screw
チカラシバ
プロローグ
航海日誌0日目
「ようこそ、海の世界に」
こっちを振り返ってにんまりと笑った伯父さんの顔は、昔お母さんが見せてくれた写真のなかにいた、あの小さな少年とまったく変わらない笑顔だった。
どこまでも見渡せてしまいそうなほど透き通っているのに、それ以上にどこまでも際限なく広がっている青く透明な世界。そこには、色とりどりの巨大なサンゴ礁がまるで森のように広がっている。その間を優雅に泳ぐのは、たくさんの魚たち。それは、俺の手より小さなサイズから、俺の、俺ら人間の大きさを当たり前に越えるような大きさのものまで。
そんな光景が、大きな大きなガラス越しいっぱいに広がっている。
俺はその光景に釘付けになったまま聞いた。
「お、伯父さん。これってなんなの、何が起こってるの?」
突然に家を、人を、町を、全てを飲み込んでいった大波。それだけでも理解不能なのに、伯父さんの家の床がぽっかり口を開けて、そこに突き落とされた。真っ暗で冷たくて、転がりながらジェットコースターのように上がったり下がったりを繰り返し、そして吐き出されるようにして辿り着いた先に現れたのは、あっちこっち点滅するボタンや、壁一面に複雑に張り巡らされた配管。プシュッ、と謎の音が聞こえる天井。
そして、真正面にはいつかみた水族館の巨大な水槽のようなガラス張り。でもそれとは比べ物にならない程の迫力を感じる。
その真正面に立っていた伯父さんは、何十回も、下手すると何百回も前転しながら転がったせいで上手く立ち上がれずに床にへたり込んでいる俺に近づいてきて、脇の下に腕を入れ持ち上げるようにして立たせてくれた。それから俺の肩をドン、っといつものように力強く叩き、そして言った。
「未知への冒険、あるいは終わりへの旅だな」
興奮で上擦った声。爛々と輝く瞳は、俺と同じように外の景色を見つめている。答えているようで答えになっていないその言葉。
今の俺にはその言葉の意味を考えることはできない。
あまりにも一遍に色々なことが起こりすぎて、正直息をするのだって精一杯だ。
だけど、何か、とんでもなく刺激的な何かが始まった予感がする。
screw チカラシバ @ambrostar
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