第十五話中編「逮捕は史上の一品!」

「あーーっ!いたたたたっ!!」

「ほうら堪忍して、さっさと帰り」


彼女は地面へと伏せられ、片腕を後ろへと回され、

片手で掴まれていた。一見して、逃げられそうだ、

だがジタバタとしている彼女は、全くもって抜け出せていない。


「くそっ!今日こそ行けると……!」

「あんさん、わかりやすいんよ、もうちっと考えて動き」


つまらないと言った顔をして、輪廻さんは彼女の手を離す。

彼女をそのままにして、輪廻さんはこの場所から立ち去る。


「くっそぉ……覚えてろよ〜!!」


ポカンとその光景を見つめる。

嵐の様に過ぎ去っていった光景を眺めていると、

後ろにいた猪狩が、ポンと肩に手を置く。


「ま、気にすんな、アイツはそいういう仲なんだよ」

「は……はぁ」


猪狩はそれだけ言って、掃き掃除へと戻っていく。

どう言う仲なんだろうか?

地面から立ち上がり、埃を払っている彼女を見る。

警官と組長、一見して水と油だが……。


「くっそぉ……ね、ちょっと!」

(うわきた……)


立ち上がってすぐに、こちらに気がつき、トテトテとやってくる。

彼女は私のことを再度、じっと見つめて口を開く。


「なんか、ヤクザぽくないね、どうしてここに?」


不思議そうに私をまじまじと眺めている。

確かにまぁ……その通りなのだが。


「どうしてと言われたら……半ば無理矢理というか、何というか」

「何っ!無理矢理だって!?」

「桃華馬鹿!絡むなって!!」


掃き掃除をしていた猪狩は、私の腕を引っ張って引き剥がそうとする。

だが彼女はもう一方の腕を掴むと、離さまいと引っ張ってくる。


「保護せねばならない!離せ!」

「うるせぇ!逃したら俺が大目玉喰らう!」


やいのやいのと、綱引きの縄のように引っ張られ腕が痛む、

なすがままにされていると、彼女は私に声をかけてきた。


「兎沙美と言ったな!お前どうなんだ!?」

「痛いですしどうって何のことですか!!」

「逃げたいんだろう!?違うのか!?」


逃げたいのかと言われ、ふと目の前の扉に目がいく、

確かに鍵などかかっていない、この場所から逃れる。


だが……



今の私には、毛頭逃げる気など無かった。



「……今は別に、そのままで良いです」

「何っ!でも先ほど……」

「出会いはそうでしたが……

ここ居心地良いですし、前の生活よりは全然いいなぁと」


彼女はそれを聞いて、唐突に手を離す。

猪狩が全力で引っ張っていたものだから、

そのまま二人で地面へ叩きつけられる。


「うおあぁああっ!!……馬鹿野郎!離すな!」

「詳しく聞かせて欲しいです、どんな心情の変化があったのか」


猪狩の上に倒れ込む私の手を、彼女が手を取り起こしてくれる。

私は、その言葉にうーんと考えながら、口をひらく。


「何でしょう……彼女、荒咲さんに出会ってからですかね」

「それっ!もっと詳しく!」


ずずいっと顔を近づけ、私のことをじっと見つめる、

どうしてこう聞きたいのだろうか?

そんな事を考えていると、間に猪狩が入ってきた。


「おい!こっちは仕事中なんだよ!」

「こっちもだよ!だから頼む!やつの逮捕に近づけるかもしれない!」


そう言って、彼女は頭を深々と下げる。

おそらく…警官だというのに、

ヤクザの舎弟に頭を下げるのはどうなのだろうか?


「まぁ……やりながらでしたら」

「本当か!感謝する!」

「えぇ?桃華も物好きだな」

「警官さんでしょうし、真面目な人っぽいので」


猪狩はやれやれといった表情を、

彼女はとても嬉しそうな笑みを浮かべ、

私は彼女の疑問に答えていくのだった。

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女組長は女性がお好き? さくしあ @Sakusia

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