後編 広樹のホワイトデー

 俺は、みつるが何を言っているのかを理解するのに、時間がかかった。


 

 何せ、親友だと思っていた相手に、しかも同性に告白されるなんて、予想外だったから。


 でも、充はこんな冗談を言うタイプではないし、多分、本気だ。



 それなら、俺もきちんと向き合いたい。充を恋愛対象として見れるかを判断する、時間が欲しい。


 「ごめん、今すぐには決断出来ないから......一か月時間を貰いたい。最低でもホワイトデーまでに決めるからさ。


 待たせることになるけど、それでも良い?」



 「......あぁ、待つのは慣れてるし、平気だ。好きなだけ悩んでくれ。」



 「ありがとう。じゃあ、俺はこれから部活に行くから、また明日会おうな。」



 「おぅ、野球部の練習、頑張れよ!」



        "パタン"


    

         ✴︎✴︎✴︎

     


◇同日、広樹の家にて



        「ふぅ」


 

 気分を切り替えて、部活に行ったはずだったのに、集中出来なかったよ。



 充の告白や、チョコのことが頭にちらついて、何か、凄いムズムズしたんだよな。



 俺が告白の返事をするまで、これがずっと続くのか?



 う〜ん、生活に影響が出る前に、どうにかしたい。



 だけど、って言われたからには、適当ではなくて、はっきりとした意思を充にぶつけたいんだ。



 だから、時間をかけて探そう。俺が心から納得できる答えを。



 「そういえば、充から貰ったチョコの箱、未だ開けてなかったな。


 長く置いておくものでもないし、早速食べてみるか〜。」



 そんな、軽いノリで箱を開けたけれど、中身を見た瞬間、衝撃を受けた。



 「もしかして、市販品じゃないのか?このチョコ......」



 球状のホワイトチョコに、チョコペンで描かれた、少し歪んだ赤い線。


 間違いなく、市販品の方が良い出来だけれども、慣れないながら、頑張っているのが伝わってくる、充らしいチョコだった。


 勿論、野球ボールチョコだけではなく、棒状のビターチョコに、白のチョコペンで持ち手を付け加えた、バットチョコ。


 

 手袋みたいな形のミルクチョコ......おそらく、グローブのつもりで作ったのだろう。



 この三種のチョコは野球関連のものだが、

最後の一つは違った。



 「いちごのハートチョコって、直球すぎだよ......充。」



 俺がバッターだったら、そのど真ん中ストレートを、ニ塁打にするのに!



 「っと、変な妄想しちゃったな。ひとまず、野球ボールチョコから食べてみよう。」



         ✴︎✴︎✴︎


 「美味しくて、全部食べ切るとは思わなかったな。とりあえず、片付けや歯磨きをしてから、今日は寝よう......って、あれっ?」



 チョコが入っていた箱の裏に、封筒がくっついていた。


  

 「これは、充からの手紙かな?」


 

 そう思った俺が、封筒を箱から剥がして確認してみると......



 「手紙じゃなくて、写真?


 てか、何で渾身こんしんの一枚に写っているのが、俺が野球をしている姿なんだろう?」



 封筒には、と書かれていて、中には、俺が口を大きく開けて笑っている写真が入っていた。


 

 「確か、練習試合で俺が決勝点を決めた時......だったかな?」



 今思えば、この試合は練習だった訳だし、大喜びする程のものではなかった気がする。


 何なら、本番の試合で活躍した瞬間も、何度かあったはず。


 でも、長年俺を見てきた充が、写真を撮ることが好きな充が、これを一番に選んでくれたのが、すごく嬉しかった。


 

   「改めて......思い知ったな。」


 

 早く決断するのではなく、じっくりと、真剣に向き合っていこう。


 一か月あれば、完璧に近い答えを出せるはずだから。


          ✴︎✴︎✴︎



◇ホワイトデー前日


   

     「やっばいな......」



 まさか、約一月経過したのに、決めきれないなんて。



 というか、親友と恋人の差って何なんだろう?これまでも、充分深い仲だったのに。



 互いの家に何度も泊まりに行ったし、二人で出かけた回数なんて、数えられない程に、沢山ある。



 ......俺達、下手すれば普通のカップルより、親密だよな?



 「あっ、でも手を繋ぐとか、ハグをしたことはない気がする!」



 まさか、充はそれを求めているのか?



 「つまり、充の告白にOKした場合、手を繋ぐ以上の行為を求められたりして......」



 俺は、充を恋人として受け入れられるのか、自分でも分からないよ。



 「なっ、もう日付変わってるじゃん!」



 机にある電波時計は、3月14日の0時2分を指していた。



 「朝練があるし、早く寝ないとな。」



 明日......ではなく今日、俺は決断しないといけない。充と親友のままでいるのか否かを。



◇ 同日の昼休み



 「なぁ広樹、一時間目から落ち着かない感じだけど、例の件、まだ決めきれてないのか?」



 「......正直、迷ってるよ。YESと答えたとして、その後どんな風に接すれば良いか分からないし、NOと言ったら、俺達の今まで関係が崩れていく気がするんだ。


 だから、選びきれない。」



 俺は怒られるのを覚悟して、一月ひとつき悩みつくした結果を、ありのまま、充に伝えた。



 「NOの場合の心配はしなくて良いぞ。可能な限り、今までの関係を維持するために頑張るからさ。


 ......てか、おれが広樹ひろきに聞きたいのは、広樹本人の意志なんだけど?」



 「はっ?俺は今迷ってて、自分の本心が分からない状態なの!」


 

 「だ・か・ら、そうやって誠実アピールをしたり、おれを傷つけないように言い訳するんじゃなくて、もっと奥底にある、本心で決めてくれ!......おれからの助言アドバイスだ。」



 数年ぶりに、充と口論したと思う。何せ充は、高校に進学してから、集団に馴染なじめていなかった。


 それで悪目立ちしない様、大人しくしてやり過ごしている内に、本人も段々と、そんな風に変わっていった気がした。


 

 だから、充が本気で俺に対して怒りを向けてくるとは思わなかったし、いつ以来のことだろう?


