第2話 魔眼と相棒

 魔眼の理解を深めるために、色々試してみようと思う。先ほどは勢いでゴブリンを倒してしまったが、スキルが目覚めた興奮で思考が正常ではなかった。軽薄で危険な行動であった。


 まずは、ゴブリンを倒した時にも使った【透視】だ。【透視】を使うと壁や床、天井などあらゆる障壁の向こう側を見ることができる。ダンジョンでの活用方法は様々で、重宝する能力となるだろう。【透視】を使えば、罠がどのように張られているか見えるため、罠にかかる可能性は大きく減少する。それに先ほど倒したゴブリンのように壁を曲がったところから、など不意をつかれることはないだろう。しかし、【透視】が有用である最も大きな理由は、地図を広げられる点であろう。ダンジョンの入り口にいても地図を広げることができる。ダンジョン攻略において、【透視】の右に出る能力はあるのだろうか。


 次に【未来視】だ。今は未来を見る対象がいないため、ゴブリンを倒すときに使った感覚で話すが、【未来視】は対象の未来を見る能力である。未来と言っても数年後とかではなく、5秒後程度の未来である。相手の動きを見れるため、近接戦闘において無類の強さを誇る。


 そして、【鑑定】。対象が魔物や人であった場合、そのスキルなどの詳細を見ることのできる能力である。また、対象がアイテムだった場合、その効果などの詳細も見られる。


 ゴブリンの戦闘でも使った【弱点看破】。これを使うと対象の弱点が赤く鮮明に浮かび上がって見えるようになる。それは急所だったりする。ちなみに壁や床など生命体ではない有機物の弱点も見られる。


 【暗視】は、読んで字の如く暗闇の中でも関係なく、視界が鮮明になる能力である。松明で片手が塞がることなく魔物と戦えるとても助かる能力だ。


 残り2つの能力、【追跡】と【千里眼】は同時に使うと効率的だ。【追跡】は足跡を見ることのできる能力で、【千里眼】は遠方を見る能力だ。つまり、2つを同時に使えばその場で足跡の持ち主を特定できるわけだ。


 【千里眼】と【追跡】のように、能力は同時に複数個使える。だが、3つ以上の同時使用は脳や目の負担が大きく、僕の今の技量では能力の同時使用は2つが限界だ。


 7つの能力を全部試してみた。《天帝の魔眼》の能力をまとめるとこうなった。


   【透視】:壁や天井など障害物を透かして奥にある対象を見ることができる。

  【未来視】:目視している対象の5秒後までの未来を見ることができる。

   【鑑定】:対象の情報を見ることができる。

 【弱点看破】:対象の弱点を見ることができる。

   【暗視】:暗いところでも視界が鮮明になる。

   【追跡】:足跡や、その場で起こった以前の出来事を見ることができる。

  【千里眼】:遠方の出来事を感知できる。


 さて、能力の確認が終わり、常時【透視】と【暗視】を使いながらダンジョンを進む。目的は魔物を倒して彼らから取れる魔石や素材をゲットすることだ。これらを換金することで、僕は生活を安定させる。そして、塔を登って過去の柵とおさらばしてやる。


 それにしても、【透視】はすごい。調整すれば壁の奥の奥までずっと先も見える。だけど、先を見ている間は目の前が見えないため、危険に晒された状態だ。壁の向こうと目の前と視界を行き来していると、ゴブリンを見つけた。今回は2体だ。


 1体のゴブリンを倒した感覚だと、魔眼がなくても身体能力だけで、2体くらいなら倒せそうなので余程のことがない限り、大丈夫だと思う。


 【未来視】でゴブリンの次の行動を見ながら、【弱点看破】で見つけた弱点を、リーチの長い足で崩しながら、短剣で突く。


 1体目のゴブリンを短剣で倒したそのとき、後ろに控えていたゴブリンが足を動かすと、たまたま罠が作動してしまった。


 足場がなくなり、落とし穴から無数の槍が待ち構えていた。俺は咄嗟に、短剣で倒したゴブリンを頭から落として、真っ直ぐ槍に刺した。そして、上を向いたゴブリンの足の裏に僕の足裏を合わせ着地した。


