チョコで届ける恋心(略称:チョコ恋)

一ノ瀬 夜月

前編 充のバレンタイン


 ※この物語には、BL要素が含まれています。苦手な方は、ブラウザバックを推奨します。

 

 今日、2月14日はバレンタインだ。一般に、女性が好意を持つ男性にチョコを贈る日とされているが......男のおれも、チョコを持って来ていた。


 べっ、別に外国では、男性が女性にチョコを贈る事もあるらしいので、おれがチョコを渡すことは、可笑おかしくはないはずだ。


 ただし、おれの場合は、相手が同性なのだけれど。



 「みつる、おはよう!待たせてごめんな。朝練が無いから気が緩んで、寝坊してさ〜。」



 「広樹ひろき、おはよっ。てか最近、広樹が寝坊すること多くね?まぁ、今の時間なら、何とかなるか〜。」


 

 「本当にごめん!冬の朝は冷えるから、布団から出るのがキツくて......」



 「分からなくないけど、それ、野球部の朝練は大丈夫なのか?」



 「朝練の時は、親に起こして貰ってるから平気。でも、そろそろ寝起きの悪さを治さないと、親や充が大変だよな?」



 「いや、本気で責めてねえよ!それにっ、」


 

 登校中、二人で他愛もない話をする、この時間が好きだから。......なんて、広樹の前で言えねぇよ。


 

 というか、平静を装うのが精一杯で、チョコを渡せる状態じゃないぞ。



 仕方ない。隙を見て、学校で渡すか。


 

 「......充、どうしたの?急に黙って。」



 「いや、何でもない。早く行こうぜ。」



◇学校にて



 「うわっ、下駄箱にチョコ入ってるぞ。広樹、モテてんな〜」

 


 「いやいや、これは義理チョコだよ。ほら、に配って欲しいって、書いてあるし。」



 「あぁ〜確かに。でも、広樹の所に入れるって事は、特別視されてそうだけどな。」


 

 「う〜ん、言葉や形にして気持ちを伝えてくれたら、俺もきちんと返すけど、あやふやなのは気にしないつもり。」


 

 「意識しすぎて、勘違いするのを避ける為か?」


 

 「うん、その方がお互いの為になるもん。」



 今のやりとりで、広樹にチョコを渡すハードルが上がった気がする。



         ✴︎✴︎✴︎


 

 今は、五時間目と六時間目の間だけれど......マズいな。


 校内で人気ひとけのない場所が存在しない上、広樹もクラスメイトと話していて、隙が無い。


 

 もう、放課後に空き教室へ呼び出す位しか思い浮かばないぞ。


......てか、今日に限って、広樹の周りに女子が居るな。少し会話を聴いてみるか。


 

 「広樹君って、男女両方から好かれてるよね〜。」


 「そう?俺、充や野球部以外だと、あまり交流は広くないと思うけど......」


 「ほら、文化祭の時、女子と男子の間を取り持ってくれて、助かったよ〜。ありがとう!」


 「あの時は、役割分担で意見が割れてたから、バランスの良い案を出しただけだよ。


 ちゃんとまとまって、俺も安心したのを覚えてる。」


 「だね〜。その件とか、諸々の感謝を込めて......はいっ!広樹君にチョコあげる〜。


 もし、来年も同じクラスになったら、頼りにさせて貰うね!」


 「わざわざありがとう。来年はまだ分からないけど、このクラスで、もっと思い出を作っていきたいな。」


 「もちろん、球技大会とか頑張ろ!またね〜。」


 今、広樹がチョコを貰っていたよな?会話からして義理だと思うけれど、本命の可能性もある。


 ......おれは、断られる事を覚悟して、直接広樹にチョコを渡せるのか?

