別に君のためじゃないし

ナナシリア

別に君のためじゃないし

 二月十四日。


 紛れもなく、なにもない日だ。


 今年で言えば東京都立高校の志願変更最終日だが、わざわざそれを気にする場合は少ない。


 だから、なにもない日だ。


 たまたまショッピングモールでチョコレートがピックアップされてたり、たまたま学校でチョコレートを贈りあう人が多いだけの日。


 それが俺自身に直接的に関与することはなく、俺からしてみればなにもない日である。


 なんでもなく授業が進んで、なんでもなく一日が終わる、なんでもなく下校しようとする。


「宮川、どうせあんたはチョコ貰ってないでしょ?」


 普段通り、クラスメイトの女子が俺に話しかける。


 名前は、佐藤芽依。


 毎日話したりする仲ではなく、だからといって話す機会が少ないわけでもなく、友達というべきか曖昧な関係性。


「それ、どういう意味?」


「義理チョコあげるって意味。余ったから」


 彼女は少し厳しい口調ながらも、根は優しい。


 素っ気なく差し出したチョコが余りものでないことは、誰の目から見ても明らかだ。


 なぜなら、ご丁寧に「宮川」と書かれたカードと共に渡されたから。


「余りものっぽくは見えないけど……ありがとう」


「え、なんで」


「なんでって?」


「なんで余りものじゃないってわかったの?」


 どうやら名前付きカードまで渡してしまったのは過失らしく、俺は受け取ってしまったカードを見せつける。


 瞬間、佐藤は一気に顔を赤面させる。


「じゃあ、裏も読んだ?」


「裏?」


 言われて裏を見ると、そこには手書きの長い文章が。


 俺は興味を惹かれて、その文章を読む。


「ラブレター?」


「読んでなかったんだったら読まなくて良かったのに……」


 俺が顔を上げて佐藤の顔を覗き込むと、佐藤はゆでだこのように真っ赤になっていた。

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別に君のためじゃないし ナナシリア @nanasi20090127

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