 「危なかった。」

 ゴブリンには悪いことをしたが、自分の命には変えられない。


 なぜかこの罠は、罠を作動したゴブリンは落とし穴に落ちておらず、僕だけが穴に落っこちた。


 もう一体のゴブリンを確認しようと、床を【透視】する。すると、落とし穴の壁の向こう、ゴブリンの足の下に空洞があった。そして、空洞の部屋の中には何やら武器が見えた。


 「なんだ、あれは」


 【鑑定】でそれを確認し、武器であることがわかった。だが、見たこともない武器であったため、使い方などはいまいち理解できなかったが、絶対に手に入れなければならない、ということだけは理解できた。ダンジョンに存在する隠しアイテムであったからだ。隠しアイテムを手にしたものは、どの冒険者も地位も名誉もほしいままにしている。宝箱から得られる物とは比べられないほど、隠しアイテムは強力であった。


 そんな隠しアイテムが壁越しに目の前にある。手に入れない手はなかった。


 壁を壊さないと隠しアイテムは手に入らないため、【弱点看破】を使い壁を調べる。


 すると、隠しアイテムを手に入れろ、とばかりにその壁は弱点ばかりであり、目の前が赤色の弱点マークで覆い尽くされた。


 僕は死に物狂いで、ゴブリンから足を踏み台にして壁に飛び蹴りを入れた。すると壁は砕け散り、中から隠しアイテムが姿を現した。【鑑定】で詳細を確認する。



 【鑑定】

 超魔弾銃スペルブラスター・ターミナル


 備考

 帰属武器でありながら知性のあるインテリジェンス武器・ウェポンの両方の性質を持つ唯一の武器。

 この世に一つしかない銃と呼ばれる武器。トリガーを引くことで、魔力と引き換えに強力な弾丸を射出できる。



 「銃?初めて見る武器だ。」

 隠しアイテムは武器だった。意外とすんなり見つけてしまったために、隠しアイテムを手に入れた喜びを味わえないままであった。しかし、帰属武器や知性のあるインテリジェンス武器・ウェポンと聞きなれない響きに、普通ではない武器であることはわかった。


 初めて見る武器であったため、手に取って確かめようとした。


 僕が銃を手に取ろうとした瞬間、銃が突然光りの玉となって僕の手の甲におさまった。

 手の甲には、【弱点看破】の時に見るような、弱点マークが記され緑色に輝いていた。


 「弱点?」

 「違う。これは帰属武器の主の証であるスティグマだ。」

 確かにこの手の甲から声が聞こえたように思い、驚きの余りアトラスは膠着した。


 「少年?」

 「え、え、えーーーー、武器が、武器が喋ったーー!?」

 「うるさいぞ、俺はお前と一心同体なんだから叫ばなくても聞こえてる。」

 「ああ、ごめん。」

 「そんなことはいい、それよりよく俺を見つけ出せたな。」

 「この眼のおかげだよ。とりあえず、ここから抜け出そう。上にゴブリンが1匹残っているんだ。」

 不思議な武器に気が気でなかったが、ゴブリンが上にいることを思い出し平静を取り戻す。


 「俺を使え。使いたければ名前を呼べ、ターミナルと。」

 「わかった。」

 槍の穂先を避け、柄を掴み腕力で上に戻った。


 「ギャギャッ」

 「来い、ターミナル。」

 気づけば両の手のひらにはターミナルがそれぞれあった。ターミナルは2丁で一対の銃であり、銃口は魔力を射出するため四角い形をしていた。


 「ああ、標準を合わせてトリガーを引け!」


 【弱点看破】と【未来視】で狙いを定めてトリガーを引く。銃口から飛び出した魔力でできた光の弾丸は、ゴブリンの頭を撃ち抜いた。


 本来、初めて銃を手にした人間がこれほど正確な射撃技術を持つ合わせていないが、《天帝の魔眼》と再構成された最高の体、そして知性のあるインテリジェンス武器・ウェポンであるターミナルのサポートが正確無比な射撃を可能にしていた。

 