 

 

 「席に着いて〜。授業を始めますよ!」



        "ザワザワ"


 

 「充! 俺、教科書を忘れたみたいなんだ。それで、充のを見せて欲しくて......」



 「減るものでも無いし、良いぞ。じゃあ、机を近づけるからな。」



 「ありがとう。なんか今日は、普段より充に迷惑をかけてて、ごめん。」



 「おれ以外の前だと、運動が出来て、性格が良くて、加えてつらも良い、弱点が無さそうな奴なのに、不思議だな〜。」


 

 まぁ、このギャップが一番の魅力だと思うが。


 

 「そんなに凄い人じゃないよ、俺は。確かに、あまり俺のことを深く知らない人は、過大評価をしてくるけど。」



 「まぁ、一緒に居る時間が長くなる程、自然と互いのことが分かってくるものか。」



 「うん。だから俺達が一番、互いのことを理解していると思うよ。」



 「そう......かもな。」


 

 一理あるが、全肯定は出来ない。何故なら、広樹はおれの気持ちに気づいていないのだから。



         ✴︎✴︎✴︎



 放課後になったな。よし、広樹を空き教室に呼び出すか。



 「広樹、今から一緒に、隣の空き教室に来てくれないか?用事があるんだ。」



 「う〜ん、今すぐは無理かも。掃除当番があるから、終わった後に急いで向かうよ。」


 

 「オッケー、また後で会おうぜ。」



 運が悪いぞ。ただでさえ、当番で時間を浪費しているのだから、広樹は直ぐにでも部活に行きたいはずだ。


 なのに、態々わざわざ時間を貰うからには、気持ちを整理して、簡潔な告白をしないと。



 初めて、おれが広樹への好意を自覚したの

は―――


 

◇ニ年前


 「はぁ〜最後の体育祭が終わっちまったな。おれにも何か、桃色イベントが起こるかもと期待してたのに!」



 「充、やっぱり体育祭って、告白とか多いの?」



 「広樹、当たり前だろ?きっかけがあれば、人は行動しやすくなるんだぜ。」



 「なる程......それで俺に告白してきた訳か。」



 「告られたのか!? 相手は誰で、返事はしたのか?」



 「相手はうちの学級委員長で、返事はまだだよ。一週間位待って欲しいって言ったから。」



 「へぇ〜委員長なのか、広樹に告ったの。」



 確かに、彼女が広樹を好いているって、噂で聞いた事がある。



 加えて、彼女は美人でしっかり者だし、イケメンだけれど抜けている部分がある広樹には、お似合いで......



 あれっ?親友に恋人が出来るのに、何で喜べないんだ?



 それどころか、胸の中がモヤモヤして、不快な気分になる。おれは一体、何を忌避きひしている?



 親友が彼女を作って、リア充になる事が妬ましい......訳では無いな。



 むしろ、おれは のかもしれない。



 彼女の人柄は悪くない。逆に、周囲から尊敬される様な子だと思う。

 


 けれど、彼女が広樹と付き合って、唯一無二の座につく事は許せない。



 つまり、おれは広樹の特別になりたいのか?幼馴染兼親友という、深い関係にも関わらず?



 それって、おれ、広樹を親友以上の存在として認識しているのか!



 親友より上は......恋人?いやいや、男同士だぞ、おれ達。



 けれど、もし叶うのであれば、【広樹と最も濃密な関係になりたい。】


 こんな風に思う事を、どうか、許して欲しい―――



         ✴︎✴︎✴︎


 原点を振り返れて、気持ちの整理が出来たな。


 後は、広樹にチョコを渡して告るのみだ!玉砕覚悟で特攻するぞ。



        "ガチャン"

 


 「充、待たせたよね?ごめん。」



 「いや、あまり待ってないぜ。むしろ、気持ちの整理をする時間がとれて良かった。」



 「えっ、重大な話なのか?例えば、俺が迷惑をかけてるから、距離を置きたい......みたいな?」

 


 「全っ然違う!ほら、今日ってバレンタインだし、広樹にチョコを渡そうと思ったんだ。」


 

 「付き合い長いけど、チョコをくれるのは初めてだな。俺は甘党だから、嬉しいよ。ありがとう。」



 「受け取ってくれて、安心したぜ。でも、話は未だ続くから、ここに居てくれ。」



 「分かった、最後まで聞くよ。」



 覚悟はしていたが、いざ本人を目の前にすると、言葉に詰まって、流暢りゅうちょうに話せない。


 でも、直接伝えるんだ、この想いを。



 「おれは、ずっと前から......広樹のことが、恋愛対象として好きなんだ!


 だから、おれは広樹と、親友を超えた関係に......恋人に、なりたい。」


                 

                 続く 


 

 次話は、3月14日に更新予定です。

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