記憶

あれから何日経ったのだろう…

あの日以降、他のキツネたちが買われたことはあったが相変わらず私が買われることは無かった。


今日もおもちゃのぬいぐるみコーナーでいつも通り過ごしていた。


キツネ3『正直、今日まで君と一緒にいたくは無かったよ』

ガイ『毎日言うな、それ』

キツネ3『だって早くに買われて今頃かわいい子と遊ぶ計画だったんだもん』

ガイ『私は人間よりもお前と過ごせて嬉しいけどな』

キツネ3『嬉しいけど、あんま嬉しくないかも』

ガイ『どっちだよ』


—————————————


しばらくして私たちを管理してくれている人間が前に立った。


ガイ『ブツブツうるさいな』

キツネ3『あーそろそろなのかも』

ガイ『どういうことだ?』

キツネ3『私たちが値下げ?されるんだよ』

ガイ『私たちにはこのくらいの価値しかありませんと表示されることか?』

キツネ3『そういうこと、今の私にはこれ以上ない屈辱だよ』


私たちキツネの人形のコーナーには大幅に値下げされた価格を表示する看板が置かれた。


キツネ3『あー恥ずかしい』

ガイ『もう見られたくないな』

キツネ3『もういいや、前通る人間たちの偏見言う遊びしよう』

ガイ『それ何が楽しいんだ?』

キツネ3『一部の人間は同じ人間同士で偏見言って笑ってるんだよ』

ガイ『だからそれ何が楽しいんだ』

キツネ3『わかんないよ』


—————————————


しばらく経ってから小学1年生くらいの女の子が私たちキツネの人形コーナーの前に立った。

女の子はまじまじと私たちを見つめている。


キツネ3『かわいい!そろそろこの子に買われたいな~』

ガイ『私もそろそろ買われてこの屈辱的な空間から抜け出したいな』

キツネ3『君は人間嫌いそうだから買われても意味ないよ』

ガイ『急に突き放すなよ』


女の子は後ろにいた父親と母親に話しかける。


「このキツネさんほしい!」


父親と母親は答える。


「パパが良いならいいよ」

「値引きしてるし気に入ったならいいぞ!」


「やったー!」


キツネ3『どっちが選ばれるかな~』

ガイ『もちろん私だ…ろ…』

キツネ3『え?どうしたの?』


私は人間では無いのに息が詰まるようだった。


よく見ればその家族に見覚えがあったからだ。


私は急にこの場から逃げ出したくなった。

でも私には人間のような足がない。逃げられない。

どうにか買われないことを願った。


「じゃあこのキツネさんがいい!」


女の子から選ばれたのは幸い、私ではなかった。


キツネ3『やったぁ!選ばれた!君には申し訳ないけどお先~!』

ガイ『良かったな』


私は心底ホッとした。

そしてさっきまで話していたキツネの人形が、女の子に耳の部分を掴まれているのを私は遠くから見つめ、そのキツネの人形が幸せに終わるのを願った。


——————————


電気が消えた。

ぬいぐるみコーナーの中で取り残された私はさっきのことを思い返した。


きっと私はあの家族に会ったことがある。

曖昧な記憶だが前世、前々世を思い出してみる。


前世はそうだ、マルクがいた。私の前世はペットボトルだった。

最期は顔を剝がされ身体をぐしゃぐしゃにされ捨てられ砕かれた。


前々世は雨が激しかった。そうだ、私の前々世はてるてる坊主だった。

最期は握り潰されて捨てられ焼かれた。


私が思い出せるのはここまでだ。

どちらもあの家族の元に私はいた。

私があの家族に買われたくなかったのは嫌な記憶があったからだけではない。

あの家族の元に行くと長生き出来ない。

そう思っているからだ。


これは私の思い込みかもしれない。

実際は違うかもしれない。

だがトラウマのようなもので本能的にあの家族の元には行きたくなかった。


ひとまず安心した私は暗闇の中、静かに目を閉じた。


—————————


明かりがついて見渡すと取り残された人形たちにの文字が書かれたシールが貼られていた。


そして私にもそのシールが貼られた。

袋に詰められとても窮屈な思いをした。

ようやく取り出され楽になったと思ったのも束の間


私は最期、静かに焼かれた。


————————


焼かれながら私はいったいどうすれば幸せに最期を迎えられるのだと深く絶望した。

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無邪気 芯鯖 @shinsaba

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