続編 充目線の初デート

 ホワイトデーに、広樹ひろきと付き合い始めてから、もう半月か。思い返すと、ここまで来るのに、時間がかかったなぁ。


......だからこそ、おれは今、凄く悩んでいる。どうやって、次に進めば良いんだ?


 いざ付き合い始めても、手を繋いだこと以外は、案外いつも通りだから......何か、もっとこう、恋人らしいことがしたいよな。


 きっかけがあったら、上手くいくかも......あっ、そういえば広樹が、近所に新しく出来たバッセンに興味があるって言ってた気がする!


 そこに二人で出かければ、でっ、デートってことになるのか?とりあえず、誘いの連絡をしてみよう。


「なぁ広樹、今週の土日のどっちかで、新しいバッセンに二人で行かないか?」


 いざ送ったは良いものの、広樹は、何て返事するんだろう?


「って、早っ!どれどれ......」


「俺も、みつると出かけたいと思ってたから、嬉しいよ。日曜は、部活がオフだから、充が良ければ、一緒にバッセンへ行こう!」


 よっしゃ、応じてくれたな。てか、広樹にしては、返信が早かった気がするぜ。いつもなら、既読してから数時間後に返信するのに。


「まぁ、デートに行けるんだから、細かいことは気にしないようにするぞ。あぁ〜当日が楽しみだな。」


 期待を胸に秘めて、迎えた当日。広樹と家の近くの公園で待ち合わせをして、バッセンに向かったは良いものの......


「春休み期間だし、オープンしたばかりだから、結構混んでるね。長居は難しいかな?」


 やっべ〜。いつもならおれが下調べとかするのに、浮かれていたから、やってなかった!


 いや、誘ったのはおれだし、自分でどうにかしないと。すぐに行けて、ある程度時間が潰せる場所は......


「そうだな。広樹には申し訳ないけど、キリの良いところまで遊んだら、雑貨屋かカフェにでも行こうぜ。ほらっ、〇〇駅方面の!」


「うん、いいと思う......ひとまず、打席を確保しようか。80km位なら、充も打てそう?」


「いや、おれに気を遣わなくていいって!110km位じゃないと、広樹の練習にならないだろ?」


「遊びで来てるんだから、あまり気にしなくていいのに......そうだな、100〜120km位の打席でプレイする代わりに、充が一回でもヒットを打てたら、俺が何でも一つ願いを聞くのはどう?


 それなら、やる気が出ると思ったんだけど......」


 えっ?今、何でもって言ったか?つまり、広樹に、恋人らしいことを求めても良いってことだよな。さすが広樹、おれのモチベの上げ方を分かってるぜ。


「絶対やる!何ゲーム以内とかあんの?」


「制限は付けないつもりだったけど、疲れた状態で移動するのは辛いと思うから......3ゲームでどうかな?」


「分かった、それで行こう。」


         ***


 とは言ったものの、2ゲームが終わった時点で、数回バットに掠っただけ。これじゃあ、目標達成は無理かもな。それに引き換え、広樹の打ってる姿は、様になってる。


 練習試合とかは観戦するけど、普段の練習をじっくりと見たことは無かったから、少し新鮮。今はスマホしか持ってないし、ネット越しだから、写りは悪いけど......写真を撮っておくか。


        "カシャっ"


 うん、手ブレせずに撮れた。でも、やっぱり物足りない。今度遊びに来る時は、おれのデジカメを持ってこよう。


「充〜、次がラストだよ。」


「フェアじゃない提案だってことは分かってるんだけど、全然打てないから、アドバイスが欲しい......ダメか?」


「ううん、ダメじゃない。充は初心者だし、球速も速いからね。


 まずは、速い球でも、打つ瞬間に目を閉じないこと。次に、腕だけじゃなくて、腰の捻りを利用して、飛距離を出す。


 後は、スイングの位置......これは、来る球の高さによっても変わるけど、腰から胸位の高さで打つ。俺個人が充にアドバイス出来るのは、ここまでかな。頑張って!」


 広樹の助言を基に挑む、ラストゲーム。果たして、結果は———



「充、お疲れ様。ヒットが出てたよ、おめでとう。」


「いや〜、偶然ど真ん中にストレートが来たから、今しかない!って思ったら、アドバイス通りに体が動いてた。


 つまり、おれが打てたのは、広樹のお陰だ、ありがとう。」


「そんなことないよ、充の頑張りの結果だから。さて、どんなお願いにする?」


「あぁ、実は———」


「えっ、お揃いのものが欲しい?全然良いよ!むしろ、そのお願いで大丈夫?」


 うっ、若干ひよって、マイルドな方に逃げたのがバレたか?でも、お揃いのものが欲しかったのは、本心なんだ。


「......だって、二人で同じものを持ってるのって、めっちゃ恋人っぽいだろ。」


「たっ、確かに、そうかもしれないね。充は、何が欲しいとかあるの?」


「う〜ん、普段使いできるものが良いから、雑貨屋で探そうかなって思ってる。」


「なるほど。じゃあ、〇〇駅方面に移動しようか。」


 バッセンから雑貨屋まではそんなに遠くなくて、徒歩10分で着いた。


「久々に来たけど、やっぱ色々あるな〜。」


「そうだね〜、こんなにあると、何が良いか迷っちゃうけど、充なら、ちゃんと決められるでしょ?」


「まぁ、広樹よりは決断力があるとは思うが、おれも割と悩む方だぞ。今回みたいな時は特に。」


「思い詰めないで、直感で選んで良いよ。」  


 そんなこと言ったって、中々に難しいぞ。例えば、ピアスだと、恋人らしい感じはするけど、無くしやすいし、広樹がつけっぱなしで部活に行って、事故が起きたら......うっ、考えるだけで寒気がする。 


