオさんは、うるさいと思うほど元気な声で言った。
「窓もです!!」
「…………」
勇者様は無言のまま、まるで操り人形のように動き、掃除を始めた。
整理整頓をする魔法はあるが、ピカピカにする魔法は覚えていない。メイドとか、家事とかをよくする人ぐらいしか覚えていないだろう。
私は惨めに、雑巾を使って床を拭く。
そうしてあっという間に一時間が経った。
「ようやく終わった……」
勇者様は呟いた。店の中は輝いている。
「ふぃー…お疲れ様でした!おかげでかなり早く終わりました!」
これで早いならいつもどれだけ時間かかっているんだ…
とりあえず、私たちはレジの先にある畳の部屋で話し合うことになった。
「…せっかくミオも休みにしてくれたし、明日は一日練習だな。役割としては俺が前線で、アセルベが遠距離攻撃中心の後方支援。ミオは完全サポートってところか」
「そうですね。まずはミオさんができることが何かを把握する必要はありますが…」
「私はお花の生成が基本で、その花にデバフを付与したりできますよ。この魔法だけはずっと使ってきたので、結構なんでもできます!」
生成した花にデバフ付与……
ということは、あの時生成したツタは拘束だけだったけど、やろうと思えばあのツタで拘束しつつ、弱体化させたりもできるってこと…?
「あとは……まあ、別にお花を生成しなくても単純に身体能力を強化させたり、回復もそれなりにはできますね」
「思ったより戦闘能力あるんだな…」
「攻撃手段がほとんどないので、逃げることしかできないですけどね。普段はお花に対してバフをすることが多いです」
なかなかにサポーターとしては強い。
そこまで心配する必要はなかったかもしれないな…
「それなら明日、動きを合わせるだけで済みそうです。多分ですけど、私たちより強いパーティなんて、そこまで多くはないですよ」
「油断は禁物だ、アセルベ。ミオも戦闘経験が多いわけではないだろ」
「それもそうですね…」
「あの、対戦相手とかはまだ誰かわからないんでしょうか?誰がどこのグループでみたいな…」
そういえば、私たちはHグループでスカム様はAグループなのは直接聞いたけど、他の誰が出場してどこのグループなんかは聞いていない。
「あぁ、それは当日の朝に一斉に発表だ」
「…あれ?それならスカムさんはなぜ私たちと戦うのが決勝って知っているんですか?」
「………確かに」
今回の大会はトーナメント制。スカム様の言っていることが正しいなら、スカム様と私たちのグループは反対の位置にある…
「ま、誰がいつ来ても勝つだけだ。やることは変わらない」
そう言うと勇者様はおもむろに立ち上がった。
「詳しい戦い方は明日言う。今日はしっかり寝て、明日に備えよう。ほらアセルベ、宿に帰るぞ」
「あっ、はい……」
「…本当に今日はありがとうございました。また、頑張りましょう!」
ミオさんは礼儀正しく、私たちにお辞儀をした。
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