 ゴブリンは魔石を残して、ダンジョンに吸い込まれた。ダンジョンは魔物を作って、死体になれば吸収するサイクルを回している。


 「ナイスショットだ、なかなか良い眼を持ってやがる。」

 「ありがとう、ターミナル。」

 オーバーキルすぎてターミナルの凄さがいまいち理解できていないアトラスであった。だが、ターミナルと《天帝の魔眼》があれば1層はクリアできるかもしれないと、可能性を感じていた。


 「さて、一心同体になったことでお前のことは大体わかった。これからどうするつもりだ?」

 「とりあえず魔物を倒して、生計を立てようと思う。」 

 「そうか、わかった。」

 僕がどんな状況に立っているのか、詳細は聞かなくたって一心同体となったターミナルはわかっているのだろう。

 ゴブリンの魔石を拾い、新たな獲物を探す。



 ターミナルを手に入れてから、2時間近くダンジョン探索を続けている。その間、ゴブリン12体、ホーンラビット7体、体力が尽きるまで魔物を倒し回った戦果は上々であった。


 結構深くまできてしまった。

 「もうそろそろ、大物に出会える気がするなぁ、アトラス。」

 「いや、もう体力が限界だ。引き返そう。」


 引き返そう、そう思い踵を返した矢先に声が聞こえてきた。

 「助けてくれ!」「助けてー!。」

 背後から大きな足音ともに声が聞こえた。


 振り返ると、そこには若い男女3人組が巨体のオークを連れてこっちに向かってくる。


 「ほら大物が来たぜ。」

 自身の直感が当たって、嬉しそうなターミナルであった。


 ターミナルを使えば安全に仕留められる距離であった。

 しかし、3人組がオークに追いつかれてしまいそうであったため、オークの足を狙いたかったのだが、3人組とオークの足が射線上に重なっていた。オークの足に魔弾を当てるには針の穴に糸を通すような技術と極限の集中力が必要であった。

 

 「やるよ、ターミナル。」

 だが、ここでオークの足を撃ち抜いて進撃を止めなければ、3人組は助からないだろう。

 腹を括ったアトラスは、銃口を三人組がいる方向に向けた。


 「何をする。やめろー!」

 男の声に耳は貸さず、アトラスはトリガーを引いた。

 

 「え、」

 魔弾は女性の耳を掠めた後、オークの足に直撃した。オークはその場で倒れ、3人組はアトラスの近くに寄ってきた。


 「「「あ、ありがとうございます。」」」

 3人が合わせたようにお礼を言うと、男が詰め寄ってきた。

 「何ですか、それは。魔法?」

 「聞くなオーガスト、それはご法だろう。うちの者が失礼した。」

 「まだです。まだ生きています。」

 3人はアトラスの言葉を聞き、はっとしたように振り返ると片方の足が使い物にならなくなり、膝立ちですり寄ってくるオークがいた。


 「僕はここで魔法を放ちます。」

 アトラスは、咄嗟に魔法ならばすぐに理解できるだろうと思った。

 

 「了解。オーガストはあまり近寄りすぎるな。ハンナは魔法で応戦、俺は万が一のために回復魔法の準備をする。金髪の兄ちゃんもハンナと遠距離攻撃を頼む。」

 「「「了解。」」」


 ハンナと呼ばれる女性の魔法と僕の銃撃ですぐに片付いた。


 「魔法と比べてわかったよ、すごい威力だ。魔法のように詠唱も必要なくて、これだけの威力が出せるなんてすごすぎるよ。」

 「そりゃそうだ。やっと理解できたか、アトラスよ。」

 一人と一丁の銃は声に出さず心の中で会話をした。 

 ハンナって人の魔法より何倍もターミナルの威力は高かった。ここでやっとアトラスは自覚することができた、ターミナルを手に入れられた幸運を、そして塔を登れるという自負を。


 「改めてありがとう。俺の名前はスティーブン=パーカー。こっちはオーガスト=アダムズ、そしてハンナ=ヘルムスだ。」

 「「よろしく。」」

 「アトラス、です。よろしくお願いします。」

 ウォーリアーと出かけて、口を噤んだ。

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追放された貴族は、魔眼の力で隠しアイテムを独占し無双する。 @TanukiGaMaskyurar

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