 じゃあ、フェイスタオルとかのスポーツに関係するものは?って考えたが、毎日は使えないよな〜あと、おれが使う機会がない。

 

 そしたら、少し値が張るかもしれないけど、腕時計とか?流石に運動時は外した方が良いが、日常生活で使いやすいし、悪くないはずだ。


「広樹、腕時計はどう?」


「良いと思う、学校でもつけられるし、実用的で。もちろん、充が真剣に選んでくれたものだからっていうのもあるけど。」


「っつ、お前はまた、そんな......」


 時々、広樹の素直さに触れると、胸が締め付けられるような感覚になる。おれだって、言葉を尽くして、広樹に好きって気持ちを伝えたいのに。


 それが出来ずに、自分の心の内で留めておくことを、辞めたい。言葉での表現が難しいなら、チョコを渡した時みたいに、せめて行動で示したい!


 デートが終わるまでに、何か、出来ることをしよう。


「とりあえず、腕時計にするとして、デザインや色の希望はあるか?」


「俺が好きな色は緑系統で、充が好きな色はブラウン系だよね。それを踏まえると、植物モチーフのものとか、ベルト部分が皮っぽいものは?」


「そんな都合良いものあるわけ———」


 結論から言うと、ベルト部分が茶皮みたいな感じで、時計部分が緑色のものがあった。しかも、3000円以下だったから、高校生のおれ達でも、無理なく買えた。


 個人の好みだけじゃなくて、二人の意見が噛み合って買ったものだから、愛着が湧きそうだ。


「次は、カフェに行く?」


「あぁ、まだ帰るには少し早いし、行こうぜ。」


 っと、カフェに訪れたは良いものの......


ただ今、混雑しておりまして、お客様には、30分ほどお待ち頂いております。よろしければ、テイクアウトをご利用下さいませ。」


「だってさ〜、どうする、充?」


「飲み物だけテイクアウトしようぜ。今の時期なら、外でもいけるだろ。」


「オッケー、じゃあ俺は、カフェオレのホットを一杯下さい。」


「おれは......桜風味のロイヤルミルクティーを一つ!」



ー数分後ー


        "カランっ"


「ありがとうございました。またお越し下さいませ。」


「充が頼んだのって、新作?」


「うん、普段カフェにあまり来ないから、どうせならと思って頼んでみた。」


「どんな味だろう?気になる。」


「う〜ん、言葉で説明するのむずいな。広樹、一口飲んでみたら?」


「じゃあ、お言葉に甘えて......」


 って、無意識に渡したけど、これって間接

キスじゃないか?あぁ〜おれのバカ!一回意識したら、飲み辛くなるのに。


「んっ、ミルクティーは、優しい味だけど、桜風味が足されると、甘酸っぱい感じがする。充、一口くれて、ありがとう。って、どうしたの?」


「いや、何でもない。」


 落ち着け、広樹も気にして無いんだから、平気だ。一回飲めれば、後は......どうにかなる。

 

「充、信号を待つのと歩道橋を渡るの、どっちが良いかな?」


「あぁ〜歩道橋で良いんじゃないか?ここ、待ち時間長いし。」


「うん、俺もそう思ってた。」


      "タンっ、タンっ"


 階段を登り切って、橋の部分に差し掛かると、オレンジ色に輝く、夕日が見えた。その光に照らされた、広樹の横顔が綺麗で、おれは思わず......


「広樹!10秒だけ、目を瞑っててくれないか?」


「うん?良いけど。」


 チャンスは今しかない!でも、広樹に断りなく、勝手にするのは違う気がするし、いざするとなると、心の準備が......


 おれがためらっている内に、10秒が過ぎていたらしく、広樹がクスリと笑った声が聞こえた。


 あぁ〜目を瞑って、顔を近づけていたから、絶対バレたよな。おれ、広樹に呆れられっ


         "チュっ"


「わっ、えっ、えっ?」


 今、ほほにキスされた!?広樹が、おれに、自分の意思で?


「ちょっ、広樹、どういうことだよ!」


「充が、欲しがってるように見えたから。」


「合ってるけど、そんな簡単にされるとは思わなかった。てか、頬じゃなくて......」  


 唇が良かったけど、恥ずかしくて言えるか!


「唇は、お互いに納得した時にしよう。今は、この位が、俺達にはちょうどいいんだよ。」


 確かに、広樹の言うことも一理あるが、おれから出来なかったのが悔しい......うぅっ、次こそは、頑張ろう。



※次話は、11月中に更新予定です。近況ノートに記載しました通り、広樹視点の初デートのため、新規ストーリーとは、若干形式が異なります。ご承知のほど、よろしくお願い致します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

チョコで届ける恋心(略称:チョコ恋) 一ノ瀬 夜月 @itinose-yozuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画