 

 .....というか、充に言われるまで本題から目を逸らしていた俺は、何て馬鹿なんだろう。



 やっと分かった。散々悩んだけど、結局のところ、単純シンプルだ。


 

 充をと捉えられるかどうかってことだな。



 これなら即決出来るし、早速言うか。



      「充、俺はっ」



   "キーン コーン カーン コーン"



 「流石に授業はサボりたくないし、放課後に続きを聞かせてくれ。何なら、部活終わりでも良いぜ。


 期限は、今日の夜中までだからな。」



 本当は今すぐにでも、返事をしてしまいたい。それ位、明確な意思があるから。


 けれど、充を一か月も......いや、もっと長い時間待たせてしまったのだから、丁寧に、心をこめて返事をしたい。


 学校ではなく、もっと、相応しい場所で。



 「今日の19時半に、〇〇公園に来て欲しい。そこで、返事を伝えるからさ!」



 「オッケー、家の近くの〇〇公園に19時半だな。絶対に行くぞ。」


         ✴︎✴︎✴︎


◇同日の夜、〇〇公園にて



 「うわ〜約束の時間まで、あと五分か。さて、おれは、断られちまうのか?


 それとも、受け入れて貰えるのか。早く聞きたい様な、聞きたくない様な.......複雑な気分だぜ。」



 「充!早かったな。俺は部活帰りにダッシュで来たよ。」



 「ひっ、広樹!もしかして、今の独り言、聞いてた?」



 「いや、聞いてないよ。」



 本当は、少し聞こえていたけれど、聞かれたくないことだろうし、そっとしておこう。



 「じゃあ、早速本題に行こうか。」



 「待った。一旦、深呼吸してからにしよう。おれの心臓がもたないから!」



 「いや、正直俺も緊張しているから、助かるよ。」



 「ダウト〜、広樹は経験あるだろ!」



 自分でも、信じられないけれど、本当なんだよな。一応経験はあるのに、こんなにドキドキするなんて、不思議だよ。



 「ツッコむ余裕があるなら、もう大丈夫でしよ?」



 「確かに、緊張がやわらいだかも。ありがとな〜。」



 「おっほん、本題に戻って、告白の返事をするよ。」



 昼休みの時は言えなかったけれど、今、やっと言える。



 「俺も、充のことが好きだ。親友以上の存在だと思ってる。


 だから......恋人になりたい。」



 「えっ、マジで!? 本心で言ってる?気を遣ったりしてないか?」



 「うん、俺の本心だけど、何で驚いてるの?」



 「だって、同性って時点で、嫌がられるかと思ったから。広樹は女子にモテるし、俺なんか選ぶ必要ないじゃん!」



 「全く、充は強気なんだか、弱気なんだか分からないな。」



 「経験がないもんで、恋愛に関しては臆病者だぜ。ちなみに......告白を受け入れた決め手は何だ?」



 今まで過ごして来た時間と答えても、多分、納得されなさそうだな。


 それなら、恥ずかしいけれど、チョコの話をしようかな。



 「前に、充がチョコをくれたよね?」



 「あぁ、ちなみにお返しは未だ貰ってないけどな。」


 

 「うっ、後で俺の家に寄ってくれたら渡すよ。朝練と告白の返事を決めるので、精一杯だったんだ。」


 「なる程な〜。話の腰を折って悪かった、次に進んでくれ。」


 

 「あのチョコは手作りで、しかも俺の好きな野球の道具をモチーフに作ってくれた。


 初めて挑戦するにはハードルが高かっただろうに、俺の為に頑張ってくれたのが、すごく心に響いたんだ。」



 「そう言われると、苦労してチョコを作った甲斐があったぜ。」



 「勿論、チョコだけじゃない。俺の写った写真を一番に選んでくれたことも嬉しかったよ。


 あと、以前は動く被写体を撮るのが苦手って言ってたのに、俺の写真はブレてなかったから、努力したんだろうな〜って感じて......」


 

 「なっ、そんなことまでバレてたのか!?恥ずかしくて、死にそう。」



 「俺は充が俺の為を思ってしてくれた行動とか、充の世話焼きなところ、努力家なところ、実は真面目なところ、全部が好きだよ。


 間違いなく、親友を超えた、特別な存在だと思ってる。」



 「一部小馬鹿にしてる気もするけど、おれの色んなところを好きって言って貰えるのは、嬉しいぞ。


 あっ、寒くなって来たし、そろそろ帰ろうぜ。でも、ただ帰るんじゃなくて......」



      《手を繋ごう!》



 「ははっ、俺達、ハモったなw」



 「やっぱり、手を繋ぐのは恋人特権だし、おれもやってみたくなってさ。」



 「分かる〜、とりあえず俺の家の前まで、このまま帰ろうよ。」



 「良いけど、広樹の家って近すぎないか?すぐ着いてつまんないぜ。」



 「じゃあ、脇道から、遠回りしてく?」



 「賛成〜。そんで、広樹の家に着いたら、お返し、期待してるからな!」



 「充のに比べたら、大したものじゃないけど、きっと、喜んでくれると思うよ。」



             happy end♡

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チョコで届ける恋心(略称:チョコ恋) 一ノ瀬 夜月 @itinose-yozuki

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