続編 充目線の初デート
ホワイトデーに、
......だからこそ、おれは今、凄く悩んでいる。どうやって、次に進めば良いんだ?
いざ付き合い始めても、手を繋いだこと以外は案外いつも通りだから......何かもっとこう、恋人らしいことがしたいよな。
きっかけがあったら、上手くいくかも......あっ、そういえば広樹が、近所に新しく出来たバッセンに興味があるって言ってた気がする!
そこに二人で出かければ、でっ、デートってことになるのか?とりあえず、誘いの連絡をしてみよう。
「なぁ広樹、今週の土日のどっちかで、新しいバッセンに二人で行かないか?」
いざ送ったは良いものの、広樹は、何て返事するんだろう?
「って、早っ!どれどれ......」
「俺も
よっしゃ、応じてくれたな。てか、広樹にしては、返信が早かった気がするぜ。いつもなら、既読してから数時間後に返信するのに。
「まぁ、デートに行けるんだから、細かいことは気にしないようにするぞ。あぁ〜当日が楽しみだな。」
期待を胸に秘めて、迎えた当日。広樹と家の近くの公園で待ち合わせをして、バッセンに向かったは良いものの......
「春休み期間だし、オープンしたばかりだから、結構混んでるね。長居は難しいかな?」
やっべ〜。いつもならおれが下調べとかするのに、浮かれていたからやってなかった!
いや、誘ったのはおれだし、自分でどうにかしないと。すぐに行けて、ある程度時間が潰せる場所は......
「そうだな。広樹には申し訳ないけど、キリの良いところまで遊んだら、雑貨屋かカフェにでも行こうぜ。ほらっ、〇〇駅方面の!」
「うん、いいと思う......ひとまず、打席を確保しようか。80km位なら、充も打てそう?」
「いや、おれに気を遣わなくていいって!110km位じゃないと、広樹の練習にならないだろ?」
「遊びで来てるんだから、あまり気にしなくていいのに......そうだな、100〜120km位の打席でプレイする代わりに、充が一回でもヒットを打てたら、俺が何でも一つ願いを聞くのはどう?
それなら、やる気が出ると思ったんだけど......」
えっ?今、何でもって言ったか?つまり、広樹に恋人らしいことを求めても良いってことだよな。さすが広樹、おれのモチベの上げ方を分かってるぜ。
「絶対やる!何ゲーム以内とかあんの?」
「制限は付けないつもりだったけど、疲れた状態で移動するのは辛いと思うから......3ゲームでどうかな?」
「分かった、それで行こう。」
***
とは言ったものの、2ゲームが終わった時点で、数回バットに掠っただけ。これじゃあ、目標達成は無理かもな。それに引き換え、広樹の打ってる姿は、様になってる。
練習試合とかは観戦するけど、普段の練習をじっくりと見たことは無かったから、少し新鮮。今はスマホしか持ってないし、ネット越しだから、写りは悪いけど......写真を撮っておくか。
"カシャっ"
うん、手ブレせずに撮れた。でも、やっぱり物足りない。今度遊びに来る時は、おれのデジカメを持ってこよう。
「充〜、次がラストだよ。」
「フェアじゃない提案だってことは分かってるんだけど、全然打てないから、アドバイスが欲しい......ダメか?」
「ううん、ダメじゃない。充は初心者だし、球速も速いからね。
まずは速い球でも、打つ瞬間に目を閉じないこと。次に腕だけじゃなくて、腰の捻りを利用して、飛距離を出す。
後はスイングの位置......これは、来る球の高さによっても変わるけど、腰から胸位の高さで打つ。俺個人が充に
広樹の助言を基に挑む、ラストゲーム。果たして結果は———
「充、お疲れ様。ヒットが出てたよ、おめでとう。」
「いや〜、偶然ど真ん中にストレートが来たから、今しかない!って思ったら、アドバイス通りに体が動いてた。
つまり、おれが打てたのは、広樹のお陰だ、ありがとう。」
「そんなことないよ、充の頑張りの結果だから。さて、どんなお願いにする?」
「あぁ、実は———」
「えっ、お揃いのものが欲しい?全然良いよ!むしろ、そのお願いで大丈夫?」
うっ、若干ひよって、マイルドな方に逃げたのがバレたか?でも、お揃いのものが欲しかったのは、本心なんだ。
「......だって、二人で同じものを持ってるのって、めっちゃ恋人っぽいだろ。」
「たっ、確かに、そうかもしれないね。充は、何が欲しいとかあるの?」
「う〜ん、普段使いできるものが良いから、雑貨屋で探そうかなって思ってる。」
「なるほど。じゃあ、〇〇駅方面に移動しようか。」
バッセンから雑貨屋まではそんなに遠くなくて、徒歩10分で着いた。
「久々に来たけど、やっぱ色々あるな〜。」
「そうだね〜、こんなにあると、何が良いか迷っちゃうけど、充ならちゃんと決められるでしょ?」
「まぁ、広樹よりは決断力があるとは思うが、おれも割と悩む方だぞ。今回みたいな時は特に。」
「思い詰めないで、直感で選んで良いよ。」
そんなこと言ったって、中々に難しいぞ。例えばピアスだと、恋人らしい感じはするけど、無くしやすいし、広樹がつけっぱなしで部活に行って、事故が起きたら......うっ、考えるだけで寒気がする。
じゃあ、フェイスタオルとかのスポーツに関係するものは?って考えたが、毎日は使えないよな〜あと、おれが使う機会がない。
そしたら、少し値が張るかもしれないけど、腕時計とか?流石に運動時は外した方が良いが、日常生活で使いやすいし、悪くないはずだ。
「広樹、腕時計はどう?」
「良いと思う、学校でもつけられるし、実用的で。もちろん、充が真剣に選んでくれたものだからっていうのもあるけど。」
「っつ、お前はまた、そんな......」
時々、広樹の素直さに触れると、胸が締め付けられるような感覚になる。おれだって、言葉を尽くして、広樹に好きって気持ちを伝えたいのに。
それが出来ずに、自分の心の内で留めておくことを辞めたい。言葉での表現が難しいなら、チョコを渡した時みたいに、せめて行動で示したい!
デートが終わるまでに、何か、出来ることをしよう。
「とりあえず、腕時計にするとして、デザインや色の希望はあるか?」
「俺が好きな色は緑系統で、充が好きな色はブラウン系だよね。それを踏まえると、植物モチーフのものとか、ベルト部分が皮っぽいものは?」
「そんな都合良いものあるわけ———」
結論から言うと、ベルト部分が茶皮みたいな感じで、時計部分が緑色のものがあった。しかも、3000円以下だったから、高校生のおれ達でも無理なく買えた。
個人の好みだけじゃなくて、二人の意見が噛み合って買ったものだから、愛着が湧きそうだ。
「次はカフェに行く?」
「あぁ、まだ帰るには少し早いし、行こうぜ。」
っと、カフェに訪れたは良いものの......
「
「だってさ〜、どうする、充?」
「飲み物だけテイクアウトしようぜ。今の時期なら、外でもいけるだろ。」
「オッケー、じゃあ俺は、カフェオレのホットを一杯下さい。」
「おれは......桜風味のロイヤルミルクティーを一つ!」
ー数分後ー
"カランっ"
「ありがとうございました。またお越し下さいませ。」
「充が頼んだのって、新作?」
「うん、普段カフェにあまり来ないから、どうせならと思って頼んでみた。」
「どんな味だろう?気になる。」
「う〜ん、言葉で説明するのむずいな。広樹、一口飲んでみたら?」
「じゃあ、お言葉に甘えて......」
って、無意識に渡したけど、これって間接
キスじゃないか?あぁ〜おれのバカ!一回意識したら、飲み辛くなるのに。
「んっ、ミルクティーは優しい味だけど、桜風味が足されると、甘酸っぱい感じがする。充、一口くれてありがとう。って、どうしたの?」
「いや、何でもない。」
落ち着け、広樹も気にして無いんだから、平気だ。一回飲めれば、後は......どうにかなる。
「充、信号を待つのと歩道橋を渡るの、どっちが良いかな?」
「あぁ〜歩道橋で良いんじゃないか?ここ、待ち時間長いし。」
「うん、俺もそう思ってた。」
"タンっ、タンっ"
階段を登り切って、橋の部分に差し掛かると、オレンジ色に輝く、夕日が見えた。その光に照らされた、広樹の横顔が綺麗で、おれは思わず......
「広樹!10秒だけ、目を瞑っててくれないか?」
「うん?良いけど。」
チャンスは今しかない!でも、広樹に断りなく、勝手にするのは違う気がするし、いざするとなると心の準備が......
おれがためらっている内に、10秒が過ぎていたらしく、広樹がクスリと笑った声が聞こえた。
あぁ〜目を瞑って顔を近づけていたから、絶対バレたよな。おれ、広樹に呆れられっ
"チュっ"
「わっ、えっ、えっ?」
今、
「ちょっ、広樹、どういうことだよ!」
「充が、欲しがってるように見えたから。」
「合ってるけど、そんな簡単にされるとは思わなかった。てか、頬じゃなくて......」
唇が良かったけど、恥ずかしくて言えるか!
「唇は、お互いに納得した時にしよう。今は、この位が、俺達にはちょうどいいんだよ。」
確かに、広樹の言うことも一理あるが、おれから出来なかったのが悔しい......うぅっ、次こそは頑張ろう。
チョコで届ける恋心(略称:チョコ恋) 一ノ瀬 夜月 @itinose-yozuki
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